ミルハウストから継いだ思いを胸にヴェイグ達は先へ進む。
彼に譲られた長い階段を上りきり、ようやく王の聖所へと辿り着いた。


ココは、カレギア初代国王ゴルドバの即位式が執り行われ、以来王家の聖所となった場所だ。

そこは『聖獣の間』と造りが似ていた。





カレギア国の王家の聖所。

そして、ゲオルギアスの眠る場所。





「・・・皆、準備は良いな?」

ヴェイグが確認の声を上げる。
だが、一同が頷く前に別の声が聖所に響き渡った。



「お前達には聖獣王の力は渡さぬ」


女の声だ。

聞こえた方向を見る。そこは壁だった。
行き止まりから何故声が。そう思った瞬間、壁の一部が上に持ち上がった。

・・・隠し部屋だ。その奥から、ジルバが出て来た。



鞭を片手に持ち、もう一方の手に軽く打ち鳴らす。パシパシと軽やかな音が静かな空間に響いた。



「聖獣王の力を手に入れ世界を救うのはこの私だ。・・・・・・だが、」

ニヤリと妖艶に口元が歪んだ。


「その世界にヒューマはいない!」
「何だと!?」


「この地上から愚かで醜いヒューマという不純物を取り除き、ガジュマだけの国を作るのだ!」


想像してごらん、とジルバの言葉が続く。



「選ばれし民、ガジュマの国・・・ガジュマだけが生きる理想の国・・・カレギア・・・
 ・・・・・・その理想の国を、私が導くのさ!!」

「何が理想だ!ふざけんじゃねぇっ!!」


ティトレイが噛み付いた。
しかし、ジルバは気にも留めずに更に続ける。


「お前達が何と言おうとそれが聖獣王の意思・・・私こそが聖獣王に選ばれし者なのだ!!」


高笑いが響く。
同時に、掌に鞭を打ち鳴らす音。






パシ、パシ、パシ・・・






その軽やかな音をアニーは何処かで聞いた。

一体何処だっただろう。








パシ、パシ、パシ・・・











「・・・・・・・・・!」









ふとその仕草が父、ドクター・バースの姿と重なった。












「・・・お父さん・・・?」
「まさか・・・!」


ユージーンも気づいたようだ。





「バースのラドラス陛下に対する謀は・・・ジルバ、全てお前の仕業だったのか!」
「・・・もはや隠す必要もあるまい」

ジルバが、笑った。



「お前の想像通りさ、ユージーン。ドクター・バースの身体と入れ替わり、
 ラドラスに毒を盛ったのも、お前を殺そうとしたのも、この私・・・・・・」



「・・・入れ替わりだと!?まさか・・・お前も月のフォルスを・・・!?」
「・・・そういう事さ」

ドクター・バースの一件は全てが自分の謀であるとジルバは笑って言った。


月のフォルスでドクター・バースと入れ替わり、ラドラスを病死に見せかける為に『薬』と称して毒を盛り、
その真相に気づきかけたユージーンを殺そうとナイフを握ったのも全て自分なのだ、と。



「まさか逆に刺されてしまうとは思わなかったがなぁ。
 ・・・まぁ、結果的に邪魔者が排除出来た事には変わらない・・・」







「・・・貴方が・・・・・・貴方がお父さんを・・・・・・」
「おのれジルバ!!」


ようやく辿り着いた真実。

アニーの身体がよろめく。そのまま、後ろに居たティトレイに支えられた。
その姿を見て、滑稽だとばかりにジルバが笑い転げる。



「感じるだろう?聖獣王はまもなく復活する!ヒューマを滅ぼす為に!!
 ・・・アガーテを使っての復活には失敗したが、今度は、今度こそは・・・!!」


その言葉に、ピクリとが反応した。

「アガーテまで、利用したのか・・・!」
「あぁ、その通りさ。ホーリィ・ドール」

ジルバが嘲笑う。




「ヒューマの身体が欲しければゲオルギアスを甦らせろ。ひいてはそれが国の為だと囁くだけで、
 全てが面白いように転がったよ。・・・お前が生きているのは計算外だったがね」

を睨みつけて、忌々しげに言葉を放つ。



「ふん・・・サレめ・・・まったく使えないヒューマだったよ」












サレ・・・・・・




彼が言っていた言葉を思い出す。








。君、ココに死にに来たんだって?』







・・・・・・そうだ。どうして、サレ様が『その事』を知っているのだ?
















「・・・・・・お前・・・サレ様に・・・何を吹き込んだ・・・?」





「何、簡単だよ。お前の人形を助けたければユージーン達を始末しろ、と言ったのさ」


ゆっくりと紅玉の瞳を見開く




「・・・あとはトーマが隙を衝いて二人仲良く葬れば、めでたしめでたしだったんだがね」















トーマの言葉を思い出す。







『・・・フン、お前が先か。サレ』












コイツらは、最初からサレ様を殺す気で・・・・・・・・・


























「だが、時間稼ぎすら出来なかったようだよ、あの役立たず共は。
 ・・・まぁ、小汚い人形に心奪われたような愚かなヒューマだ。期待したアタシが馬鹿だったってコトだね」



「―――――――――― !」













の膝から力が抜ける。立っている気力が奪われる。









床に座り込む前に、落ちる腕をガシリと掴んだ者がいた。





ヴェイグだ。







「皆の気持ちを利用したのか・・・・・・」
「今更気づいたのかい?」


目を細めて、嘲笑を浮かべるジルバ。
ゆっくりとヴェイグは大剣を抜いた。マオ達も、それぞれの武器を構える。




「お前のような奴に、ゲオルギアスの力は渡さない!!」




































1VS6の戦い。


それでも、ヴェイグ達六人は苦戦を強いられた。

ジルバは強かった。鞭も導術も月のフォルスも。





アニーが広間の床に陣を描く。そこへ、ジルバの鞭が迫った。


「アニー!」

咄嗟にティトレイがアニーの前に出て、鞭から庇う。
ティトレイに遮られて動きが止まると思いきや、鞭は獲物を見つけた蛇のようにグルリと腕に絡みつく。


「邪魔だよっ!!」

腕に喰いついた鞭をジルバが手前に引く。ティトレイの身体が釣られ、そのまま床に叩きつけられた。
思い切り身体を床に打ち付けたが、直前で受身を取ったために強い衝撃に対して、それほどのダメージは無い。

だが、全身に痛みが伝わり身体が軋む。



「ティトレイ!」

マオは叫ぶと、既に詠唱に入っていたヒルダの後を追い詠唱を始める。


「遅いんだよっ!」


ジルバが鞭を弧を描くように振り上げる。
その弧が、三日月に変化した。


三日月は衝撃波となってマオとヒルダに襲い掛かる。


その間に、背後に廻っていたヴェイグが大剣を振り下ろした。
しかしジルバは背を向けた状態で、こちらを確認もせずに難なくその刃を鞭で受け取った。


「何・・・!?」
「舐めんじゃないよヒューマがっ!!」

大剣を弾き返して、鞭をヴェイグに打ちつける。
吹き飛ばされたものの、床に叩きつけられる前に身体を反転させて体勢を立て直した。


同時に起き上がったティトレイと二人で再びジルバに向かう。
二人を援護してマオとヒルダが導術を放った。


二人の術にジルバが気を取られた隙に攻撃を叩き込む。


「瞬連塵っ!」
「牙連撃っ!」

ヴェイグの刃が、ティトレイの拳がジルバの身体に喰い込んだ。
だが、まだ大したダメージが与える事が出来なかったようだ。

反撃にジルバから強力なネガティブゲイトが放たれる。防御して、何とか防いだ。











アニー・・・まだか・・・!!
















ヴェイグ達の祈りが、届いたのは直後だった。






「ジルバっ!!」

高らかに名を叫ばれ、ジルバは振り返る。
視線の先にいたのは巨大な法陣を描ききったアニーだ。


その陣の中心にはユージーンがいた。




「・・・しまった!」

ようやくジルバは気づく。



今まで自分が相手をしていた四人は時間稼ぎに過ぎなかったのだと。





ユージーンが駆け出してくる。その手には槍。




「フォルスの光よ 我らに力を!!」
「刹那は無限 その一瞬に全てをかける!!」


アニーの唱えで槍が光に包まれる。ユージーンの呼びかけでその光が槍へと溶け込む。


ジルバは足掻いた。月のフォルスで生んだ『月』をいくつもユージーンへと飛ばす。
ユージーンの槍は向かってくる月を容易く打ち砕いてなおも駆けて来る。
最後の月を両断して、ジルバを間合いに入れた。


槍の穂が真っ直ぐに向かう。



「翔破裂光閃!!」


無限の刹那、槍がジルバを貫いた。





























ジルバが悲鳴を上げて崩れ落ちる。
身体に負った傷口から、夥しい量の思念が溢れ出す。


思念は浄化したはずだ。なのに、これ程までの思念を身体に抱え込んでいたとは。

・・・コレはジルバが内に潜ませ、蓄積してきた憎悪の心なのだ・・・と、は確信した。



「癪だね・・・癪だよ!この私が・・・・・・私の夢を・・・メチャクチャにしやがってぇぇぇぇぇっ!!」


邪気と憎悪に浸り、ジルバが叫ぶ。

言葉と共に、血が蒸発した。




ジルバは、思念に体を完全に蝕まれていた。





「・・・やはり・・・やはりあの時、お前を殺しておくべきだった・・・
 ・・・ユージーン・・・ユージーン・・・・・・ユージーン・ガラルドぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」


ユージーンを呪い殺さんとばかりに睨み上げる、ジルバ。







「ジルバぁっ!!」



ユージーンとは違う方向から声がする。そちらを見ればアニーと
溢れる怒りがこちらに向けられているのを、ジルバは確認した。


あぁ、何と心地良い眼差しだろう。


「私の首を獲りたいかい 小娘共?」

問われて、アニーとは自身を抑え込んだ。



今ココでジルバを討てば、自分達はジルバと何ら変わらなくなってしまう。




手が出せない二人を見て、高らかにジルバは笑う。
思念に犯された身体がゆっくりと灰のように白くなっていく。


それでもジルバは笑った。



「良いねぇ、親子愛に主従愛・・・泣かすじゃないか・・・・・・」


笑うことを決してやめない。





最期に、吐き捨てて叫んだ。






「反吐が出るよっ!!」



憎悪の言葉と共に、思念が抜け切る。
まるでそれに色素を奪われたかのようにジルバの身体は髪も、腕も、足も、全てが白くなった。







「・・・お父さん・・・」
「・・・サレ様・・・・・・サレ様・・・」


ジルバの死を見届けて、アニーとは想い人の名を呟いた。



「アニー・・・・・・


ヴェイグが声をかける。
俯いていた二人が振り返って頷いた。


強い瞳が向けられる。


「大丈夫だ。ヴェイグ」


悲愴な気持ちに浸っている暇など無い。
ココには仇討ちの為に来たワケではないのだから。












「・・・始めよう」



暗躍する影の巻。

サレがあそこまで夢主を獣王山に入れまいとしていたのはジルバにそそのかれていたから。
「夢主の命は僕のモノだから」とか言ってたけど何だかんだで守ろうとしていた感じです。

前回に引き続き、夢主が戦ってないので目立つ要素が無いですね・・・仕方ない、仕方ない・・・(自己暗示)

散々悪い事やった悪役の鏡だけど、ジルバ様勇ましくて好きだなぁ^^