はサレを己の膝に寝かせていた。
どのくらい、そうしていたのだろう。
目を閉じさせ、血を拭ったサレの顔は命を奪われたにしてはあまりにも穏やかで、眠っているようにしか見えない。
その姿を忘れないように目に、心に焼き付ける。
もしかしたら、ずっと前から・・・もっと早く、こんな風にしたかったのかもしれない。
・・・今となっては分からないが。
「サレ様・・・見ていてください」
そっと膝から冷たくなった頭を下ろす。
ゆっくりと立ち上がって、眠るサレの顔をしっかりと見据えた。
「貴方の否定した世界を・・・・・・再誕させて見せます」
は前を見る。ヴェイグ達が、待ってくれている。
・・・もう私は独りじゃないんだ。
世界の再誕の為、仲間と共に。
は歩き出した。
王家の聖所を目指し獣王山の入り口を潜ってから、皆 無言でいた。
沈黙と化した重たい空気に耐えられなくなったマオが、ポツリとティトレイに耳打つ。
「・・・ねぇ、ヴェイグと・・・またギクシャクしちゃったね・・・」
せっかく仲直りできたのにさ・・・と前を歩く話題の二人を一瞥する。
「・・・そりゃ、あんな事があったらな・・・・・・」
「アンタ達。野暮な事言うんじゃないわよ」
ヒルダの一言で二人が黙り、再びの沈黙が訪れた。
「・・・、すまなかった」
マオ達がそんな話をしている頃、ふとヴェイグが呟いた。
「・・・・・・を守ると言ったのに・・・あの時・・・お前を守ったのは、サレだった・・・」
「・・・仕方がなかった事だ」
俯いてギュッと手のハンカチを握る。
とても儚く、ヴェイグには見えた。
「・・・・・・・・・その・・・」
軽く目を伏せてから、ヴェイグは切り出した。
「お前が何度置いていかれても・・・俺は、ずっと待っているから・・・」
「・・・ありがとう、ヴェイグ」
今はそれだけで充分だ。
「行こう、ゲオルギアスの元へ」
「・・・あぁ」
は頷いて、新たにもう一歩踏み出した。
階段の先に出口が見える。アガーテが指を指した。
「この先が、聖所に繋がる広間です」
「よっしゃ!皆、覚悟は良いな!!」
ティトレイの言葉の後、階段を上った。
階段を上りきった先に広がっていた広間の先には、更に聖所へと続く階段がある。
その前に立ち塞がるのはミルハウストだった。
「これより先は行かせん」
道を遮る彼の元へ、アガーテが歩む。
「陛下」とミルハウストが呟いた。
「どいてください、ミルハウスト」
「・・・なりません、陛下」
「・・・私の頼みでもダメだと言うの?」
『命令』ではなく、『頼み』。
アガーテは自分の家臣ミルハウストに命令しているのではない。
自分の大切な幼なじみの、ミルハウストに頼んでいるのだ。
だが、ミルハウストは首を振った。
「・・・お下がりください」
「ミルハウスト・・・」
スッとアガーテの前にヴェイグが進み出た。
「俺達はこの世界を救う為にここまで来たんだ」
前に出たヴェイグの瞳を、ミルハウストは見つめる。
真っ直ぐで強い、蒼色の瞳。
迷いを消した 決意の目
「・・・良い目になった。・・・・・・もう言葉は要るまい」
そう言って剣を抜く。
「待って!通してください!!」
「下がっていろ、アガーテ」
ヴェイグも大剣を引き抜いた。
「勝負だ。 ミルハウスト」
二つの剣が交差した。
「我は誓う。 我が剣は 我が主の為に」
もはや口癖のようになった誓いの言葉。国を民を守ると誓うミルハウストの信念。
全ては愛する者の為に。主の為に。
・・・私の守るべき主は誰だったか。
交差した刃が互いを弾き、離れる。
先に動いたのはヴェイグだった。大剣がミルハウストに迫る。
難なくそれを弾き返し、続いて自身の剣を横に振るう。
受け止めたヴェイグは刃を押し返してから、間合いを取ろうと後ろへ下がった。
しかしそれをミルハウストは許さない。一気に間合いを詰めて再び剣を薙ぐ。
ミルハウストの刃がヴェイグを捉える。・・・が、それは残像。
背後に回ったヴェイグは大剣を振り下ろした。
「幻龍・・・」
「甘いっ!」
素早く反転したミルハウストはヴェイグの刃を剣の腹で受け止める。そのまま弾き返し、衝く。
突きを横に避ける事でギリギリにかわし、ヴェイグも反撃する。
また、刃が交差し、鍔迫り合い。
「見事だ・・・!」
ミルハウストは思わず称賛の声を上げた。
迷いを消し去ったこの男の剣はこんなにも強いのか。
ならば自分は? 私はどうなのだ?
グッとヴェイグが一歩進んだ。押し負けて、ミルハウストが一歩後退する。
「・・・アンタは俺に言った・・・俺の隣にクレアの居場所はあるのか、と・・・」
また一歩、押し負ける。
「あの時の俺は、姿の変わったクレアの全てを受け取る事が出来なかった・・・」
ヴェイグの腕に力が入る。
「だが・・・仲間やスールズの人達・・・・・・出会った人達が・・・教えてくれた・・・本当に大切なものが何なのかを・・・」
一歩、二歩。ミルハウストが押し返される。
ヴェイグの握る大剣が、太刀が非常に重く感じられた。
弾き返せない。受け取るのが精一杯だ。
だが、負けるわけにはいかない。私は愛する国を、民を、主を――――――――
「ミルハウスト。 今のアンタの隣に、アガーテの居場所はあるのか?」
「・・・!」
陛下の居場所?
何を言う。私はいつだって陛下を思っていた。
愛する国と民を守っていたのだって、全ては陛下の為に――――――――
――・・・違う。
ならば、私は何故陛下に刃を向けているのだ?
私は迷っているのか?何に?何故?
私が守ると誓っていた国は民は陛下はココに・・・・・・
――――違う。 私の主はアガーテ女王陛下ただ一人。
ではその主は何処だ。
・・・・・・あちらに、居られるではないか。
チラリと横目に金の髪の少女を見る。不安そうに私達を見守る少女。
ずっと私は逃げていたのだ。愛する国と民を言い訳にして。
一番守りたいと思っていた・・・・・・アガーテ女王陛下から。
高い音を響かせてミルハウストの剣が宙を舞う。
くるくると回って飛んで、遠くの床に突き刺さった。
「・・・アンタと俺は似ている」
ヴェイグは言った。
クレアを守れなかったヴェイグ。 アガーテを守れなかったミルハウスト。
そしてそれを悔やみ、己を追い詰めた二人。
・・・とてもよく似ていた。
「・・・確かに・・・私とお前は・・・似ているかもしれない。・・・・・・だから・・・」
ミルハウストはヴェイグを見た。
「・・・・・・お前を見ていると、自分を見ているようで・・・歯痒かったのだ・・・!」
「ミルハウスト・・・」
アガーテが呟いた。
「・・・だが、お前は迷いを断ち切った。・・・・・・私は・・・」
迷いを拭えていない。
「・・・私とお前の何が違うのだ・・・!?」
「・・・何も違わない。俺には仲間がいる。・・・そして、アンタにも・・・・・・」
ヴェイグの視線の先をミルハウストも見る。
アガーテがこちらを見つめていて、目が合った。
「・・・陛下」
「・・・・・・・・・」
ゆっくり、アガーテが頷いた。
「・・・ヴェイグ」
ふと、躊躇いがちに声がかけられる。
ミルハウストが遮っていた道から、クレアが歩んで来た。
「・・・クレア?どうして・・・・・・」
「・・・無理を言って、ミルハウストさんについてきたの」
クレアは続けた。
「私・・・一言ヴェイグに謝りたかったから・・・」
「謝る・・・?何を・・・・・・」
キョトンとするヴェイグにクレアは言った。
「・・・・・・苦しんでるヴェイグを置いて去った事。
・・・・・・私、あの時ヴェイグの傍に居たらダメだって思ったの」
ヴェイグが苦しむから、いなくなる事がヴェイグの為なんだ、と・・・そう思っていた。
「でも・・・そうじゃないよね・・・・・・私は逃げただけだった・・・・・・・・・ごめんね・・・」
「そんな事は良いんだ、クレア。悪かったのは俺だ」
ヴェイグが返す。
「・・・言わなければわからない事もある。そうティトレイに言われた・・・
・・・・・・俺が何も言わなかったせいで、お前を苦しめてしまった・・・・・・すまない」
「・・・ヴェイグ」
真っ直ぐにクレアを見た。
「・・・・・・これからは、俺と一緒に悩んでくれるか?」
「・・・どうしてそうなるの?」
クスッと笑うクレアに意味が分からず、眉を寄せた。
「今までだって、一緒だったじゃない」
そう言ってクレアは微笑んだ。
「笑ったり、悩んだり、怒ったり・・・ずっとヴェイグと一緒だった」
小さな頃からずっとずっと一緒だった。
「これからも、同じでしょ?」
「クレア・・・・・・」
ヴェイグとクレアは互いを許した。再び絆を取り戻す事が出来た。
それを見届けてから、プイッとが顔を背けた。
マオが、気づく。
「・・・?」
「・・・・・・別に。 何でもない」
キィと鳴いて、を慰めるようにハープが身体を摺り寄せる。
別に、ヴェイグとクレアの事が気に食わないわけではない。
ただ・・・・・・
「ただ・・・羨ましい、と思ってな・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・大丈夫」
は頷く。
「ミルハウスト。・・・行かせてくれるか?」
「・・・信じて、良いのだな」
頷く事で返事をする。
「クレアを頼む」
ミルハウストは了承すると、道を開けた。
「・・・行こう」
ゲオルギアスの元へ。
和解の巻。
今回はサレ×夢主から始まり、ヴェイグ×夢主とミルアガ。
ミルアガ好きなんだ・・・!!
と、いうかミルアガはTORにおいて大変重要な関係だと思うから厳かにしたくないのです。
ユージーンとアニーも「怪しい関係」スキットのあったティトヒルだって重要部分だと思う。
何処も削りたくは無いんですよね・・・ホントは。(フランツさんのトコもやりたかった・・・)
ヴェイグの言う「待ってる」は決して夢主を置いていかないという意味。
どんどん先に行っていたサレと、それを後ろから追いかけていた夢主の関係。
それに対してヴェイグは夢主と共に歩みたい、もし先に行ってしまった場合は夢主を待っている。
ヴェイグは「隣」でサレは「前後」。
ヴェイグとサレ。常に対照的な存在。
ところでミルアガは小さい頃からの幼なじみって設定を
公式の何処かで聞いた気がするんだけど・・・何処だったかな・・・・・・?
もしも違った場合は笑って流してやってください。とりあえず、この小説では幼なじみ設定。