声が聞こえる。 あの声だ。
国が安寧の未来を向かえる為の救いの声。私に使命を与えてくれる神の御言葉。
『全ては破滅の予兆にあらず 驕れる種を滅ぼし 新たな世界へ生まれ変わらんとする大地の発する歓喜の叫びなのだ』
わかっております。轟く大地は再誕の産声なのですね。
『迷うな・・・カレギアの為に・・・・・・聖獣に操られた者共を獣王山に近づけるな・・・・・・』
承知致しました。全てはカレギアの為に。愛する国の為に。
・・・誇り高きガジュマの為に。
「出動命令?」
『アガーテ』の言葉にミルハウストは肯定して頷く。
「獣王山へ。・・・・・・王家の縁の聖所に、ヴェイグ達が向かっているらしい」
「・・・ヴェイグ!?」
『アガーテ』は大きく驚いた。・・・久しぶりに、その名を聞いた。
「私は彼らを止めなくてはならない。場合によっては・・・・・・・・・」
「ヴェイグ達はこの国を救う為に戦っています!ミルハウストさんと戦う理由なんて・・・!」
・・・・・・・・・その顔でその声でその眼差しで、『ミルハウストさん』と呼ぶか・・・・・・。
「・・・この国を守るのは我々だ。得体の知れぬ者がその秩序を乱すとなれば、尚更」
「でも・・・」
「陛下」
『アガーテ』の声を遮る。
閉口した『アガーテ』を確認してから、懐から出した物を差し出した。
「お返し致します」
『アガーテ』の手に収まったモノ・・・・・・アガーテのピアスだ。
アガーテのモノだから、アガーテに返す。当然の事。
そうだ。この方はカレギア女王、アガーテ・リンドブロム様。
・・・私が御守りしなければならない、女性。
「それでは陛下。行って参ります」
『アガーテ』に一礼して、ミルハウストは銀の鎧を揺らす。
鈍く光るその鎧が、クレアを酷く不安にさせた。
・・・ヴェイグ・・・私にも何か出来る事は無いの・・・・・・?
出動命令を出されたのは正規軍だけではない。
王の盾、そして四星にも伝わった命令だ。
「出撃命令・・・まったく面倒な事この上ないね」
冷たく微笑んでサレは言う。「命令ですよ」とワルトゥがすぐに嗜めてきたが、気にした事ではない。
「おかしいと思いません?僕達は元々王を守る影の軍。
それがこんなにしょっちゅう出動して、ついにはホンモノの女王様に手をかけようとしてる。・・・馬鹿馬鹿しいですよねぇ」
サレの乾いた笑いが部屋に響く。
部屋の隅に佇んでいたミリッツァは音源を一瞥すると、煩わしそうにフッと消えた。
「サレ。私達はこれから国の為に隊長やマオ達と戦う事になるのですよ。心苦しいとは思わないのですか」
「裏切り者に同情なんていりませんよ。・・・まぁ、花くらいは添えてあげようかな?」
そう言ってサレは笑う。
光を通さない冷たい瞳をそのままに。
「良い事を教えてやろう、サレ」
言葉を発したのはたった今部屋に入ってきたジルバ。企む様な、ニヤリと薄い笑みを浮かべている。
「良い事?」
「そう、良い事だ」
ジルバは笑って鞭で掌を数回、軽く叩く。このヒトの癖だ。
さっさと話せば良い。もったいぶるな。という言葉を胸中に留めてジルバの言葉を待つ。
「お前の可愛い人形が死のうとしているぞ」
「・・・・・・?」
瞬間、サレの纏う空気が変わった事にワルトゥは気づいた。
「あぁ、そうさ。ホーリィ・ドールは命を捨てにのこのこ獣王山に向かっているのさ」
「・・・・・・・・・いただけないね」
「サレ、薄汚い人形が気になるのか?」
小馬鹿にした笑みを浮かべて訊ねてくるトーマを一瞥して、答える。
「分からせてやるんだよ。は誰のモノなのかを。・・・・・・・・・勝手は許さないってね」
もう一度冷たく微笑んで、髪を掻き揚げた。
バルカの北に位置する二つの角を持つ大山――――――――それが獣王山だ。
「入り口はこの先です」
アガーテの案内の下、歩けば整備されてある入り口が見えてきた。
ふと、ヴェイグが足を止める。
「・・・この先、何が起こるかわからない・・・」
そう言葉にしたヴェイグにヒルダがため息をついた。
「まさか、また言うんじゃないでしょうね?俺が死んだら・・・なんて」
クレアを救出する為にカレギア城へ潜入した際、ヴェイグが言った言葉。
『俺が死んだら、後を頼む』
そんなくだらない言葉を聞く耳は持っていない。
その意味を含んで発言したヒルダを理解して、ヴェイグが首を振った。
「・・・違う。俺が言いたいのは・・・・・・」
全員を見渡した。
「必ず戻って来よう。・・・全員で」
『全員』 つまりそれは。
「・・・。お前は絶対に死なせない」
俺が守るから
「・・・うん」
「・・・・・・行くぞ、皆」
改めて決意を固めて、一歩踏み出す。
瞬間、声がした。
「この先は王家の聖域。お引取り願いましょうか」
入り口を見る。
・・・ワルトゥが仕込み杖を構えて立っていた。
「ジルバ様の命令により、獣王山に侵入する敵を排除します」
「おやめなさい、ワルトゥ」
アガーテが進み出た。
「ジルバは間違っています」
「・・・今更、女王ヅラですか?アガーテサマ」
ワルトゥに続いて、サレとトーマも現れた。
「国がメチャクチャになったそもそもの原因を作り出したのは誰でしたっけ?」
「・・・確かに、この混乱の非は私にあります、だからこそ、私にはそれを正しい方向へと導く責任があるのです」
「・・・田舎娘の姿をした貴方に何が出来ます?この国で今一番偉いのは、ジルバ様なんですよ」
臆する事無く、アガーテは返した。
「ヒト一人の力がどれほど強いのかを・・・貴方は知らないのです」
「・・・それがヒトの心の力ってヤツですか?」
くだらない。
「だったら、僕はそれを踏み躙るまでさ!ご機嫌だなぁ・・・!!」
そう言って、高笑うサレ。
「サレ様・・・」と小さくが呟くと、笑うのを止め、サレはに冷たく微笑んだ。
「。君、ココに死にに来たんだって?」
「・・・死ぬ予定はありません」
サレから隠すように、ヴェイグがの前に立つ。
「は俺が守る。絶対に死なせない」
「へぇ・・・?」
冷たい瞳がヴェイグを捉える。
ヴェイグを見つめる瞳の中に、激しい憎悪が渦巻いていた。
突然、サレの前にミリッツァが浮かび上がった。今まで、フォルスで光に紛れていたのだろう。
間髪容れずにミリッツァの導術がヴェイグ達に襲い掛かる。
「!」
咄嗟にヴェイグはを自身の身体で覆い、その身を盾にした。
を庇うその姿を瞳に収め、サレの微笑が完全に消え去る。・・・・・・も、それも一瞬の事。
レイピアを取り出して、その切っ先をヴェイグに向ける。
その頃にはいつもの冷たい笑みが端正な顔に浮かんでいた。
「気に喰わないね・・・さぁ、さっさとその腕を放しなよ、ヴェイグ」
サレに従ったわけではないが、ゆっくりとヴェイグはから離れた。
同時に怪我をしてはいないかと、確認をする。
「、大丈夫か?」
「平気だ。・・・ヴェイグは?」
「・・・なら、俺も平気だ」
言葉を返してからサレに向き直る。大剣を鞘から引き抜く。
サレを、四星を見た。
「いい加減、白黒つけようじゃないか」
四星が武器を構えた。
それを見て、アガーテとはヴェイグ達の後ろへと下がる。
にはこの後重大な役割がある。
極力戦闘をするべきではないという事は皆で決めた事だ。
アガーテとを後ろに庇い、ヴェイグ達も武器を構えた。
「今度こそ君達を・・・ぶっ殺してあげるよっ!!」
「皆、行くぞ!!」
ヴェイグ達と四星がぶつかり合った。
ユージーンの槍とワルトゥの杖が交差する。
「ワルトゥ!お前は分かっているのだろう!?ジルバに従う事が正しい道ではないと!!」
「陛下がご不在の今、この国を守っているのはジルバ様です。
ならば私はカレギアの誇り高き軍人として、それに従うまで!!」
クルリと杖を回して持ち替えてユージーンの槍を弾き飛ばす。
その隙を突いて、ユージーンの胴目掛け杖を振り下ろした。
「やらせないよ! フレアショット!!」
マオの放った導術を避ける為に後ろへ飛ぶ。
体勢を整え、ワルトゥがもう一度ユージーンを見た時、再びその手には槍が握られていた。
「そこをどけ!ヒルダっ!!」
ミリッツァの導術を防ぎ切って反撃をするヒルダ。それをかわして、ナイフを投げるミリッツァ。
「もうやめて ミリッツァ!もう王の盾に縛られないで!!」
「王の盾だけが・・・私の居場所だ!!」
ヒルダに叩きつけるように叫んで、フォルスで分身を生み出すミリッツァ。
あっという間にヒルダは取り囲まれた。
「お願いします・・・パワークラフト!」
アニーの法陣で強力になったティトレイの拳がトーマに打ち込まれる。
トーマも同時に、己の強靭な拳をティトレイへ向けた。
二つの拳がぶつかり合って怒号を響かせる。どちらも引く事はない。
「ヒューマにしてはなかなかやるな・・・」
「当然だ!コイツはオレ達の心の力! てめぇなんかにゃ負けねぇよ!!」
その言葉に一つ、嘲笑を送るトーマ。
「フン、くだらんな」
「うるせぇ!ナイラさんの分も・・・殴らせてもらうぜ!!」
ユージーンとマオとワルトゥ。ヒルダとミリッツァ。ティトレイとアニーとトーマ。
それぞれの思いを胸に、戦う。
そして、ヴェイグとサレも。
サレの神速の突きがヴェイグを追い込む。
・・・いや、傍から見ればそう映るかもしれない。
しかしヴェイグは確実にサレのレイピアの動きを見切り、大剣で受け止めている。
それでも『速さ』は若干サレの方が上なのだろう。
大剣はレイピアより僅かに遅く動いていた。
「・・・は俺が守るだって?そんな程度でぇっ!」
「くっ・・・!」
サレのレイピアとヴェイグの大剣が鍔迫り合いになった。
キラリと光る鋭い刃の隙間から互いを睨み合う。
「許さないよ・・・勝手にが死ぬのは!」
「は俺が守る!絶対に死なせはしない!!」
「よくそんなふざけた事が言えるねぇヴェイグ!!」
レイピアが大剣を押し返した。
「クレアちゃんがとても悲しそうに話してくれたよ・・・自分のせいで、ヴェイグがを傷つけたってね!!」
「・・・っだからこそ――――を守る!今度こそ!!」
また二つの刃が交わる。今度は互角だった。
「ハハハ・・・おかしいね・・・おかしいよ ヴェイグ・・・片腹痛いよ!!」
再びサレの素早い突きが繰り出される。
「は僕の人形さ・・・全て僕のモノなんだよ・・・・・・命さえもね!!」
ヴェイグに向けられる激しい憎悪の言葉。独占の主張。
しかし己にぶつけられるその言葉にヴェイグは何処か違和感を感じた。
まるで焦っているような、必死に足掻き、もがくような・・・・・・
コレは・・・サレの―――――――――――――――――― 。
「・・・違う!はヒトだ!人形なんかじゃない!!」
「いちいち煩いんだよ 君はぁっ!!」
叫びと共に神速の突き。細身の刃がヴェイグの頬を掠めた。
ヴェイグが一瞬怯んだその隙に、間合いを取ってサレは導術を放つ。
「シュタイフェブリーゼっ!!」
竜巻が一直線にヴェイグに突っ込んでくる。
憎き敵を喰らおうとする、嵐。
ヴェイグは避けも逃げもしなかった。疾ってくる嵐を見据え、大剣を構える。
ゆっくりと刃を頭上に持ち上げ、刃を支える柄をしっかりと両手で握る。
意識を集中させ、刃に冷気を纏わせる。
・・・やがて冷気は氷となり、刃に張り付く。
剣は『氷の剣』となった。
一方、シュタイフェブリーゼを放ったと同時に疾走したのはサレ。
レイピアを構え直し、ヴェイグの胸を、心臓を目掛け剣を振るう。
君の言う、ヒトの心とやら・・・一突きで貫いてあげるよ・・・・・・
「・・・・・・・・・絶氷刃!!」
嵐が己の間合いに入ったのと同時に氷の刃を振り下ろした。
剣は嵐を真っ二つに切り裂き、氷の刃を風に散らす。
・・・・・・その間合いにサレは居た。
風が主を飲み込む。
無数の刃が風の中を舞い踊る。
一刃、一刃。サレを斬りつけて全身を切り刻む。
その腕からレイピアが零れ落ちた。
情けない。たった一振りで負けるとは。
何故勝てない。何故自分はこの男に勝てないのか。
・・・・・・コレがヒトの心の強さ、なのか?
・・・・・・・・・・・・そんなもの、
「・・・・・・認めない・・・絶対・・・認めないぞ・・・!!」
『ヒトの心の力』を否定しながら、サレは崩れた。
四星、決着。の巻。
獣王山の話は重くて書くのがツライです・・・。
冒頭の『声』は多分PSP版追加シーンだと思うんだが・・・どうなんだろう・・・?
あの『声』ムチャクチャ怖かった・・・・・・orz夢に出そうだった。
では今回の振り返りタイム。
ミルハウストと『アガーテ』。
ミルもヴェイグほどでなくとも迷いを抱いているんですよね、この時・・・。
どうする事も出来ない『今の状況』が恨めしくなってる時期かと。
そんなワケで彼が取った行動が『目の前のヒトをアガーテと思い込む』事で。
大切にしていたピアスをクレアに渡す事で無理矢理決着つけたようなそんな感じ。
このヒトもこのヒトで危なっかしい。
そして今回力を入れたのは勿論、ヴェイグVSサレと、サレの心理描写ざます。
夢主に純粋に心を開き歩み寄るのがヴェイグなら、歪んで心を閉ざして忍び寄るのがサレ。
常に対照的に夢主の傍にいて一度壊れた夢主の心を彩っていく。
ヴェイグもサレも、どちらも夢主にとってはなくてはならない存在。
そんなサレ様は自分がずっと抱いてきた感情をヴェイグにぶつける。
でもその感情の中に違和感を見つけて「ん?」となるヴェイグ。
薄々、サレが張り付けてきた感情の下の『感情』に気がつき出してる。
とりあえず、サレもヴェイグも夢主の名を連呼していて気持ち悪いと見直していて思った\(^q^)/