「シャオルーン!思念の浄化は失敗だったのか!?」
『・・・思念は消えた』

ヴェイグの問いにシャオルーンは静かに答える。


サニイタウンへと戻ったヴェイグ達を待ち受けていたのは平和な世界ではなく、
人々の表面化した憎悪・妬み・怒り・差別・・・そんな負の感情に覆われた冷たい世界。

ガジュマはヒューマを捕らえ、ヒューマはガジュマを迫害する・・・思念の覆った世界よりも悲しく禍々しい暗い世界がヴェイグ達を待っていた。



『・・・この状況は思念をきっかけに表面化してしまった人々の意識が作り出したんだ。今、この世界は高まった負の感情に覆われ始めている』

「・・・負の感情が・・・・・・世界を覆う・・・」
「何が起こるんだ!?」

『わからない・・・』とシャオルーンはヴェイグに返した。


『この状況はボク達聖獣の予測範囲を超えている・・・負の感情が世界そのものを揺るがす災いになることだって考えられる』
「・・・どうしたら良いの・・・」


『とにかく、人々の争いを止めて、少しでも負の感情を抑えるしかない!』


ヴェイグ達は頷き、シャオルーンに乗った。


各地で勃発する争いを鎮めるために。

























の心のフォルスに一番反応したのは、サニイタウンから一番近い村、アニカマルだった。

村はひっそりとしていた。元々活気のある村ということはなかったが・・・


「・・・村全体が殺気立ってる感じだね」
「あぁ・・・・・・ヒューマの姿も見当たらない・・・」

ヴェイグが辺りを見回して言う。
屋外にヒューマの姿は見当たらず、ガジュマの人々だけが悠々と歩いていた。




「・・・ラジルダの時よりひでぇな・・・・・・」


「息が詰まるぜ」と言って吐いたティトレイのため息は、彼の顔面を叩くように開いた民家の扉によって再び口の中へとしまわれた。
顔面強打したティトレイは鼻を押さえてその場で蹲る。鼻を中心に顔全体に激痛が走るが、幸い鼻血は出ていない。

ふと、地面を見つめる形になった視界に白く長い尾が入ってきた。



「ティトレイさん!大丈夫ですか!?」
「オイ!ヒューマなんぞがオレの家の前で何してやがる!?」


痛みに悶えるティトレイとそれに駆け寄ったアニーを睨みつけて、扉を開けたガジュマの青年はそう言った。



「オレの家?ココは確かおじいさんとおばあさんが住んでたと思うケド・・・」

『ヒューマの』という形容を省いてマオが言う。
確か以前にアニカマルを訪れた時にはヒューマの老夫婦が住んでいた筈だ。

マオの疑問に、まるでそうするのが当たり前のようにガジュマの青年はさらりと言った。


「そのヒューマのジジイとババアからいただいたのさ!」
「・・・・・・っ・・・そのじーさんとばーさんはどうしたんだ?」

痛みの和らいできた鼻を擦りながらティトレイが訊ねると、青年は鬱陶しそうに返した。


「うるせぇな!追い出したに決まってんだろっ!!」
「何だと!?」


赤くなった鼻を擦るのをやめて、ティトレイが噛み付いた。
アニカマルは一歩外に出れば広い砂漠が広がっている村だ。


「あんな砂漠に年寄りを放り出したってのかよ!?」

詰め寄るティトレイをあしらい、この話は終わりだと言わんばかりにまた家の中へ入ろうとする青年。
閉まりかけたその扉をこじ開けて、ヴェイグは青年の襟元を掴み上げた。



「・・・何処へ行ったんだ?」

ヴェイグの迫力に怖気づいて、青年が吃りながら答える。

「た、多分・・・オアシスに・・・・・・」

「オアシスだと?あそこはバイラスの巣窟だ。普通に暮らすなど・・・!」
「他のヒューマのヒト達もオアシスに・・・?」

アニーの問いに、少し悩んでから青年が頷く。その瞬間、少々乱暴にヴェイグに開放された。


「オアシスへ急ぐぞ!」



「クレア、アンタはココの宿屋に残りな」
「え・・・?」

どうして?と言うクレアに、ヒルダは続ける。

「オアシスにはバイラスがうようよいるわ。戦えないアンタには危険過ぎる」

それに、と更に続いた。

「幸い、今のアンタはガジュマの身体をしてるから村人に何もされる心配はないわ」
「・・・わかりました」


クレアは頷いた。一同はオアシスへと駆け出す。




ヒルダの言葉の一部に強く反応した銀髪の存在に気づいたのは、だけだった。




















クレアをアニカマルに残し、砂漠を駆け抜けオアシスに到着したヴェイグ達は班を作って別れて捜索する事にした。
一班はユージーンとマオ、アニー。二班はティトレイとヒルダ。三班はヴェイグとだ。






水の潤いで一部密林化したオアシスをヴェイグとは歩く。
奥に進むごとに何度かバイラスが襲ってきたが、二人にとっては大した相手ではない。

・・・だが、アニカマルから追い出されてきた人々にとってはそうもいかないだろう。


早く助けなければ。そう思い、歩調を速めて草木を掻き分け更に奥を目指す。


ふいに、が前を進んでくれているヴェイグに声をかけた。
すぐにその足が止まり、こちらにヴェイグが振り返る。


「どうした、疲れたのか?」
「いや・・・そうじゃない」


否定して、首を振る。疲れているワケではない。
体調は万全だ。だから心配させることなんて何一つ無い。





隠すなよ、ヴェイグ・・・・・・心配かけてるのは私じゃなくて、お前だろ?




「・・・ヴェイグ・・・バビログラードでした約束・・・・・・覚えているか?」
「・・・・・・・・・」





ヴェイグはただ黙る。

忘れてしまったワケではない。・・・・・・忘れる筈が無い。
だが、わかっているとも言えなかった。



『黙ってばかりいるな。抱え込むな。無理をするな』




・・・・・・ダメだ。話すだけでは、ダメなんだ・・・・・・









「・・・・・・今はアニカマルのヒト達を助けるのが優先だろ・・・」

ヴェイグは進行方向へ向き直ることでの質問を強制的に終了させた。


「うん・・・・・・・・・・・・・・・・・・信じてるよ・・・」


悲しそうなの声が気になったが、後ろに居たから、わからなかった。











ユージーンがアニカマルで危惧していた通り、老夫婦がバイラスに襲われていた。
老化ですっかり体力の落ちてしまった身体に鞭打ち必死に密林を駆けている所をヴェイグとが発見した。


老夫婦を襲うバイラスをあっという間に追い払い、二人を保護する。
何処にも怪我が無いことを確認してから、あらかじめ決めていた集合場所まで移動すると、
既に他のアニカマルの住人を保護したユージーン達がヴェイグ達を待っていた。

どうやら、ヴェイグ達が最後だったようだ。


「これで全員か?」

老夫婦に宿屋の女将に青年、娘・・・保護した人々を一通り見渡してティトレイが言った。


「あぁ・・・助かったよ、ありがとう」

頷いて、老夫が礼を述べると続いて傍らの老婆が小さく呟いた。

「・・・やっぱりココには住めないわ・・・」
「・・・・・・アニカマルに帰りたい・・・」

「あぁ 帰ろう、アニカマルへ。俺達も説得する」

老夫婦に続いて切なく呟いた娘の言葉にユージーンは頷いた。
しかし、礼を述べていた老夫がユージーンを睨み上げて、そっぽを向く。


「ふん・・・ガジュマの言うことなんぞ信じられるか!!」


家を奪われ、村から追い出されたのだ。そう言ってしまうのも無理はなかった。
無理はなかったが、老婆と娘が老夫を説得する。


「おじいさん・・・このヒトは私達の命の恩人・・・信じても良いでしょう?」
「そうよ。それに説得したら分かってもらえるかもしれない。・・・前は仲良く住んでたんだもの」


「あぁ、そうだ。以前出来てた事が出来ないなんて事あるか!帰ろうぜ、じーさん」

ティトレイにも言われ、渋々といった風に老夫がユージーンに向き直った。





























アニカマルへ戻ると、村は混乱していた。
ヴェイグ達がオアシスへと行っている間にバイラスが村へと侵入していたのだ。


ヴェイグは残っていたクレアの身を案じて宿へと駆ける。

「クレア!」
「ヴェイグ!」


宿の扉が開いてクレアが出てきた。・・・無傷だ。


「村の人達は出来るだけ避難はさせたけどまだ向こうの方が心配なの・・・!」
「わかった!このヒト達を宿に避難させてくれ!」
「えぇ、わかった!」

オアシスで救助したヒューマ達を宿の中へと入れる。
その途中で、老夫が遠くのバイラスを見て言った。


「ふん・・・イイ気味だ!年寄りを粗末に扱った罰だ。バイラスにやられてしまえ!!」

その言葉を娘が窘める。

「なんてことを・・・同じ村の仲間が危ないのに!・・・良いわ。私だけでも助けに行く!!」



娘の、種族を気にせずに言った勇ましい言葉にティトレイが驚き、そして笑う。


「アンタ・・・五つ星だぜ!!」

手からティートレーイの花を生み出して娘に差し出す。
・・・懐かしいモノが出てきたなと心の内で思いつつ、は鞘から双剣を引き抜いてバイラスに向かって走り出した。


「軟派なコトしてないでさっさとバイラスを倒せ!」
「おうよ!!」


ティトレイが左腕に装備されたボウガンをセットした。
「伏せろよ!」の声と共に連続で弓を引いた。普段とはまったく違う気の抜けた声を上げてが地に伏せる。



「喰らえ!蒼破墜蓮閃!!」


左腕から無数の矢が放たれる。矢は次々とバイラスの急所を打ち抜いていった。
その場にいたバイラスが音を立てて崩れるのに反比例して、が起き上がった。



「・・・・・・死ぬかと思った・・・」

いや、一度死んでるんだが。


「ティトレイの馬鹿!に当たったらどーすんのさ!!」
「大丈夫だ!オレはを信じてた!!」
「そうじゃなくて―――っ!」

マオの憤慨は村の奥から聞こえた悲鳴に掻き消された。



















逃げ遅れたガジュマの青年にバイラスはじりじりとにじり寄る。あっという間に青年を取り囲んだ。
青年は逃げ場を探した。しかし、ココは村の最奥だ。もはや逃げ場は無い。

一歩、また一歩と近づいて楽しそうに獲物を追い詰めるバイラス達。
・・・無論、『獲物』とは自分の事なのだと青年は理解していた。



「く、来るな・・・来るなぁっ!!」


誰か助けてくれ。誰でも良いから、助けてくれ!!
そう叫びたいのに恐怖から何を言って良いのか分からない。

青年の心の声を聞きつけたかのように突然、青年に迫るバイラスに何かがぶつかった。
怯んだバイラスが後方へ下がった隙に、バイラスにぶつかったモノを確認する。


・・・・・・ヒューマの娘だった。





ヒューマの娘は全身で体当たりをして自分を助けてくれたのだろう。
バイラスの角で怪我をしたらしい腕を押さえている。

「大丈夫・・・?」
「あ、あぁ・・・・・・ありが、とう・・・」

ぎこちなく礼を言っていると獲物を取られたと思ったのか、バイラスが怒りの雄叫びを上げて娘に向かって突進してきた。


「危ない!!」


今度は青年が娘を助ける番だ。

その時にはヒューマだガジュマだという考えが頭から消え去っていた。


「貫け!サンダースピア!!」



まさにバイラスの角が青年を襲おうとした時、ヒルダのサンダースピアがバイラスの身体を貫いた。






















侵入したバイラスを全て退治して、村は静寂を取り戻した。
人々の心が落ち着いてから、やっと話し合いが始まった。
ヒューマ側、ガジュマ側と分かれ、気まずそうにポツリポツリと語り合う。



「・・・・・・さっきは、ありがとう・・・おかげで、助かった・・・」

恩人のヒューマの娘にガジュマの青年が言う。
「アンタ達を追い出したのにどうして助けてくれたのか」と。


娘は困ったように眉を寄せながら呟く。

「そんな事・・・考えてる暇も無かったわ・・・」



助けなきゃという気持ちしかなかった。・・・そう言う娘に青年は押し黙る。

娘の気持ちを青年は共感できた。
自分もあんなに憎んでいたハズのヒューマである娘を咄嗟に庇っていたのだから。




あの瞬間はヒューマもガジュマも気にしていられなかった。





「・・・同じ村の仲間を助けるのに、理由なんて必要ない・・・」

ヴェイグが言った。


「ヒューマとかガジュマとか言う前に、アンタ達は皆『ご近所さん』だったんじゃないのか?」




「だ、だが!ワシ等を追い出したのはコイツ等だぞ!!」
「それは・・・すまない・・・許してくれ・・・・・・いや、許してください!!」
「許してあげましょうよ、おじいさん」

「そうですよ。貴方だって、ココ最近ガジュマの悪口ばかり言っていたじゃないですか。
 ・・・お互いに、反省する所があるんじゃありませんか?」



村人達が一つ一つ蟠りを溶かしていく。勇気を出して謝り、優しさで互いの罪を許す。
互いの『ヒトらしさ』で少しずつゆっくりと近づいていく。












「・・・後は皆で何とかできそうだね」

そっと村を出て、マオが言う。


「あぁ。時間はかかるだろうが、いずれ元に戻るだろう」
「そうだね」


ユージーンに頷いて、マオはに訊ねる。

。次はどの辺り?」
「・・・そうだな・・・・・・東・・・東で強い嫉妬を感じる・・・」

「あと・・・」と呟いて続けた。


「・・・嫉妬の中に・・・殺意が混じっている・・・・・・嫌な予感がするんだ・・・」


場所は特定できるかとヒルダが訊ねた。
もう一度意識を集中したは一言、告げた。




「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・バビログラード」



負の感情爆発の巻。

ご存知の通りランドグリーズ終了からアニカマル、バビログラード、ピピスタと移動するんですが、
順番はTOR攻略本と『サニイタウンから近い場所』を参考にしました。
ちなみに私の一周目のルートはバビログラード→ピピスタ→アニカマルだった気がする。
バビログラードで食材買おうとしたらイベント始まっちゃったんだよ。

ヴェイグさんと夢主の関係がまた怪しい雰囲気。これで何度目だ三度目か?
夢主はヴェイグの『事』を薄々感じ取っているので放っておけない。
そんな夢主がヴェイグにとってはただ、苦しい。

壊れそうなヴェイグさん。

どーでも良いがココのストーリーに出てくるヒューマのお姉さんが勇ましくて好きだ。