二人きりになった空間でランドグリーズがユージーンを見据えた。


・・・儀式の始まりだ。




『ユージーン・・・力を欲する理由も決意の強さもお主がココに至った事実を持って証明されたと言えよう。
 だが、お主等ヒトは脆き生き物だ。すぐに容易き方へと流される。・・・思念に取り憑かれて、ヒューマ憎しとなったお主なら分かるであろう?』

「・・・・・・」

否定は出来ない。どんなに耐えても、耐えても。結局流されてしまっていた。
昂り乱れた心を晴らす為にバイラスを狩った。


『そのような弱きヒトにワシの力を与える事には少なからず不安を覚える。
 ・・・故に、今後もお主がその強き心を持ち続けることが出来るかどうか、ワシに見せてもらいたい』



突然ランドグリーズが溶けるように消えて、ユージーンは暗い闇の空間に取り残された。



「・・・俺の試練とは・・・一体・・・・・・」

呟くユージーンに答えるように、次々に『ヒト』が闇の中から浮かび上がる。


ドバル、スカラベ、トーマ・・・現れた人々はヒューマが一番だと、ガジュマが一番だと叫ぶ。
一番ではない、皆等しいのだとユージーンが叫べば、己の影が何よりも大きく叫んだ。



『ガジュマこそ崇高なる生命!下等なヒューマは平伏せぇっ!!』
「違う!崇高も下等もない!ヒトは等しい存在だ!!」


己の影に反発するとトーマ達や影が消えて、次にクレアとアガーテが浮かんできた。


『あぁ・・・ガジュマの身体・・・なんて醜いの・・・この手、この肌、この身体・・・醜いわ・・・』
『あぁ・・・ヒューマの身体・・・なんて美しいの・・・この手、この肌、この身体・・・美しいわ・・・』
「・・・陛下・・・・・・」

ガジュマの身体に憎らしげに爪を立てるクレアと、愛しげにヒューマの身体を愛撫するアガーテ。
それもふわりと消えた後、フォグマとイーガが浮かぶ。

『ヒューマを根絶やしにしろっ!』
『ガジュマを消し去れっ!』


互いの種族を滅するのだと叫び合う二人に己の影が、高笑う。


『そうだ!ヒューマよ滅べ!一人残らず死んでしまえぇっ!!』
「・・・っ・・・俺は・・・俺はこんな事考えていない・・・!!」



「私は、ガジュマとヒューマの共存社会を取り戻す」

気がつけばフォグマ達が消え、ミルハウストが浮かび上がっていた。
ミルハウストの言うヒューマとガジュマの共存・・・・・・そうだ。それを今の世界に取り戻すために、俺はココまで来たのだ。



そう強く思っても、己の影は鼻で笑って、決意を跳ね除けた。


『ヒューマとガジュマの共存などまやかしだ!そんなモノが来るはずがない!!』
「そんなことはない・・・!ヒューマとガジュマ・・・両者が互いを知ればどちらもヒトなんだと―――」




『・・・・・・ヒト・・・・・・本当に・・・ヒト・・・なの・・・?』



ミルハウストが消えて、彼が先程まで立っていた位置に闇の中からアニーが出てきた。
アニーはその怯えた瞳にユージーンを映して悲鳴を上げる。


『嫌っ!ガジュマに触られたくないの!!来ないで・・・来ないでぇっ!!』
『よくもそんな事が言えたものだな小娘!お前の父親を庇ってやったというのに、その恩を仇で返すとは・・・・・・さすが下等なヒューマの小娘だっ!!』
「よせっ!アニーは・・・アニーは・・・!」

己の影からアニーを隠して叫ぶも、影の声は止まらない。


『何故庇うのだ?内心お前はその小娘の逆恨みにイライラしていたのだろう?煩くて目障りで・・・殺したかったのだろう!?』
「やめろ!もうやめろっ!!」

『俺はヒューマが憎い・・・身勝手で傲慢なヒューマが憎い!脆弱なヒューマめ!消えろ!消えてしまえぇぇぇっ!!』

「・・・・・・」


ユージーンはそっと瞳を閉じた。
そうすると、ゆっくり己の影の雄叫びやアニーの悲鳴が遠ざかっていく。





「・・・・・・俺の中に・・・確かにある・・・ヒューマへの憎しみや怒りが・・・・・・」
『お主の心はいつも揺らいでおる。いっそヒューマが憎いとするその心を受け入れた方が楽なのではないか?』
「・・・・・・そうかもしれません」


聞こえてきたランドグリーズの声に、再び瞼を開く。


「誰にでも多かれ少なかれ他人に対して嫌悪や憎悪を隠し持って生きています」


しかし、と続ける。




「我々にはそんな負の感情を打ち消す信頼や友情といった心の力が・・・『絆』があるのです」



ヴェイグを思い出す。マオを思い出す。ティトレイをアニーを・・・ヒルダを思い出す。


「私がここまで来られたのは種族を超えた絆があったからです」


そして、を思い出す。


「私は信じたい。全ての人々に種族を超えた絆があることを・・・絆を感じる心があると」


その言葉を、ランドグリーズは静かに聴いていた。





「それを悪意で歪める者があらば、私はその悪を取り除きたい。・・・仲間と共に」




だから、


「聖獣ランドグリーズ。私は貴方の力を求める」








ランドグリーズは笑った。ユージーンの言葉に満足して、笑った。

『・・・完敗だ。お主と仲間達との絆、しかと受け止めたぞ。・・・お主のフォルスにワシの力を与えよう・・・』








































ランドグリーズの光の中からユージーンが出て来て、すぐにマオが駆け寄った。
彼に続いて、ヴェイグ達もユージーンの元へと歩み寄る。


「ユージーン!お疲れ様!!」
「・・・力を・・・?」

ユージーンが頷くのを確認した瞬間、マオとティトレイがハイタッチした。

「よっしゃぁっ!これで聖獣の力が全部揃ったぜ!!」
「ゲオルギアスの思念を浄化出来るのね・・・」

アニーの呟きに元気よく「もちろん!」と言ったマオを一瞥してから、ヴェイグはランドグリーズに訊ねる。



「その前に訊かせてくれ。聖獣は何故俺達に浄化の力を与えてくれたんだ?」

「ヒトの未来をお前達に委ねたからだ」


ランドグリーズではなく、が答えた。



「元々聖獣はヒトに干渉する存在ではない・・・ヒトの起こした問題はヒトが解決すべき、ということだ」

『・・・お主等は力を求めた。それは二つの種族を共存に導こうという希望の光。
 その希望の光が我らの力を得、種族の共存を勝ち得たならばそれで良し。それが潰えたならば・・・・・・』



「・・・滅んでも仕方がない・・・ということか」


言葉の最後をヴェイグが続ける。重く、ランドグリーズが肯定した。






『我らはお主等に全てを託すことにした・・・そして、お主等は我ら聖獣の課した試練に見事打ち勝ち、力を得た』





「・・・・・・そーいや試練の中ですっげぇ腹黒い見たぞ?」

「あ、ボクも見た!」
「・・・私も、怖いさん・・・見ました・・・」

唐突なティトレイの思い出しにマオとアニーも頷く。



『ヘンなを見た』と。



「何・・・!?・・・・・・イーフォン達・・・一体何を見せたんだ・・・!?」


突然自分の名を上げられた事に戸惑う。彼女の隣に居たヴェイグが密かに呟いた。


「・・・あんな・・・もう見たくないな・・・」

「お前も見たのか!?」
「・・・・・・・・・いや」
「目を逸らすなヴェイグ。こっちを見ろ」

ググっと顔を寄せてくるに「余計向きづらい・・・」と心の内にぼやいて、ヴェイグが後退る。
その様子を傍らで見ていたランドグリーズが『変わったのぅ、姫』と笑ったのを合図にするように二人がパッと離れた。






『さぁ・・・姫の元へと集まり、それぞれの力と思いを・・・ひとつにするのだ』


ランドグリーズの言う通りに、輪を作るようにを囲んだ。クレアとザピィとハープは一同から少し離れた位置まで下がった。




『姫よ。心のフォルスを用いて、希望の光を世界に・・・』
「・・・わかっている」



深呼吸を一つしてから、は瞳を閉じて精神を集中させた。
祈るように指を絡ませた両手を胸に持っていった瞬間、足元に法陣が浮かび上がった。



ティトレイには緑の闇の紋章 マオには紅の炎の紋章

アニーは白の風の紋章  ヴェイグは蒼の水の紋章

ヒルダは紫の光の紋章   ユージーンは黒の土の紋章



そして・・・は金色の王の紋章。





浮かび上がった紋章は天へと光を放ち、七色の光となって世界を包んだ。


































「・・・・・・・・・浄化は成功したのか・・・?」


舞い上がった光が完全に消えたのを見届けてから、ヴェイグが呟く。
聖獣の間に居ては効果があったのかどうかは確認できない。


「・・・私のフォルスに思念の反応はないが・・・」
「・・・・・・どうやら、成功のようだ・・・」

の言葉を途中で遮り、ユージーンがガクリと膝をついた。


「ユージーン!」と駆け寄ろうとしたマオの足を止めたのは、ユージーンの身体から抜け出していく夥しいまでの量の闇。


・・・思念だ。




「ユージーン!?思念が!!」
「・・・あの薬は効いていなかったのか!?」

ユージーンに取り憑いた思念を浄化する為に鎮魂錠を呑ませたというのに。
抜け出た思念が霧散していくサマを見送ってヴェイグが言えば、荒い息を整えつつユージーンが言う。


「・・・効き目はあったが、充分ではなかった・・・」



「・・・あんなに大量の思念を抱えて・・・」
「・・・だが、お前達の気持ちが俺の心を鎮めてくれた・・・」

に続いて、アニーが訊ねた。

「・・・・・・ここまで、ずっと耐えてきたの・・・?」
「・・・・・・・・・まぁな」

どこか照れくさそうに目を伏せるユージーンに「・・・呆れた」とヒルダが呟けば、苦笑が返ってきた。





ゆっくりとユージーンが立ち上がる。

「・・・大丈夫?ユージーン」
「あぁ・・・・・・もう大丈夫だ」
「よかっ・・・」


「良かった!!」



マオより先に、アニーがユージーンに飛びついた。




「・・・・・・・・・」
「ま、まぁまぁ、マオ。良かったじゃねぇか。な?」

ジロっと恨めしそうにアニーを睨むマオをティトレイが宥める。

「・・・うん・・・そうだよね・・・・・・そうだよね」


ユージーンとアニーの二人を見て、マオは納得した。

アニーにユージーンを取られた気がしてしまうが、
二人の間にあった蟠りがとけて、こうして抱き合えるようになったのは本当に『良かった』。


この二人の問題も解決した。思念も浄化した。・・・・・・伝えるなら、今かもしれない。













「・・・ねぇ、皆。言いたい事が・・・・・・あるんだ・・・」

「・・・ん?どうしたんだ、マオ」
「・・・・・・マオ」

何かを悟ったはマオを見つめ、目を細めた。


「・・・・・・ずっと言おうと思ってたんだけど・・・・・・実はボク・・・ヒトじゃ・・・ないんだ」

その言葉の真意が理解できず、ヴェイグ達は首を傾げた。



「・・・ヒューマでもガジュマでも・・・ハーフでもなくって・・・聖獣達がヒトの姿に似せてボクを作り出したんだって。

 ・・・・・・・・・ヒトじゃ、ないんだってさ・・・」


「・・・・・・・・・・・・冗談よね?」

長く続いた沈黙を破ったのはアニー。その質問を否定したのはマオだ。

「・・・ボクは聖獣達にヒトを監視する目として、この世界に送り込まれた。だから、記憶喪失じゃなくて最初から記憶がなかったんだ」


「だからと言って聖獣ってワケじゃないよ」とマオが続けた。





「・・・皆に訊きたいんだ。・・・・・・こんなボクだけど、これからも一緒に行って良いのかな?」



・・・なんて愚問だ。



「マオ。・・・お前はお前だ・・・」

真っ直ぐにマオを見て、ヴェイグが言った。が賛同して頷く。

「聖獣に作られていようが、どんな姿をしていようが・・・マオはマオでしかないんじゃないか?」



「ヴェイグ・・・・・・・・・」



マオは二人を見た後、ユージーン達を見た。


「・・・マオらしくない発言だな」
「仲間なんだから、当然じゃねぇか」
「馬鹿なこと言ってるんじゃないわよ」


「・・・ありがとう、皆」

マオは微笑んだ。






ヴェイグ達を繋ぐ絆は出生など、過去など、身体など、気にしないのだ。
・・・そう信じたい。


アガーテの姿で微笑を浮かべるクレアを盗み見て、ヴェイグは強く思った。


思念浄化の巻。

ランドグリーズのユジアニマオのシーンは鼻血モンですよね?ハァハァ(殴)

PSPでランドグリーズ編プレイしていたら電池が死亡フラグだったのですが。
そりゃ、聖獣との長い会話の後すぐに思念浄化シーン→マオの暴露話と来たら電池も減るか。ははは。
次にセーブした時は1時間30分データが更新されたんだ・・・ぜ・・・PSPがウィンウィン言ってて怖かった。

ちなみにティトレイ、マオ、アニー、ヴェイグの試練中に出てきた夢主は聖獣達の作り出した幻の一部。
ヒルダ、ユージーンの試練に出てこなかったのは夢主が『目覚めた』から。
夢主と一番関わりが深かったヴェイグに特大のどす黒い夢主がプレゼントされてました(いらん)


次回、突然の場面展開ごめんなさい。