「なぁー、。ランドグリーズの声とか聞こえないのかよぉ?」
「・・・何も聞こえないから黙っている」

ティトレイとのこの会話も、ちょうど今ので五回目だ。

ヴェイグ達がギリオーヌから最後の聖獣、ランドグリーズの情報を聞いてからもう三日が過ぎた。





ギリオーヌから伝えられた『幻の島を探せ』という言葉。

幻の島とは何かまったく見当がつかないが、『島』というくらいだ。
海にでも出れば何か分かるだろうと完全に無謀な行動を取って今に至る。




聖獣の手がかりが掴めないのも当然だ。


何故ならば・・・・・・



「広い海ー!どーんと広がる青い海ー♪」


・・・・・・そう、海はドーンと広いのだ。『幻』と言われるモノが簡単に見つかるワケがない。
だが、ヴェイグ達だって『丸ごし』というワケではない。




はティトレイとの会話を打ち切って、再び目を閉じ精神を集中させた。心の中でゆっくりと念じる。


ランドグリーズ・・・我に応えよ・・・・・・聖獣ランドグリーズ・・・・・・


そうやって何度も何度も呼びかける。
かつて、聖獣達と言葉を交わすことの出来ただ。
彼女の呼びかけに応えてくれるかあるいは何らかの気配を感じ取れるのではないかと一同は期待した。




しかし結果は。


「・・・・・・何の反応もない。ギリオーヌの時のような気配もしない・・・」

ふぅと無念をため息で表現すれば、左肩に乗っているハープが甘えたような優しい声を出して身体を摺り寄せてきた。
慰めてくれているのだ。礼の代わりに、毛並みの良いその身体をそっと撫でた。


「ねぇ、一旦どこかの街で情報収集しない?」

マオの出した提案に真っ先に飛びついたのはヒルダだ。口元を押さえ、青い顔で唸りながら言う。

「賛成よ・・・陸が恋しいわ・・・」
「何だよ、ヒルダ。まだ船酔いしてんのか?」


ティトレイがヒルダに訊ねると同時に、彼女の身体が傾く。慌ててクレアとアニーが支えた。
ヒルダのように船酔いをしている訳ではないが、マオの意見には一同賛成だ。

もアテにならないとなると、カレギアを一周する程の大航海をして虱潰しに探すよりは
港町の猟師や伝説に詳しい老人などに訊ねた方が得策というモノだ。


何より、ヒルダをこれ以上放っておくのは酷である。








「じゃあ進路をひとまずミナールへ―――」

マオの言葉が途切れる。別に好きで途切れさせたのではない。

呑気に話せる状況ではなくなった。船が大きく揺れたのだから。
それも、津波だとか渦潮だとかそういったモノではない。天気は快晴、海は至って穏やか。


なのに、何故かヴェイグ達の乗っている船の辺りだけ激しく上下に揺れる。

「何!?何で船が揺れてるの!?」
「・・・気持ち悪いっ・・・・・・」
「ヒルダさん!しっかりしてっ!!」


「オイ!見ろ!!船にバイラスが取り付いてるっ!!」

ティトレイが海面を確認して叫んだ。


十、二十を優に超えるバイラスの群生が船を取り囲んで攻撃している。
そのうち、十数匹のバイラスが船体に張り付いて、ゆっくりと上ってくるのが見えた。

揺れは、止まらない。



「戦闘態勢を整えるんだ!」
「揺れが激しくて・・・動けませんっ!!」

船体にしがみついた状態でアニーが叫ぶ。こんなに揺れてしまっては弧法陣も描けないだろう。


「マオ!導術をしかけるぞ!!」
「あ、そうか!それなら動けなくても・・・」

大丈夫だよね!と言ってすぐに詠唱を始める。



「万物の始まりたる炎よ 刹那にて焼き払え! ブレイジングハーツ!!」
「我の血は仇を刻む剣なり 我の涙は仇を葬る柩なり 裁きの雨にて 眠れ罪人よ イノセントジャッジメント!」


マオの炎がバイラスを焼き尽くす。の光の雨がバイラスを貫く。


船を揺らしていたバイラスも仕留めて、船を止めた瞬間、クレアが叫んだ。

さん!後ろっ!!」
「!?」

が振り返るよりも先に、その身体が長いツタのようなモノに絡み取られた。
肌に感触の悪い滑りと湿っぽさを伝えるそれはクラゲのバイラス、ビデューサの触手だった。


「この・・・!!」

すぐに双剣を逆手に握り直して、刃をビデューサの身へと突き立てる。半透明な身体から体液が噴き出したが、気にしない。
絡まる触手が緩んだ所で素早く抜け出した。・・・・・・『だけ』。

距離を取ろうと船舶を蹴り上げたが、その跳躍はハープの悲鳴のような鳴き声を聞いて動きを止めたため、小さなものとなった。



「ハープ!!」

逃げ遅れ、触手に捕まる友達には叫ぶ。双剣を構え直して後退しようとした身体を再びビデューサの元へと走らせた。

「虎牙破斬!」

ビデューサを大きく斬り上げて、息の根を止める。
しかし、最後の悪あがきと言うやつか。己の触手に絡まったハープを同時に深い海へと投げ飛ばしてから、ビデューサは絶命した。



「ハープっ!!」
っ!」

海に放り出されたハープを追いかけて、も飛び出す。すぐにヴェイグの、自分を呼ぶ声も聞こえた。
宙でハープを捕まえて、胸に隠すように包み込む。


瞬間、派手な音を立てて水飛沫を上げた。





































「ランドグリーズ!ランドグリーズ!」

あぁ、声が聞こえる。聖獣ランドグリーズを呼んでいる。


「ランドグリーズ!」

随分と苛立った声だな。誰の声だろう。




「聖獣ランドグリーズ!!」





・・・・・・私の声?













『私』は深い霧に向かって呼びかけていた。先が真っ白で何も見えない霧の海から年老いた声が返ってきた。


『やれやれ・・・そんなに大声を出さずとも聞こえておるぞ、姫』
「・・・ならば最初から返事をしていただきたい」

霧に向かって軽く睨んでから、怒りを呆れに変えて『私』はため息をつく。


「・・・どうせまた散歩に出かけ海を泳いでいたのでしょう?
 ・・・泳いでいる貴方の背中を見て、島だと思う者達が後を絶たないと、王が言っていた」

『ホッホッホ・・・人々は仰天しておるかな?』
『・・・他人事ですか』

先程よりも大きなため息を吐き出して、霧の向こうに居る者、ランドグリーズへ話しかける。


「王は心配しているのです。貴方は最高齢の聖獣だ。あまり遠出をして・・・ゲオルギアスを困らせないでほしい」
『何を言う。健康の第一歩は散歩だ。姫も迷いの森から少しは出て、散歩をしてはいかがかな?』
「・・・・・・私は、仲間を守らなければならない。こうやって森から出てくるのは貴方としゃべる時くらいだ」

「貴方は大きいから」と『私』は呟く。ふとランドグリーズが話題を変えた。



『おぉ、そうだ・・・今日の散歩で良い場所を見つけたのだ』
「良い場所?」

訊ねる『私』にランドグリーズが頷いてくれた気がする。・・・霧で影すら見えないが。

『地図を開いて見てくれぬかの?』


『私』は言われた通りに地図を取り出した。見ているのは古代カレギアの地図だ。


『ココよりちょうど南の方角の・・・この河口。ここに流れてくる水が打たせ湯のようで気持ち良くてな』
「・・・・・・この川は激流でヒトでは自力で渡れないところですよね?・・・・・・打たせ湯・・・・・・」


『うむ・・・・・・トヨホウス河と言ったかの?』

ランドグリーズが示し、『私』が見ている場所はトヨホウス河の河口。



・・・・・・現在のサニイタウンの位置だ。



『ワシはそこを終生の場所にしようと思う。・・・ワシもそう長くはなさそうだからのぅ・・・』
「・・・貴方の『すごく短い』は百年単位だったと思うが?」

・・・つまり、『もう長くない』は後千年は生きるということになるだろう。
『私』の指摘にランドグリーズが優しく笑った。



『そうだったかの?』
「・・・で、ここに落ち着いたら、貴方は『幻の島』からただの島になるわけか」

うむ、とランドグリーズの肯定の声が聞こえた。



『ワシは島となって、いつしかそこに作られる街の土台となろう。・・・そこに、お主等が住むと良い』
「千年以上も先の街なんて住めません」


地図を綺麗に折りたたみながら『私』が言う。
「そうかもしれぬ」「そうかもではなくそうだ」と他愛ない会話を繰り返していると、ランドグリーズは言った。


『確かにお主達は無理かもしれん。だがその次、またその次・・・と何代か後の者達が種族を気にせず、
 ワシの上の街で過ごせる時が来る事を、ワシは夢見たい』


だから・・・そうランドグリーズは続ける。



『いつしかその時が来るためにも、今の言葉を忘れないで欲しいのだ』
「・・・・・・承知した。聖獣ランドグリーズの言葉、このが覚えておこう」


跪いて、深く頭を下げた。
































「・・・・・・・・・ぅ・・・」

軽く唸ってから目を開けると、部屋の明かりが瞳を刺して痛かった。
ボーっとする頭を持ち上げて上半身を起こす。この段階まできて、やっと自分が眠っていたのだと理解した。



確か海に放り出されたハープを助けようとして、海に飛び込んで―――――



「・・・ハープは!?」
「キィキッ!」

鳴き声と共に腕に温かい毛皮の感触がして、すぐに下を見る。ハープがこちらを見上げて腕に擦り寄っていた。
「ハープ」と声をかけると、腕を伝って肩に登ってきたハープが甘えた声を出して頬にくっついてきた。


「良かった・・・ハープ・・・」

『抱擁』をし合って互いの無事を確認し合ったハープは突然、の肩から飛び降りた。

そのまま部屋の出入り口である扉へと駆けていき、爪を立ててカリカリと引っ掻きながら鳴いた。
誰かを呼んでいるような、そんな鳴き声だ。



数回引っ掻いて、鳴いて。ハープは扉から離れる。
すぐにガチャリという音と共にドアノブが回って扉が開いた。
開いた隙間からオレンジ色のマフマフ、ザピィが部屋へ入って来てハープと身を擦り寄らせる。

ザピィに続いて、黒いブーツが見えた。それを上に向かって辿っていけば、ヴェイグだった。


「目が覚めたのか、
「・・・・・・あぁ」
「・・・良かった」

安堵の息をついて、ヴェイグはベッドに座るに歩み寄った。



「ずっと居たのか?部屋の外に」
「あぁ・・・目が覚めるのを、待っていた」
「・・・ありがとう」



礼を述べた後、ヴェイグは今までの経緯をに伝えた。




海に飛び込んだとハープをヴェイグとティトレイが救出したこと。
その時は気を失っていて、急ぎミナールへと船を航行したこと。
この場所はミナールの宿屋の一部屋で、他の皆はミナールの図書館や港で幻の島について調べていること。


ヴェイグから『幻の島』と聞いて、「あっ」と短い声を上げた後、が言う。


「そうだ。幻の島が何処かわかったぞ」
「何だって?」

驚くヴェイグに、眠っている間に夢でランドグリーズと話す過去の自分を見たと伝える。

「幻の島はランドグリーズ自身のコトだったんだ。そして、身体の朽ちたランドグリーズは島となって・・・サニイタウンになったんだ」






























「オレ達が図書館で調べてる間に解決してたのか」
の力は頼りになるネ!」
「・・・・・・昔のコトを思い出しただけだ」


サニイタウンの南門を前にして、順にティトレイ、マオ、
ミナールからシャオルーンに乗り数時間と経たないうちに目的のサニイタウンには到着できた。

だが・・・・・・


「・・・しかし・・・ランドグリーズの身体は既に朽ちていて、こうして街になってしまっている」


綺麗に立ち並ぶ住宅、門を美しく飾る花々、道を行き交う人々・・・それはどれを取ってもどれを見ても島で、街で。
かつて、聖獣であったなんて到底信じられない。

思わずはため息を吐いた。



「・・・もう亡くなってしまっているのに聖獣の力はあるんでしょうか?」
「行ってみなきゃ分からないわよ」

一同の中で、ヒルダはそう言うと先に門をくぐり街の中へと入っていった。
確かに彼女の言う通りだと賛同して、ヴェイグ達も門をくぐった。










くぐり抜けた先はサニイタウンではなく、聖獣の間だった。








「アレ!?街じゃない!!」

驚いてマオは辺りを見回す。
足を踏み入れたのは美しい街並みではなく、洞窟のように暗い聖獣の間だ。くぐってきた筈の門も、いつの間にか消えていた。


「門を通った瞬間に聖獣の間へ飛んだんだろう・・・」

は前方の壁に大きく描かれているランドグリーズの紋章を見つめながら言った。
その呟きが良く通って暗闇に吸い込まれていったから、暗くて見えないがこの部屋は相当大きいのだろう。



そんな先の見えぬ闇の奥から彼女に答えるように返事が返ってきた。

『左様だ・・・姫。久しぶりだな・・・』


声がすると、ヴェイグ達の手前の床からひとつの小石が突き出た。次にその小石を囲んで岩柱が音を立てて突出する。
あっという間に巨大な岩の結晶体となったそれが勢いよく爆ぜると、光に包まれた亀のような獣が姿を現した。


『ワシは聖獣ランドグリーズ。『地』すなわち大地を司る者である』

「貴方が聖獣ランドグリーズ・・・」

一歩前へ出て、ユージーンが言う。ランドグリーズは頷いた。


『正確に言うのならば、お主等の目の前に居るのはワシの精神体・・・姫の言う通り、ワシの身体はとうの昔にほろんでおる』
「ランドグリーズ・・・ユージーン隊長に力を・・・」

の声にランドグリーズは笑う。



『姫は相変わらずせっかちだな。・・・すまぬが、ワシとユージーンを二人にさせてもらうぞ』

ランドグリーズが纏っていた光が、ユージーンを飲み込む。


「ユージーン頑張ってね!」
「試練なんかに負けんなよ!!」


遠くなる意識の中、しっかりとその声を耳にしまった。


海は広いな大きいなの巻

やーっと最後の聖獣ランドグリーズですなぁ。
今回の話と次回の話はキャラ同士の掛け合いに重点置いてみました。
TORはバトルよりもキャラクターの繋がりとか内面に凝ったゲームだと思うんですよ。
いや、バトルももちろん面白いですが。3ラインやっふー(´∀`*)

大昔にランドグリーズと話していた夢主。ちょこっとゲオルギアス×夢主風味で。
聖なる戦いが起きなかったら夢主達の子孫がサニイタウンで暮らしていたかもしれないトンデモ設定。
「上等。」(某反骨蝙蝠)

とりあえずはハープちゃんと夢主をいちゃいちゃさせられたから満足。

ところで、自分の小説をタイピング試験の練習に使っているため、
ひょっとしたら誤字・脱字がとんでもない量かもしれない。