仕事を終えて家に帰ると、先に仕事を終えて家に帰って来ていた姉がお帰りなさいと迎えてくれる。



それがティトレイの日常だった。
しかし、今日はその日常が少し違った。


「お帰りなさい、ティトレイ。貴方宛にヴェイグさんから手紙が来てるわよ」
「ヴェイグ?あぁ、そうか!もうパーティの時期か!!」

セレーナから手紙を受け取りティトレイはポンと手を打つ。
ヴェイグとの家で開催する仲間達とのパーティの開催日が迫っているのだ。
負の化身ユリスを打ち破り、ヴェイグ達が共に暮らし始めてから定期的に行われているそれも今回で五度目になろうとしていた。



ヒトがユリスを打ち破ってから二年の月日が経っていた。


ヒューマとガジュマは互いを認め合い共存をしている。
今では二年前よりも人口が増えたハーフも加わり、皆 穏やかに暮らせるようになっていた。
以前再会したヒルダが、人里から隔絶していたモクラド村の付近に港が出来て他の町との交流が増えてきたと話していた事もあった。

完全に差別意識が消えたわけでは無いが、ゆっくりとヒトは生まれ変わっている。
共に手を取り、協力しながら未来を歩んでいる。


その変化がティトレイはこの上なく嬉しかった。


二人の家で催すパーティは久々に仲間達と再会し、その後の自分達の近況報告と今後の平和を願って行なっているモノだ。


・・・そーいやぁアイツら少しは進展したのかな・・・・・・


ふとティトレイは手紙の送り主達に思いを馳せてみる。
以前パーティを開いた時、寝室のベッドが一つだけ(しかしその上に置いてあった枕は二つだった)になっていたのに気がついて
マオと二人で散々ヴェイグを茶化してやった事もあったが、あれ以降の進展はあったのだろうか。


「・・・・・・多分無いよな」


奥手を通り越し老夫婦のような貫禄さえ見せつける二人を思い出しながら、ティトレイは手紙の封を切った。



「久しぶりだなティトレイ」から始まる文章を目で追いながら親友の顔を思い描く。
口数が少なくてなかなか気持ちを口にしない寡黙なヤツだ。この手紙もきっと悩みながら一行一行綴っていったのだろう。
そう思うとどうしようもなくおかしくて噴き出しそうになるが、そこは堪えて文面を読み進めていく。





そして最後の一行で思考が停止した。




一瞬、見間違いかと思ってもう一度始めから文章を読み直すが、自分の目がおかしいわけではなかった。
だったら送り主であるヴェイグが字を間違えたのだろうかと思ったが、文面は彼らしく至って冷静。
どう考えても文字選びを間違えたような事もない。




・・・という事はコレは事実なのだろう。



ゴクリと喉を鳴らして、最後の一行にもう一度、ゆっくりと、ハッキリと目を通した。











『 〜追伸 赤ちゃんが生まれたので今度のパーティはいつもより少し静かに頼む 〜』









赤ちゃんが生まれたので今度のパーティはいつもより少し静かに頼む・・・


赤ちゃんが生まれたので今度のパーティは・・・


赤ちゃんが生まれたので・・・







 赤 ち ゃ ん が 生 ま れ た 







「こどもぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉっ!!?」




ティトレイの絶叫と、勢いで引き裂いた手紙の破れる音が家中に響いた。






































絶叫から一週間後、パーティの当日となり、ティトレイはスールズにあるヴェイグとの家を訪れた。
そこには既に他の仲間達が集まっており、生まれたという「赤ちゃん」を囲んでわいわいと談笑中だ。
パーティ会場に飛び込んだティトレイが送ったのは祝福の言葉でも驚愕した感想でもなく、





「・・・・・・・・・お前ら紛らわしい書き方するなよ・・・」



脱力の言葉だった。





「可愛い」、「親にそっくり」とちやほやされる「赤ちゃん」は現在マオに抱かれている。
その腕の中に納まった愛らしい存在をもう一度認識しようとティトレイは目を向けた。



蒼月石を思わせる、まんまると可愛らしい蒼の瞳。
マオの掌にすっぽりと収まった小さな小さな身体が纏うのは桃のような淡く控えめな優しいピンク色の毛皮。
生まれて間もないが為に親のように甲高く「キキィ」と鳴けず「チィ、チィ」と聞く者を骨抜きにする甘い鳴き声。



・・・そう、「赤ちゃん」はヴェイグとの「赤ちゃん」では無い。

仲睦まじく互いの身体を寄り添い合わせたザピィとハープの赤ちゃんだった。



「お前が勝手に勘違いしたんだろう」
「いやいや、あんな紛らわしい書き方してあったら誰だって勘違いするだろっ」

誤解を生んだ文章を綴った本人に冷たく返されてティトレイは食い下がる。
目の前の銀髪のド天然はこの一週間、自分がどれほど混乱し大慌てしたと思っているのだろう。
こっちは出産祝いの品を三日三晩徹夜で考え、それによる寝不足でまともに仕事も手がつかなくなったというのに。

思わずこの場にいる仲間達に送り届けられたあの手紙の文面をずいっと突きつけてやりたい衝動に駆られた。
あの手紙は勢い余ってその場で破り裂いてしまったから不可能ではあるが。




「もー、さっきからティトレイうるさいんですケドー」

自身の掌に収まったザピィとハープの子(名前はまだ決まっていないらしい)を撫でながら
二人の元へ近づいてきたのはマオだ。

「相変わらずそそっかしいんだね、ティトレイ」
「うるせーやい」

からかうマオをジト目で見つめ、ティトレイはふと違和感を感じた。
いざ対面した状態になって気がついたが、前回に会った時よりマオの顔が近いような気がするのだ。


「マオ、お前もしかして背が伸びたか?」
「・・・もしかしては余計だと思うんですケド」

意外だとでも言いたげな顔をしている緑の兄貴を不服そうに睨みつけてから、
「ボクも成長してるって事だよネ」と言って赤の弟は胸を張る。




「でも1pなのよね、マオ」
「なんだよ、言うわりにはあんまり伸びてねーんだな」


1cm程度ではあまり気がつかない方がむしろ普通だろう。
大体自分だってこの二年間の間に少なくとも1cm以上は背が伸びているのだ。
そう思うと、自分の観察眼の良さをティトレイは心の内に褒めた。

うるさいなぁとばかりに恨めしそうにマオの視線がティトレイをチクチクと刺激するが、気にしないでおく。

狭まるどころかまた開いてしまったティトレイとの身長差を
もう内緒にしててよと会話に混ざってきたアニーに抗議をするマオ。
旅をしていた頃から姉弟のような間柄であったこの二人は相変わらずのようだ。



「お前達、話はそれくらいにしての手伝いをしたらどうだ」

三人をたしなめながらもユージーンはテキパキと手を動かす。

パーティの準備はまだ途中だ。
開催会場がヴェイグやの家ではあるが準備を家主に押し付けっぱなしには決してしない。
確かに会場が自宅であるため、掃除や片付け、テーブルの設置といった下準備はほとんど二人に任せてあるが
テーブルクロスを敷いたり、皿を並べたり、料理を作ったり運んだり・・・
そういった中準備からは全員で取り掛かるのが自分達のパーティでの約束となっていた。


皆で衣食住を共にしていた『あの頃』を振り返るように皆で一つの作業をする事からパーティは始まる。
思い出話や今の自分達を語るのはパーティの中盤だ。


「よーっし!遅れてきた分、豪華に料理作るからなっ!」
「ティトレイは料理だけは凄腕だもんネ」

袖を捲くって張り切るティトレイの傍らでマオがからかうが、そこはティトレイまもなく20歳。
華麗に聞き流して調理を開始した。






























「じゃあアニーは今度の月に試験なのか」


焼き上がったばかりのピーチパイを綺麗に切り分けながらはアニーを見つめる。
少し後ろ髪が伸びて、今では少し大人びた雰囲気を出している目の前の少女が頷いた。

「はい、来月からバルカで国家医師免許取得試験が始まるんです。
 今はミナールでミーシャと一緒にキュリア先生にお勉強を教えてもらっていて・・・」

「そっかそっか 頑張れよアニー!お前達ならきっと立派な医者になれるって!!」
「・・・アンタ そういう事は口の周りの食べカス拭いてから言いなさいよね」

ヒルダは呆れた眼差しを向けながらも手に取ったナプキンをティトレイの口に押し付けた。
そのまま些か乱暴に汚れた口を拭ってやる。


その二人の男女の姿は恋人というより姉弟のようだ。
・・・・・・恋人でもないワケだが。


相変わらずの光景を見てクスリとクレアが笑った。




「お二人は相変わらず仲が良いのね」
「な、何言ってんだよクレア!だからオレ達はそんな関係じゃ・・・」

慌てて否定するティトレイだが、クレアから見れば何処か満更でも無さそうに見えなくも無い。

「そうよ、クレア。私にとったらコイツは孤児院の子供達みたいなモンなの。・・・子供達の方がよっぽどお利口だけどね」
「・・・おばさんは前にも増して口の悪さに磨きが掛かったよな」
「ぶつよ」



「ティトレイとヒルダにも何か身の周りに変化はあったのか?」


二人にとってお決まりとなった締めの言葉を確認してからユージーンが訊ねた。


「オレは相変わらずだぜ。また仕事の合間に皆の所へちょくちょく顔出しに行くからな!」
「私はそうね・・・最近の出来事といったらプロポーズされた事くらいかしら?」

「「「プロポーズ!!?」」」


ヒルダがあっさりと呟いた衝撃の一言にマオ・アニー・ティトレイの三人が叫ぶ。



「誰だよそんな怖いもの知らず!!」
「どういう意味なのよ」

ティトレイを睨みつける。


「したのは一人?それとも二人くらいなの!?」
「五人はいたと思うわよ」
「五人も!?」


マオに人数を教えてやる。



「素敵な方ですか!?」
「そうね。あと10年経ったら素敵になるんじゃない?」
「・・・・・・え?」


そこでようやく三人の質問攻めが止まった。


今ではなく、10年経ったら・・・?

「ねぇヒルダ・・・プロポーズされたんだよね?」
「えぇ。「ボクが大人になったら結婚してください」って孤児院の子達からね」


柔らかく微笑むヒルダに、三人が脱力した。
それはもう、ぐったりと。

つまりはヒルダが頂戴したプロポーズとは
あどけない少女がよく口にする「大きくなったらパパと結婚する」と同義語だという事だ。
すっかり騙された三人がこの二年でますます艶美になった女性を恨めしげに睨み上げる。

あぁ三人には細められた紫苑の瞳が小悪魔の目に見えた事だろう・・・。



ただ脱力した三人のうち、緑の青年だけはどこか安堵の表情を浮かべているような気が、にはしないでもなかった。
・・・まぁ、きっとその安堵の表情の理由も彼女を『そういった』対象として見ているからというよりは
偶然にも同い年である彼の姉の姿をヒルダに重ねているからという事だろうけれども。

もしティトレイのその気持ちが別の感情へと発展するとしたらそれはもう少し先の話になるのだろうなと
密かに考えつつ、は微笑んだ。

「ヒルダ姉様の性格は変わりませんね」
「いーや、むしろ年のせいで一層に悪くなっ・・・」


直後、ヒルダの拳がティトレイの頬に吸い込まれていった。

なんとも鮮やかなパンチだった。




「・・・そういうアンタは変わってないの?」
「・・・私、ですか?」

まさか返ってきた質問に目を丸くすれば、短く「そうよ」とヒルダが返す。
視線はついつい見事なストレートを打ち込んだ彼女の拳へと移ってしまう。

その視線をチラリと隣の椅子に座っているヴェイグへと向ければ目が合った。


瞬間、自分を見つめる蒼の瞳が愛しげに細められた。

優しく微笑を浮かべるヴェイグに応える為に自分も微笑めば、
呆れた感情をひしひしと言葉に乗せてマオが声を上げた。


「あーぁ、何も言われなくても分かっちゃったヨ」
「わっかりやすいな お前ら」

腫れた頬を撫でながらティトレイも同意する。
続いてユージーンが深く頷いた。瞳は慈愛に溢れている。

例えるならば「幸せに満ち満ちた愛娘を結婚式へと送り出す父親の瞳」だろうか。


「・・・上手くいっているようだな」
「もう二人の間に障害は無いってカンジね。ごちそうさま」


やはり呆れたかのように皮肉っぽく祝福の言葉を送るヒルダだが、その瞳は優しい。


「試験が無事に終わったら・・・私も素敵な恋がしたいなぁ」
「二人が幸せでとっても嬉しい。・・・でもヴェイグが一人立ちしちゃったみたいでちょっと寂しいかな」

恋に憧れを馳せるアニーと少し寂しさを表しながらも純粋な気持ちで祝福するクレア。
クレアの祝福に続いて三匹のマフマフもヴェイグとを冷やかすかのように鳴いた。


「あ、お前らの子供も待ってるからな」
「たまになら子守りも代わってあげるわよ」


団欒の中、祝福とからかいの言葉を受けて頬を真っ赤に染めたヴェイグと
もう一度視線を交えてから羞恥の感情に耐え切れずに俯いた。


















仲間達の生活や感情は、この再誕した世界で少しずつ変わってきている。


しかし今回仲間達と集まって再確認した事がある。





自分達を繋ぐ絆はいつまでも変わらないという事を。


鈴原深子様リクエストの「ED後に仲間達が集合してほのぼの暢気に談笑してるお話」でした。
本当にもう談笑しているだけで終わってしまいました・・・申し訳ない・・・orz

ヴェイグと夢主は同棲生活1年突破。初々しさが残るけど老夫婦みたいな貫禄すらある。
ユージーンはミルハウストやワルトゥと共に国を支えている。軍隊復帰してそう。
マオはユージーンの元でお手伝い。自分探しの旅も継続中。
アニーはミーシャとキュリア先生の下でお勉強中。
ティトレイはセレーナと共に工場で働いて、たまにヒルダの孤児院の手伝い。
ヒルダは孤児院を開いて子供達と共に過ごしてる。ミリッツァも一緒だったら良いなぁ^^
そんな妄想予想をしています。

・・・ところでユージーンはいつ嫁さんを貰うのだろうか(笑)
ヴェイグと夢主の生活風景についてはまた別の機会に文章にしてみたいと思ってます。


鈴原深子様 リクエストありがとうございました^^
これからも共にTORを愛しましょう!