はボクなんかよりずっと強い女の子だ。
剣術も導術もスゴクって状況に応じて戦い方を変える事が出来ちゃうし。
性格だって勇ましくてカッコイイ。

随分とシビアな環境で育ったせいなのかもネ。


・・・それでもは『女の子』だ。
だからボクが守らなきゃって思う。


だってボクは『男の子』だからネ。




















「ぶえーっくしょぉぉぉいっ!!」

ティトレイの盛大なくしゃみが洞窟内を反響して駆け巡る。


「ティトレイさん、大丈夫ですか?」
「てゆーかオヤジくさいくしゃみだったよネ・・・」

心配したアニーの後に冷静につっこみを入れるマオの声が続いて、それらもくしゃみの後を追うように洞窟に響いた。


ヴェイグ一行が歩いているのは照り付ける灼熱の太陽によって金色に輝くクロダダク砂漠
・・・の砂の下を通り抜ける地下水路、カレーズである。

同じ場所であるというのに地上と地下という違いだけで環境面に大きく差が生まれているのだから
身体を冷やして一発くしゃみをかましてしまう事くらい仕方がないだろう。





「クレア、寒くは無いか?」
「うん、平気よ。ありがとうヴェイグ」

ふとマオの背後で、カレーズに入ってからずっと仲睦まじい雰囲気を醸し出しているヴェイグとクレアの声が響く。
何気なく振り返ろうとすればマオの視界を遮るようにして横を通り過ぎるの姿。
完璧なまでに整った美貌が歪んでいて、眉間にはくっきりと寄った皺。




・・・ものすっごく面白く無さそうな顔してる・・・






そんな感想を頭に浮かべつつ、多分原因はアレなんだろうなぁ・・・と背後の二人を一瞥した。







こういう時こそボクがに声をかけてあげなきゃ!


そう決意し、名前を紡ごうとマオが開口した瞬間、呼び止めるよりも先にが歩を止めた。
先程の不機嫌顔もすっかりと消え、視線は遠くに向けられている。
彼女の肩に乗ったマフマフのハープも視線を先の闇へと向け、ピクピクと耳を澄ませていた。


「・・・どうしたの?
「・・・・・・音だ・・・」
「音ぉ?」


の呟きを聞き取って、鼻を啜っていたティトレイも耳を澄ます。







・・・・・・遠くからかすかに声が聞こえる・・・




段々と大きくなる声から、声の主はこちらに向かってきているのだろうと推理をして、
ティトレイはもっと情報を取り入れようと神経を耳へと集中させた。























うぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ

きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ

やんスぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ











「・・・・・・オレ、何となく誰か分かっちまったぞ・・・」



特に最後の声で。




げんなりとしてティトレイは呟くが、後から彼に続き耳を澄ませたヴェイグ達も疲れたような顔を浮かべている。
どうやら一同の気持ちは同じようだ。


ただ一人、クレアだけは彼らの浮かべる表情の意味が分からずに首を傾げた。



「どうしたの?皆」
「あー、そういえばクレアは知らないんだっけ・・・」

なんてマオが呟いている間にも声は次第に近づいてくる。






やがて、漆黒の名の如き暗闇から三つの影が姿を現した。




・・・・・・漆黒の翼だ。






漆黒の翼一同は肩を上下させながらゼェゼェと喘いでいる。
どうやらココに至るまで全力疾走していたようだ。


今にも息絶えそうな呼吸音を瞬時に整え、不死鳥の如き強靭な回復をスピーディにさせた細身の男―――ギンナルが
ヴェイグ達一行を確認して「おぉ!」と歓喜の声を上げた。

「なんだ、久しぶりだな お前達」
「あんまり会いたくなかったけどネ」
「お久しぶりです、ギンナルさん」
「うむ、元気かお譲ちゃん」


辛辣なマオと優しいアニーがギンナルと久々の再会の挨拶を交わし、それに対応するギンナル。
涼やかなカレーズの一部が和やかな雰囲気に包まれた。


「ちょっとギンナル!!」






ほんの「一部」だけ。




「呑気に挨拶してる場合じゃないでしょ!」
「そうでやんスよ!」


残りのメンバーであるユシアとドルンブがギンナルへと釘を刺す。


「何か急ぎの用事か?」

訊ねるユージーンに対して歯切れ悪く「いや・・・」とギンナルが呟く。
それと同時に漆黒の翼達が駆けてきた水路の方からまるで彼らを追いかけてくるかのような水の音。




・・・・・・嫌な予感。









「・・・・・・まさかとは思うがお前達・・・」


苦虫を噛み潰したような表情を浮かべてが呟いた。

水音はどんどん大きくなる。






「上の砂漠で流砂に巻き込まれて気がついたらココに辿り着いて・・・」



近づく、


「もう何時間も何時間も彷徨っていていい加減脱出したくてだな・・・」


近づく、


「もういっそ近道が出来ないものかと壁を破壊したのだ」

近づく、




「そうしたら見事に地下水脈に大当たりしてしまったのだ」







鉄 砲 水 。








言葉と共に豪水が漆黒の翼を飲み込む。


「クレア!」

咄嗟にクレアを守って彼女を抱えるヴェイグ。
瞬間、ヴェイグ達にも水が襲い掛かった。



水に流される事で地に着いていた足が地面と別れを告げた。
水中と化した周囲を掻き分け天井に向かって泳ぐ。



「皆!無事か!?」

顔を出したユージーンが一同の安否を確認する。
同時にティトレイがぶはぁっと声を上げながら水面から顔を飛び出させた。頭の上にはザピィ。


「あの漆黒トリオ・・・本っ当に余計な事しかしないな!」

そう言ってティトレイがぼやけば、頭上のザピィが同意するかのように一声鳴く。

「ヒルダさん大丈夫ですか?」
「えぇ、何とかね・・・・・・アンタいつの間にココにいるのよ?」

アニーとヒルダが互いを確認し合う。
ヒルダがいつの間にか肩にしがみついているハープを見て呟けば、小さなくしゃみが帰ってきた。


一同に遅れてようやくヴェイグが流水から顔を出す。彼に抱えられたクレアも続いて顔を出した。

「クレア・・・無事か!?」
「えぇ、大丈夫よ」

微笑を浮かべて、心配げに顔を覗くヴェイグに頷く。
ふと、クレアは周囲を見回した。

二人足りない・・・。



さんとマオは・・・?」
・・・!?」


言われてようやく気がついたヴェイグも周囲を見回す。
とマオがいない。




「皆ー――――っ!ココだよー――っ!!」


マオの声がする方向を向けば、一同から数メートル先の位置で流されている二人。
を抱える形でマオが浮かんでいる。


が瓦礫で足を怪我しちゃって泳げないんだよ!」
・・・!今そっちに・・・・・・」
「構うな!」

叫んで、ヴェイグの助けを断る


「・・・私は大丈夫だから・・・クレアを見てろ、バカ」
「何言ってんだよ!」

ティトレイの反論に同調してそうだそうだと言わんばかりにハープとザピィが鳴いた。
そこに「待て、ティトレイ」とユージーン。


「確かこの先は水路が二手に分かれていたな・・・マオ達の位置では離れ離れになってしまう」
「だったら尚更助けねぇと・・・!」
「・・・どの道、この勢いでは流れに逆らって泳ぐ事など無理だ」
「幸い、は一人じゃないわ。・・・相手がマオってのがちょっと心許無いけどね」

ユージーンとヒルダが状況を見極め冷静に判断すれば、目先に広がる二つの水路。
まるで喉が渇いた巨人の口のように、二つの水路は豪水を暴飲している。

水の流れから見て、マオとはヴェイグ達とは違う方の水路へと飲み込まれる事だろう。




「マオ、!水の勢いが治まったら後で合流しよう!!」
「分かったよユージーン!じゃあ皆、また後でね!」
「ヒルダ姉様!ハープをお願いします!!」
「早く迎えに来なさいよ」


短く別れを告げて、ヴェイグ達と・マオ組はそれぞれの巨人の口へと食べられた。
















































「・・・・・・なぁ、前もこんな事なかったか・・・?」

ようやく流れも緩やかになり、足と地面が感動の再会を果たしてからは呟いた。
彼女の両手は濡れた彼女の服から水を追い出すためにギュウッと服を掴み、絞っている。


何だか以前にも似た事があったような気がしないでもない。


「漆黒トリオと関わるとホントろくな事ないよネ・・・あー、ビチャビチャ・・・」

マオは苦笑を浮かべながらブーツを脱いでひっくり返す。バチャッという音を立てて水が足下へ落ちていった。

「何処まで流されちゃったのかなぁ・・・」
「初めて来る場所みたいだな・・・」


歩きながらは周囲を確認し出す。・・・もう足の怪我は塞がっていた。



・・・何でさっき助けようとしたヴェイグを拒否したんだろう。


ふとマオの中でそんな疑問が頭に浮かんだ。


足がすぐに治癒する事が分かっていたから?
水の勢いに逆らうヴェイグが危なかったから?


それとも・・・


「・・・ねぇ、。どうしてヴェイグに「構うな」って言ったの?」
「・・・・・・アイツ、クレアを抱えていただろう。私の所へ来る余裕なんて無いじゃないか」
「本当にそれだけ?」



確かにそんな気持ちもあったんだとは思う。
でもそれが本音のようにはどうも思えなかった。


「ボクにはクレアの事ばっかり考えてるヴェイグに怒ってたように思えたケド」
「・・・・・・っ!」




は常に無表情だ。
それはマオと出会った頃から今でもずっと変わらない彼女の普段の顔。
でも最近はそのポーカーフェイスが容易く崩れるのだ。

感情を手に入れてから、ヴェイグと出逢ってからその頻度は多くなった。




今も、図星を言い当てられて染まる頬。
しかしそれも一瞬の出来事で、一度目を閉じ小さくため息を吐いたらはまたいつもの表情に戻っていた。


「・・・ヴェイグ、の事だってすごく心配してたじゃない」
「それでもクレアを選んでたじゃないか」


常にヴェイグが気にかけるのはクレア。
彼が押し寄せてきた水から第一に守った存在は彼女だった。


・・・当たり前だ。彼にとって自分は『ただの』仲間に過ぎないんだから。

「守る」なんて約束をされたって結局彼の最優先は『クレア』である事はどうあっても崩れない。


その事実を目の前でハッキリと突きつけられたら助けなんていらないと思えた。
ヴェイグに守ってもらわなくたって大丈夫だと見せつけてやりたかった。



・・・・・・醜い嫉妬だという事は水に飲まれる前から分かっていた。






「・・・巻き込んですまなかったな、マオ。助けてくれてありがとう」


同時に巻き込む形になってしまったマオにも申し訳なさがあったから、
謝罪と感謝の言葉を述べて微笑んだ。


・・・微笑んだつもりだった。



「・・・そんなカオしないでよ、


でも、失敗していたらしい。
マオのその無垢な瞳には自分の表情はどんな風に映っていたのだろう。
彼の瞳に今の醜い自分が映る事さえ申し訳なく思えてくる。


そんな風に思っていたに向かって、マオが全身で飛び込んできた。
放すまいとばかりに抱きついて、彼女の腰に回した腕をギュウギュウと引き寄せている。


「抱きつく」というより、「しがみつく」と表現した方が正しそうな、熱烈な抱擁だ。



「マ、マオ・・・?」

マオの突飛な行動が理解出来ずに困惑する
その様子を見上げながら「アハハ」と笑い出すマオ。

「もう少し背が高かったらカッコ良く抱きしめられるのに・・・ゴメンね、


マオの言う通り、抱きしめているのにしがみついているようにしか見えなくておおよそ「カッコ良く」はない。
彼女を慰めているのは彼なのに、その身長差からマオが甘えているように見えてしまう。


「強がらなくて良いんだよ。守って欲しいって思っても良いんだよ」
「そんな事・・・」

否定しようとする強がりなに、「嘘はダメ」と言い切ってやる。

「・・・・・・クレアは『女の子』なんだ。だから甘えたって守られたって良い」
だって『女の子』じゃない」
「・・・・・・守られる側ではない・・・」
「そーかなー?」



はボクなんかよりずっと強い女の子。
性格だって勇ましくてカッコイイ。


でも本当は繊細で脆くて、それなのに周りの為に無茶ばっかりしちゃう優しくて不器用な女の子。

皆、それを知っている。


だから、を守りたいって思ってる。
ボクもヴェイグもユージーンもティトレイもアニーもヒルダもクレアもみーんな。



「・・・まっ、そのうち分かると思うけどネ」

そう言ってをようやく解放する。




今は自身が皆からどう思われてるかなんて自覚が無いみたいだがいずれ必ず分かる事だ。焦る必要は無い。

それまで自分が彼女を守っていれば良い話なんだから。



「さぁ、。皆と合流しよう」
「あ、あぁ・・・」


まだ言い足り無さそうなの手を引いて歩き出すマオ。
数歩歩いたところで「マオ」と声をかけ、は残していた言葉を紡いだ。



「・・・とてもカッコ良いよ。ありがとう」

感謝の言葉と共に、自然と浮かんだ美しく温かな微笑を「カッコイイ少年」へ贈る。




「うん!」

マオも負けないくらいの笑顔で返し、の手を強く握った。

















・・・きっと今頃ヴェイグは必死にを探してるんだろうな。
「ちょっと休んだ方が・・・」なんて言うユージーンやアニーを振り切って、全力での事を探してるんだろうなぁ。


だってヴェイグが守りたい女の子ってクレアだけじゃないんだもの。



合流したらヴェイグに言ってやろう。






「あんまりを傷つけるとボクがを貰っちゃうぞ!!」


・・・なーんてネ♪


Tiara様リクエスト「マオ夢」。
マオ夢っていうよりヴェ→←夢主←マオみたいな感じで申し訳ありません・・・。
マオはパーティ最年少だけれども
ある意味ヴェイグやティトレイよりずっと大人なんじゃないかなというイメージがあります。
少なくともただのショタキャラではない(爆)

Tiara様リクエストありがとうございましたっ^^