アガーテが何かにショックを受け、暴れた後もまた様々な出来事があった。



ユージーンがラドラス陛下の主治医であったドクター・バースを殺したのだ。
二人は親友同士だ。それが何故殺害をしたのか。


信じ難い事件だが、ユージーン自身がバースを殺した事実を認めている。


だが動機は決して言葉にしなかった。
ただただ「私がバースを殺めました」とその言葉だけを口にする。

結果、ユージーンは軍を追放、彼に懐いていたマオも王の盾を脱走し、彼の後へついて行った。



…マオが脱走したとサレから報告がある前に、
実は自身はマオから「王の盾を脱走する」と事前に告げられていた。
そして、「一緒に来ないか」とも。

しかし、は「サレがいなくなったら自分の存在意義を失う」と言ってその誘いを断っていた。


・・・誘ってもらった礼として、その事に関しては誰にも告げずに黙る事にしたのだが。









ユージーンとマオが王の盾から姿を消して数日たったある日、
すっかりと女王の威厳を身につけたアガーテから、王の盾へ特殊任務が出された。


それは理由さえも教えられぬ何とも不可解な内容。




凛とした声でアガーテは命じた。


「美しいヒューマの女性を集めよ」…と。


























ウエスタリア大陸北部に存在するケケット街道。
愉快そうにクスクスと笑いながら、サレはを後ろに引き連れて路なりにそこを歩いていた。

「……美しいヒューマねぇ…女王様ったらそんな趣味があったんだぁ」


「そんな趣味」がどういう意味かイマイチ理解は出来ないが、は黙ってサレに従い歩く。



二人は女王の命に従い兵士を連れて、
「美しいヒューマの娘」を求め『スールズ』というケケット街道先に存在する村へと向かっている最中だ。



「トーマが先に向かったけど…、どう思う?」
「あの方ですから…『ヒューマはどれも同じに見える』…と言っている気がします」


先発隊としてサレと同じく四星であるトーマが一足早くスールズへ向かった。
恐らくは今頃村人を集め美しいヒューマを探している事だろう。

しかし彼はガジュマである為か、「ヒューマの美しさ」に非常に疎い。
以前「ヒューマは全て同じに見える」とまで言ってたそんな彼に美しいヒューマが選び抜けるのか。


・・・きっと無理な話だろう。
そうは思ってサレの問に答える。


すぐに頷いてくれた主人。


「やっぱり?僕もだよ」

またも愉しそうに笑うサレ。







そんな主人を見て、がはにかむ。

柔らかくなる、『人形』と呼ばれた少女の表情。



「…うん?どうしたんだい?」
「いえ、サレ様に従えて、幸せだと思っていただけです」


その言葉を聞いて、サレが立ち止まる。

じっとを見つめた。




「サレ様を失ったら、私は存在意義を失ってしまうような気がします」
「………へぇ」



その言葉に関心を持ったようにサレは呟いて、そして目を細めてニヤリと笑った。



冷たい瞳に歪んだ口元。彼特有の微笑だ。





「良い事聞いたよ。ありがとう」

フッと笑ったサレは止まっていた足を動かし、再び街道を歩き出した。



見渡す限りの山と木々、足下には雪解け水やまだ融け切らずに残る雪が広がっていた。
首都のバルカとの随分の違いに少し興味を抱きつつ、はサレの後を追う。


彼女の肩に乗るハープは久々の自然が嬉しいのか、
鼻をヒクヒク動かしたり「キィッ」と元気よく鳴いたりしている。




「…そういえば、こんな地方に美しいヒューマがいるんでしょうか?…村娘ですよ?」



村娘=朝晩関係なしに忙しく働き回り、手や髪は傷んで服も泥だらけ…
「村娘」にそんなイメージを抱くが美しい娘が居るという事を疑うのは当然と言えば当然だった。

今回の目的地であるスールズは小さな村とサレから聞いているので、なおさらかもしれない。



「いるらしいんだよ。とびっきりの美人。氷付けにされていて、巷じゃ『氷柱華』って噂になってるんだって」
「氷付けですか…?…フォルス能力者の仕業でしょうか…」
「だろうね。…あぁ、スールズが見えてきたね。行こうか」



先に見えてきた小さな村。


二人の雑談は終了した。

























小さな村の小さな集会場広場には、そこを埋め尽くすように村人のほとんどと、沢山の王の盾の兵士がいた。

その人集りの中心になって、トーマとユージーン、マオとそして見知らぬ青年が武器を交えている。


トーマという人物を知っているサレ達ならばどういった経緯でそうなったのかはおおよそ見当がつく。
強引に村人を集めたところ、反対勢力となった者と対立して今に至るのだろう。

…しかしユージーンとマオがこの場に居るのは正直驚きだ。






サレは四人の元へ歩み寄り、両手をパンパンと叩いてその戦闘を中断させる。



緊迫した空気を乾いた音が切り裂いた。


「…それで?この三文芝居はいつまで続くのかな?」

サレは周りに取り巻いていた人々を眺める。
そして一際目を惹く金髪の娘を見つけると、笑った。


「何モタモタしてんのトーマ。クレアちゃんだっけ?あの娘がこの村一番の上玉だよ」

金髪の娘を指差してトーマに伝える。

そのまま、彼女を観察し始めた。




アレがウワサの『氷柱華』…。

確かにトーマが集めてた女の子よりはずっと綺麗だけど、程ではないね。
まったくあのコ見てると他が普通に見えてくるから困るよ。




サレが金髪の娘を眺め続けていると、先程の発言に怒ったトーマが噛み付きだして、少女の観察は中断となった。



「サレっ!モタモタとは何だ!!」
「まったく、ヘタに暴れてお人形さんに傷でもつけたら大目玉だよ」

トーマが怒りを向けてきたところで、大して何でもないし、どうでも良い。
大体この男の気の短さに付き合う気なんてサラサラ無い。

サレはそんな思いを秘める事無くむしろ曝け出すようにやや大げさにため息を吐いた。




「やかましい!いちいち指図されなくても分かっているわ!お前の連れている薄汚い人形と違ってなっ!」


トーマの怒りはサレだけでなくにもぶつけられる。要は八つ当たりだ。
の肩に乗っていたハープがトーマの罵倒を聞きつけて、毛を逆立てて威嚇した。




「…だったら良いケド。さっさと彼女を連れて行こうよ。


彼女をこちらに連れ出せ。

サレに呼ばれた意を理解して、金髪の娘の元へが歩く。




その行く手を、先程トーマと戦っていた青年が阻んだ。
障害となった青年の姿を確認する。


自分の髪と比べるとやや青味のかかった長い銀髪を持つ長身の青年。
綺麗な青年だと密かに思いつつ、は端正な顔を歪めてこちらを睨む青年を睨み返した。


「邪魔をするな。……どけ」
「クレアは渡さんっ!」


叫んだ青年は右手に持つ大剣をに振るった。ヒュッと空気を切り裂く刃が迫る。
はそれを後ろに下がることで直撃は避けたが、剣圧で右頬に一筋傷が入った。

軽く肉が割れ、赤い鮮血が溢れる。



それにサレが、ほんの少しだけ反応した。




「…、一旦こっちにおいで」

言われた通りにはサレの元へ大人しく戻る。
未だ大剣を構えてこちらを威嚇する青年を見て、フンとトーマが鼻で笑った。


「まったくちょろちょろと目障りな奴だ」
「トーマ相手にするな。話はもうついてる。そうですよね、ユージーン隊長?」

サレは微笑を浮かべながらユージーンの方を見て言った。
銀髪の青年が戸惑うのを見て上機嫌になったサレは続いてマオを見る。


わざとらしく言葉を放った。


「おやぁ?一緒にいるのは脱走兵のマオ坊やじゃないか」
「脱走兵…!?」

予測通りの青年の反応に気分を良くしつつサレは続ける。



「以前なら王の盾の脱走兵なんて重罪人放っときゃしないケド、フォルス能力者が増えて管理もいい加減だからさ。
 …まぁ、君程度のチビっ子 いつでも始末出来るケドね」

何も言い返さない二人を見てサレはよっぽど機嫌が良いらしい。声はどんどん弾む。


「ユージーン隊長さんなら、僕のやり方わかってるでしょ?」
「何を言っている…?」


敵意を持った瞳で青年はサレを睨みつけたが、サレは気にせず右手の人差し指を上に向けた。


「わからないお友達は頭上に注意」







彼が指し示したのは空中だった。



サレ&夢主スールズに到着の巻。
中途半端なトコで終わりました。すみませんです。

ようやく本命ヴェイグ登場。
ひとつのキャラとして夢主が好きです。
だからサレ×夢主もヴェイグ×夢主も一CPとして大好きです。