ラドラス陛下が崩御した。
王が逝去する事ほど国の一大事な事はないが、それだけでは終わらない。
何かの思惑ゆえかあるいは気の迷いか…それは定かではないが、
ラドラスは死の間際に自らのフォルスを全開し、解放した。
陛下のフォルスの力は世界中に飛び散り、それに感化したバイラス達が突如凶暴化、次々にヒトを襲った。
しかし、まだまだ良い方だ。
その開放されたフォルスに反応し、本来ならフォルスを持たないヒューマ達へもフォルス能力が覚醒したのだ。
突然のその能力の発動に驚き戸惑った能力者となった人々は
制御の仕方も分からぬフォルスを暴走させてしまい、結果ヒューマもガジュマも問わずに混乱に落とされてしまった。
そうしてフォルス能力者が急激に増えたせいで
『能力者を管理する』というシステムを展開していたハズだった王の盾もその意味を為さなくなった。
だが、これでもまだまだまだ良い方だ。
困ってしまうのは………
「っ!」
声をかけ、ヒシッと腰に抱きついてくるこの紅蓮の髪と瞳を持った少年である…。
―――『ラドラスの落日』。
後にこう呼ばれるこの出来事により、世界は大きな混乱へと陥れられていた。
流星のように散っていくラドラス王が開放したフォルスを窓越しに見つめながら、
は混沌と化した世界の悲鳴に耳を澄ませていた。
「、今から鬼ごっこをするよ」
…そんな状況でありながらも、のんきにそう言ったのは彼女の主人のサレだ。
彼にとっては王の崩御も世界の混乱も一時の喧騒でしかないのであろう。
しかし、与えられた『命令』が街の住人の救護でもなく凶暴化したバイラスの掃討でもなく、
『鬼ごっこ』とは一体どういう事なのか。
「鬼ごっこ…ですか?」
「そう。僕とが鬼。捕まえるのは侵入者。さっ、行こうか」
…つまり、城に侵入者が入ってきたのでそれを捕らえろ、という意味らしい。
…城内を探索し始めて数分としないうちに、燃え盛る城の通路の真ん中にてフォルスを暴走させている紅蓮の少年を見つけた。
通路を燃やしているところを見ると、少年が暴走させているフォルスは『炎』のようだ。
炎のような赤い気を纏い、虚ろな目をしながら少年が呟く。
「…ボクは…誰…」
少年の空言は他人に訊ねるような内容ではない。
ボソっと吐き出されたそれを聞き取って、サレが笑う。
「可哀想に。フォルスが暴走してる上に記憶喪失か。……すぐに楽にしてあげるよ」
残虐な微笑を浮かべ、サレは右手を持ち上げた。
徐々にフォルスを高め、手中に小さな嵐を生み出す。
少しずつ少しずつ、それは音を立て大きくなっていた。
風の勢いに怯えて、ハープがの後ろへ回った。
「それが優しさってやつだよね、」
「…そういう考えもできますね」
主人がこの虚ろとした記憶喪失の少年に何をしようとしているかなんて、分かりきった事だ。
しかしはそれに対して何も口答えはしない。
サレの手で生み出されたフォルスの風を、ただじっと見つめているだけだ。
この嵐が彼の手から離れれば少年は――――――――
「サレっ!待て!!」
唯一サレに制止をかける一つの声。
同じく侵入者を探していたのであろうユージーンであった。
彼の背後に、ワルトゥも居る。
だがもう遅い。
「え?遅過ぎですよ、隊長」
サレが言った瞬間、彼の右手から嵐が放たれる。
凶悪なる風が少年を呑み喰らおうと真っ直ぐに疾った。
嵐が切り刻んだのは少年ではなかった。
咄嗟に間に飛び込んできたユージーンが少年の代わりに嵐をまともに受け、倒れた。
…少年を庇ったのだ。
「隊長っ!!」
崩れたユージーンにワルトゥが駆け寄る。
二人の背後から「あーぁ」と呆れたサレの声。
「だから遅過ぎですよ、って言ったじゃないですか」
「サレ…!」
悪びれる様子もない目の前の男をワルトゥは睨みつける。
彼には分かっていたのだ。
サレが止める事が可能だった嵐を『わざと』放ったという事を。
しかも、少年を庇ってユージーンが嵐にぶつかっていくと予測した上で。
鋭く睨んでくるワルトゥを見て、サレは深々とため息をついた。
面倒、と言葉にする代わりのように。
「…わかりましたよ。、あの坊やを止めて」
「はい」
サレの命令通りにする為、は唇を噛み切った。
続いて、じわりと唇に溢れる血にフッと息を吹きかける。
血は霧散して赤い霧となり、少年を包み込む。
瞬間、少年はドッと勢いよく倒れた。
咽返るような血の臭いに嗅覚を刺激されたか、あるいは毒のように脳髄を麻痺させられたのか、それは定かではない。
しかし、少年は赤い霧を浴びて気絶した。
それは確かな事だった。
残った赤い霧が通路全体を取り巻く前に、サレがフォルスの風で霧を吹き飛ばす。
その風に巻き込まれるような形で通路を包んでいた業火も消えた。
後にが少年を介抱して目覚めさせたところ、
どうやらフォルス覚醒と同時に記憶を失ってしまっていたらしい。
名前すら覚えていないその少年に、ユージーンは『無』という意味で『マオ』と名付けた。
の、だが…。
「ねぇ、!一緒に食事食べようよ!」
「、アレ何!ねぇっコレ何!?」
「遊ぼーっ!!」
何故かにべったりな子になってしまったのである…。
マオ君夢主に懐くの巻。
夢主はマオにも好かれてますが、恋愛のようには絶対になりません。
あくまで姉弟のような雰囲気。
恋愛?対象はヴェイグとサレで。ティトレイは…ほら、ヒルダかアニーいるからさ(笑)
ティトヒルもティトアニも好きです。
さて、今度のヤツが終わればやっと本編だ。
ヴェイグに逢える…!!