サレに買出しをするように命じられたは、ハープを連れてバルカ名物の蒸気機関車に乗っていた。
は車窓から見える霧を静かに眺める。
遠くの方の霧は濃いためか、色が濁って紫色に見えた。
………紫色……
…やはり紫色を見ると、自分の主人をどうしても思い出す…。
「買ってくるのはブルーベリージャムとラズベリー、あとはハンカチだよ」
「ハンカチ…ですか?」
ブルーベリーだとかラズベリーだとか
彼の好物の食べ物ばかりを頼まれていたのに突然ハンカチと来るとは。
何故それだけ食べ物ではないのかと疑問に思いが訊き返す。
主人は頷いたから、どうやら聞き間違いではなかったようだ。
「そう、ハンカチ。ノルゼンで君の手当てに使ったでしょ?だからだよ」
…そういえばノルゼンにて、右手から流れる血をサレが自身のハンカチを使って止血してくれた。
そんな事もあったなぁと、は何処か他人事のように思い出した。
「返せって言ってもきっと君の血でベタベタだろうし、新しいのを買ってきてよ」
「じゃあよろしく」とサレが背中を向けた事で、話は終了したのであった。
「…しっかり洗ってあるのな、ハープ」
洗って、血の染みはフォルスで落として。
見事元通りになったハンカチは、再び彼女の右手のグローブの下に結ばれている。
すっかり元あった姿なのだから、コレを返すのも良いが
『命令』は『新しいハンカチを買ってくる』なので何とも言えない。
向かうは商店と洋服屋だろう。
主人が満足する商品があれば良いのだが。
「まもなく、商店前ー商店前でございます」
運転士の声が金管筒を通して車内に響き渡る。
「ハープ、降りよう」
目的地の商店前だ。
蒸気機関車を降りるためハープに声をかける。
窓縁に立って外を眺めていたハープは嬉しそうに鳴いて、の肩に飛び乗った。
購入したブルーベリージャムとラズベリーを紙袋に入れて落とさぬように両腕で抱え上げながら、店を出た。
何故かはわからないが、ジャムをもう一瓶とハープにはドングリをもらえた事がにとっては大きな謎だ。
・・・随分と気前の良い店主なのだな。
謎と思いつつも、は大して気に気に留めなかった。
ちなみに肩に乗るハープは幸せそうに頂いたドングリを頬張っている。
「……さぁ、次はハンカチだな」
ちょうどやって来た蒸気機関車に乗り込みながら、呟いた。
蒸気機関車でバルカの中心広場まで行くと、そこには大勢のヒト。
ヒューマ、ガジュマを問わずの人口密度に何だコレはと一瞬驚いたが、ココはカレギアの首都であったことを思い出した。
普段城で生活をしている分、日常的に会う人物は限られてきていた為、
こうも外は混み合っているのかと思うと息苦しさを感じる。
唯一、安心した事は霧が濃いため街を歩く人々の姿がハッキリと見えない事だ。
サレやアガーテやユージーンくらいしか接した事のない、人見知りなには何とも有難い。
さっさと店に入ってしまおう。そうすればこの人口密度も少しは良くなるだろう。
そう思い、真っ直ぐ服屋に向かうは、ふと視線に気づき立ち止まった。
しかし、殺気ではない。コレと言って『嫌』な気配のする視線ではないのだ。
むしろ好意的というか、少し熱っぽいというか・・・
一体何だろうと辺りを見回す。
すると、ヒューマもガジュマも問わずにその場の人々が揃って自分の方を注目しているのだと気がついた。
何故かはわからないが、呆けたような者もいるし、頬を染めている者までいる。
「…?…きっとお前が珍しいんだろうな、ハープ」
ハープはノースタリア地方にのみ生息しているノースタリアケナガリスだ。
確かにバルカでは少々珍しい生き物に思えるかもしれない。
「良かったな、ハープ。人気者だ」
肩のハープに声をかけながら紙袋を抱え直して、また歩き出した。
…買い物はあっという間で、右手に巻かれた物に1番近いデザインのハンカチを購入すると、
またもや何故かついでに紫色のシンプルな髪飾りをいただいてしまった。
シンプルと言えど、筒状の金環で所々に控えめながら細かい彫刻が施されている。
決して安いものでもないだろう。
何故こんなに商品を余分にくれるのだろうか。
人情一番な田舎ならともかく、街の住人というものは己の利益を考えるイメージがあった為、こんな事はないと思っていたのだが。
…バルカの人々は優しいんだな。
考えを改めなければと自己完結して、店を出た。
「サレ様、ただいま戻りました」
城に戻り、サレの私室に入ったは買出しの結果を報告する。
「そう、ご苦労サマ。…それで?何か余計にもらえたりした?」
「…?…商店でブルーベリージャムをもうひとつとハープにドングリをもらいました。あと…服屋で髪飾りを」
「やっぱりねぇ」
「そうだと思ったよ」と言葉が続く。
どうやら彼にはこんなにオマケをつけてもらえた理由が分かっているらしい。
どうしても解せないのは実際に買出しに出たの方だ。
何故だろう……ハープが可愛かったからだろうか。
いや、その考えはドングリだけなら納得がいくが髪飾りまでオマケしてくれる理由にはならない。
………何故だ。
「…?」
「……何でもないよ。美人は得して良いヨネってコト」
サレはそう言って、テーブルに常に備えてあるラズベリーグミの山から一つグミを手に取り、頬張った。
「そういえば…髪飾りはどうしましょうか?」
ドングリはハープが食べた。もう一瓶もらえたジャムはラッキーだ。当然サレが食べる。
しかし、髪飾りばかりはさすがに食べられない。
誰かが使用するしかないだろう。…しかし、誰が?
「僕がつけると思うのかい?」
「…つけないと思います」
髪飾りを装飾した主人をは想像してみる。
紫な彼が紫の髪飾りをつけたところで同色となってせっかくの飾りが目立つ事はないだろう。
それ以前に彼の髪は短いからつける所がない。
「だろう?…君がつけてれば良いさ」
つまりは買出しのご褒美のようなものだ。
了解したは髪飾りを手に取ると、髪を縛っている紐の上にそれをつけた。
サラリと揺れる銀の髪を彩る紫色。
「紫か……。おそろいだね」
「?何か…」
「いや、本当に何でもないよ」
笑みを深めるサレに、またの眉間が濃くなった。
夢主、はじめてのおつかいの巻
絶世美女の夢主なので皆オマケをくれます。
「お嬢ちゃん可愛いからオマケしちゃう!」みたいなカンジで(笑)
設定(ノート)では同じデザインのハンカチを買うハズでした。
でもサレ様って特注のヤツ持ってそうだから似たデザインってことにしました。
…てことは特注ハンカチーフで夢主の右手を手当てしたってことですね。
すごいよ、サレ様。
次回、シューシュー シューティングスター マオ坊や登場!