マオの試練も無事終了し、次の聖獣を求めヴェイグ達は新たなる道を歩んでいた。



・・・などと、上手くは行かない。






ヴェイグ達はラジルダまで引き返していた。
一気に逆戻りのその路を歩きながらはため息を吐く。


「・・・何故イースタリアの振り出し地点まで戻らないといけないんだ・・・・・・ハックめ・・・気の利かない・・・」
「ハックさんはラジルダにいるんですよね?」


そう、ハックはラジルダにいるのだ。
だから、ヴェイグ達はラジルダまで戻っている。




フェニアの言っていた『雲海にそびえし古の塔』が何を示しているのかヴェイグ達には理解が出来なかった。

「考古学の研究をしているハックだったら何かわかるかもしれないから彼に訊ねてみよう」
そう言ったアニーの提案に従ってピピスタに戻れば、ハックはラジルダへ戻っていったとドバル酋長に面倒くさそうに言われた。





・・・つまり、ラジルダへ戻ったハックを追いかけて、振り出し地点まで引き返しているのだ。






ティトレイが大きく重いため息をついた。
・・・彼だけではない。表情には出ていないが皆 気が重いのだ。



「オレ、あそこ嫌いなんだよなぁ・・・何で仲良くできねぇんだよ。気分悪ぃなー・・・」
「あそこは完全な対立が起こっているからな・・・ハックがラジルダへ行ったことで、何か起こっていなければ良いが」
「どういうこと?」


何故ハックがラジルダに行くだけで『何か』起こると言うのだろうか。
いくら頻繁にトラブルに巻き込まれるハックでも早々厄介事を生まないだろう。

・・・とそう思ったマオが首を傾げればヒルダもに同意して頷く。


「そうね・・・ハックは考古学者。当然闇の力の事を知ってるでしょうからね。ヒューマ、ガジュマの両方から狙われるわ」





『闇の力』―――それは先日ティトレイが手に入れた『聖獣イーフォンの力』のコトだ。
ラジルダのヒューマはそれを聖なるものとしているが、ガジュマの方はそれ忌むべきものと考えている。


片方は必要と求め、もう片方は不要と消す事を考えているのだ。


その力の手がかりとなるかもしれないハックは、ヒューマからは利用しようと狙われ、ガジュマからはそれを阻止しようと命を狙われる。







「そっか・・・ハック大丈夫かなぁ・・・・・・あ!ラジルダが見えてきた!」



駆け足でラジルダに向かったマオの後を、少し速めの歩調でヴェイグ達は追った。





































ラジルダは以前とはまったく違う姿でヴェイグ達を出迎えた。


道の続く限り倒れている傷ついた街の住人達。

無残に破壊されて崩れた家屋や馬車。


・・・倒れた、少女の営んでいた花屋の小さな棚。
その下にはかつては美しく咲いていたのであろう花々がしおれて散らばっていた。


ティトレイは倒れた花屋を見つめながら、ギュッと強く拳を握る。



あのコは無事だろうか?一体何があったのだろうか?






「しっかりしろ!・・・何があった?」

背後からヴェイグの声が聞こえて、ティトレイは振り返り視線を花屋から背後に向けた。

視線が捉えたのは、バルカの収容所でヴェイグ達が助けて、
また、ユージーンの鎮魂錠の件で助けてもらった人物。



・・・イゴルだ。
彼の傍らにハックもいる。



ヴェイグに抱き起こされたイゴルは腹を庇いながら小さく呻く。


「・・・やぁ・・・アンタ達か。・・・・・・ヒドイ有様だろ?」
「一体何があったんだ?」


「親父達がそこの・・・ハックを利用して・・・闇の力を取りに行った事を知ったフォグマが・・・親父達を・・・殺そうと・・・
 それで親父達は・・・・・・街のヒューマ達をけしかけて・・・フォグマを・・・・・・」


イゴルの言葉には眉を顰めた。
・・・予想していた最悪の事態が起こってしまった。





「このまま争うとこの街は・・・・・・大変なコトになる・・・・・・だから・・・」

苦しげなイゴルの言葉を聞いて、ティトレイは大きく頷いた。


「あぁ、任せな!親玉を捕まえてぶっ飛ばしてやるっ!!行こうぜ、皆!!」
「うっわぁ〜ティトレイって野蛮!・・・でもボク大賛成!!」


マオが同意して親指を立てる。


その傍らではイゴルの腕を肩に担ぐと立ち上がった。

「ぶっ飛ばしに行くのは結構だが先にイゴル達を宿屋に運んだ方が良い」


横目で宿屋をチラリと見てから、言う。


「あぁ、そうだな」

ヴェイグはに同意して頷くと、自分の後ろに居たクレアの方を振り返る。


「・・・二人に付き添ってやってくれ。外は危険だ。お前のためにも、その方が良い」
「え?・・・ぁ、ハイ・・・」
「・・・またクレア贔屓」

ジロリと目を細くしてヴェイグを睨みつけたは、
彼と目が合うとすぐに目を逸らしまたいつもの無表情になって何事も無かったかのように宿屋にイゴルを運んだ。































「待て!!」

ヴェイグは今にも乱闘を始めそうなばかりに鋭く睨み合う両種族の間に入る。



第三者の介入に、ガジュマ代表のフォグマが叫ぶ。


「何だお前は!ジャマをするなっ!!」

フォグマの前にユージーンが入った。


「こんな事をしても何にもならない!冷静に話し合ったらどうだ!?」
「ガジュマのクセにヒューマの味方をする気か!?」

その言葉にユージーンは首を振る。


「どちらの味方をする気もない。お互いを傷つけ合っても溝を深めるだけで何の解決にもならん!」

ふんとフォグマは鼻を鳴らした。
鋭く、憎しみを込めてヒューマ達を睨みつける。



「溝を埋める気など更々ないわ!ヒューマを根絶やしにしてしまえば溝などなくなるのだからなっ!!」


フォグマの強気な言葉に反応して、
ヒューマの代表、イーガはカッと大きく目を開く。顔が怒りで真っ赤になった。


「何が根絶やしだ!やれるものならやってみろ!返り討ちにしてやる!!」
「口先ばかりのヒューマなど怖くも何ともない!やってしまえ!!」


「オイっ!お前達いい加減に・・・!」

ヴェイグやユージーンに加わり、達も両者を止めようと間に入った。

ジャマをするなと一人のヒューマがアニーを突き飛ばす。
倒れこんだアニーにユージーンとヒルダが駆け寄った。


「アニー!!」
「・・・っアンタ達!いい加減にしなさいよ!!」




ティトレイは掴み合う両者を離そうと大きく叫んだ。




「やめろー―――――っ!!やめろって言ってんだー―――っ!!」











まさに殺し合いが始まってしまうと誰もが思ったその時。

街の入口からまた新たな第三者がやって来た。



銀の鎧で全身を武装した金髪の青年・・・・・・ミルハウストだ。
彼の背後にはサレとトーマ・・・そして、多くのカレギア兵が付き従っていた。


「ミルハウスト!」
「サレ様・・・!?」


驚くユージーンとを気に留めることもなく、ミルハウストは後ろに控える兵に淡々と指示を下した。

「族長二人を拘束し、暴動を鎮圧せよ!」


その指示に従って、サレとトーマ、兵士達が両者の元へ向かう。


「ハイ、どいたどいた。大人しくしないとイタイ目に遭うよ?」
「どけと言ったらどけ!」


サレとトーマは力尽くで周囲の傍観者を退け、道を作った。
途中、サレは鋭い殺気を向けられていることを感じてそちらに目を向ける。

殺気を向けてくるのはガジュマの老婆。
それを見つけると、面白いものを見つけたとばかりにサレはクスリと笑った。



子供のような笑みに隠されているモノは残忍で猟奇的な性格。

・・・サレの微笑の特徴だった。



向けられた美しい笑みがどういった意味を持つのかを知らない老婆は微笑を返されて一瞬困惑する。

ほんの一瞬。



老婆はすぐに困惑している暇もなくなった。
微笑を浮かべたまま、サレはフォルスを発動させて風を生み出し老婆を高々と持ち上げたからだ。


堕ちれば骨折だけではすまないほどの高さ。
それを理解して「ヒィっ」と老婆は短く悲鳴を上げる。

一方のサレは「ただの悪戯だ」と言わんばかりに端正な顔に浮かべた笑みを深めた。


「おばあさん、どこに落ちたい?」


実に楽しそうに口角を上げて笑うサレとトーマ。



「待て!サレ、トーマ!!」

二人を、ミルハウストが咎めた。

「何?僕達は将軍閣下の命令に従ってるだけだよ?」
「・・・悪戯に民間人を傷つけるようなやり方は認めていない」
「ふん・・・キレイ事で争いが解決できるとでも言うのか?」

投げ飛ばそうとしていたヒューマの男を片腕で掴み上げた状態のまま、トーマが返す。
ミルハウストは静かに言葉を続けた。



「私の命令は王国の意思だ。命令違反が何を意味するのか。・・・・・・わかっているのだろうな?」


サレはチラリとミルハウストの顔を盗み見た。
次に、遠くからこちらを不安そうに見つめる、銀髪の少女。

「つまらない」と言葉にする代わりにため息を一つ吐いて、サレはフォルスを解いて老婆を少々乱暴に降ろす。
腰が抜けた老婆は降ろされた体勢を立て直す暇なくその場に座り込んだ。


「・・・わかったよ。行こう、トーマ」
「・・・チッ」

トーマも不満げに舌打ちをすると、掴んでいた男の首を放す。
怯える男を一睨みしてやってから、サレの後を追った。



二人を見送ってから、ミルハウストは座り込む老婆に歩み寄り、手を差し伸べる。


「・・・大丈夫か?」

呆然としていた老婆は彼の言葉で我に返ると同時に、差し出された手を鬱陶しそうに弾いて自分で立ち上がった。
先程サレに向けていたものと同じ鋭さでミルハウストを睨みつける。


「アンタらの世話にはならないよっ!!」


ミルハウストは弾かれた手を少し見つめていたが、すぐに引っ込めて兵士達に次の指示を下した。



「只今をもって、この街をカレギア軍の管轄下に置き、全てのヒューマとガジュマを街の東西に分けて暮らすものとする!
 ・・・全体、一斉に行動開始!抵抗する者は実力を持って排除せよ!!」




指示が伝えられると、兵士は散り散りになって行動を開始した。



































クレアはハックとイゴルの介抱を済ませて、傍にあった丸太に腰掛けて一息ついていた。


そろそろ宿屋の中へ戻ろうかと少し緩慢な動作で立ち上がったクレアは、
もうすぐヴェイグやが帰って来る頃ではないかと街の中心に続く道の方に目を向けてみた。


しかしすぐに、クレアは「あるモノ」を発見して怯えたように宿屋に駆け込んだ。

宿屋の入口の陰から、クレアはもう一度そっと外を見る。
彼女の透き通った翡翠色の瞳が映していたのは自分がよく知っている人物。




―――――ミルハウストだった。




ミルハウストはクレアに見られている事も気づかず、突然宿屋に駆け込んだヒトを見て、不思議そうにしている。
幸いか不幸なのか。宿屋に駆け込んだのが『誰』かは気づかなかったようである。


クレアは胸の前で震える両手をギュッと握ると視線を足元の床に落として俯いた。



「・・・ミルハウスト・・・あのヒトがすぐそこにいるのに・・・・・・でも・・・私は・・・もう・・・・・・」

悲しげに呟いてから、ふとクレアは宿のカウンターを見た。
そしてまた「あるモノ」を見つけて目を大きく見開く。


カウンター越しに宿屋の女将と楽しそうに談笑しているガジュマの女性・・・・・・アガーテだ。


「あ・・・・・・・・・っ!」

クレアは息を呑んだ。
アガーテは後ろを向いていて彼女の存在には気がついていない。



逃げろ逃げろと心が叫んでいた。

クレアはその心の叫びに従ってアガーテがこちらを振り返る前に二階への階段を駆け上がった。












・・・逃げるためではなく、「嫌だった」からなのかもしれない。






かつて、自分が醜いと思っていた――― 己の身体であったから・・・。


ラジルダ暴動の巻。
サレとクレアの描写が非常に楽しいこの話。
ヴェイグやら夢主やらは目立ってないんだけどねー。

もう一つ、書いてて楽しいのは夢主のセリフ。痛い指摘やヴェイグ→クレアに対する黒い気持ちなんか。
感情がなかった夢主が今ではこんなに変わっているんだよ。という表現がしたいんだが・・・できてないな・・・。

次回でラジルダ終わらせます。
そしてPSPリバース、再誕おめでとう!!(遅)
これでまた少しでもリバースが布教されることを願って・・・。
リバースはクソゲーなんかじゃないやいっ!