焔の塔を上り続けてようやく辿り着いたのはイーフォンの聖殿の造りによく似た部屋だ。


全員がその部屋に入ったと同時にマオがヴェイグ達よりも数歩前に歩み出る。

ヴェイグ達とマオの間に僅かな距離が出来たところで、
まるでマオが前に出てくるのを待っていたように部屋の中央から巨大な火柱が上がった。


その紅蓮の炎の中から現れたモノを見て、一同は目を丸くした。


見た目は一見、とても美しいヒューマの女性。
しかしよく見れば両腕は鳥系のガジュマのように翼になっている。

炎のような強さと温かさを持った紅蓮の瞳と髪に思わず目を惹かれた。


一同の思いとしては『聖獣』のイメージを崩す存在であったと言った所か。





『ようこそ・・・いえ、おかえりなさい・・・・・・私は火の聖獣フェニア』

フェニアはヴェイグ達を紅蓮の瞳で見つめ、優しく微笑む。

炎に包まれているかのような温かい感覚だ。



「・・・お帰りなさい?どういうことだ?」

疑問を口にしたヴェイグを一瞥してから、フェニアはマオだけを見つめた。



『・・・お久しぶりですね、オルセルグ・・・・・・』

フェニアは愛しげに瞳を柔らかく細め、マオとを交互に見た。


「・・・オルセルグ?」
『貴方の本当の名前です。古代カレギア語で『汚れなき瞳』・・・という意味です・・・』


頭を数回掻いて、「うーん」と腑に落ちないといった表情で、マオが口を開く。


「汚れなき瞳・・・オルセルグ・・・何だかピンと来ないんですケド・・・・・・マオって呼んでもらっても・・・・・・イイかな?」


その言葉に少し悲しげに眉を寄せるフェニア。
しかし、またすぐに優しくマオに微笑んだ。


『・・・マオ・・・今、私は貴方だけに話しかけています』
「ボクだけに?」
『思い出しましたか?』

「うん・・・思い出したってゆーか、ボクには元々記憶がなかったんだね・・・」


マオはフェニアから目を逸らさない。
・・・が己の服を強く握った。


そうだったと思っていたことが全て違っていたことに受けたショックを落ち着かせるのは、容易なことではなかった。




『そう・・・貴方は私達聖獣がヒトの世界を見るために力を合わせて生み出した存在』
「ボクってヒトでもなければ聖獣でもないんだよね・・・・・・ボクって一体何なの?」

『だから、私は貴方に尋ねたのです。貴方は誰ですか?・・・と』


再度フェニアに訊ねられ、今度こそマオは視線を逸らして俯いた。


・・・どう答えればいいのだろう。





自分はヒトではなく聖獣によって作られた存在。だからと言って聖獣ではない。


『マオ』であり『マオ』ではない。『オルセルグ』であり『オルセルグ』ではない。



ボクは誰?









「・・・マオはマオでしかないと思う・・・・・・」



ふいにフェニア以外の声が聞こえた気がして、マオは声のした方を見た。


自身が向けた視線は的確にを捉えている。
聞こえた声は、先程彼女が答えてくれた言葉だったようだ。




・・・・・・ありがとう・・・」



そうだよね。マオはマオでしかない。だからボクはボクでしかない。


・・・・・・まだよくわかんないケド。







「上手く言えないケド、ボクはボクの事をボクだと思う。・・・でもそれはまだわからない。
 だから・・・もう少し考えたい。・・・・・・それとも今すぐに答えを決めなきゃ、ダメ?」


マオが出したのはとても曖昧な答。
それでもフェニアは満足したようで優しく微笑むと、首を数回横に振った。


『いいえ・・・答えは決めるものではなく導き出すものです。貴方が答を導き出すまで、私はいつまでも待ちましょう』
「でも・・・そうしたら・・・聖獣の力は貸してもらえるの?」




『貴方が必要とするなら私は喜んで力を貸しましょう。
 ただし、心に迷いを抱きながら力を使えば火の力が貴方を焼き尽くすでしょう・・・・・・それでも、私の力を求めますか?』


フェニアにマオは大きく頷く。




「うん!ボクは皆と一緒に思念を消したい!だから・・・ボクは聖獣フェニアの力を求める!!」
『・・・では・・・フォルスを・・・・・・』










































「多分、三十分は経ったと思うぜ」
「・・・そんなに経つか・・・」


先程から、マオとフェニアが見つめ合ったまま、まったく動かない。
その状態がティトレイ曰く三十分経過するほど続いている。


マオを見守るこの部屋は何とも重苦しい沈黙に包まれていた。
時折「キィ・・・」と弱々しく鳴くザピィやハープの声が部屋中に響くほどの静けさだ。




六人が心配して動かぬマオを見ていると、その身体が炎のような明るい光に包まれた。
その温かな光は時間をかけて徐々に薄くなり、マオの身体へと取り込まれていく。

光が完全にマオと同化したと同時に、マオがヴェイグ達の方へ振り返った。


「マオ、パワーアップ!・・・の巻ぃっ!!」



ニカッと歯を見せて笑うマオ。


親指を立てた拳を突き出してウィンクするマオ。



・・・いつものマオだ。





「じゃあマオ、聖獣の力を・・・?」
「うん!フェニアからもらったよ!熱い力をねっ!!」


アニーに答えるマオに煽られたかのようにヒルダがフェニアの元へと駆け寄る。

必死な顔がとても痛々しかった。



「聖獣フェニア!私にも力を与えて!!」

ヒルダの叫びに一同が驚きの目を向ける中、フェニアは一人悲しげに眉を寄せる。
マオに対してとは打って変わって無表情をその美しい顔に作り出し、ヒルダを見つめた。


『・・・私の力を貴女に与えることはできません』
「何故!?何故私じゃダメなの!?私には力が必要なのにっ!!」


血が滲むほど唇をかみ締めたヒルダは悔しそうに顔を歪ませて俯く。


『・・・次の聖獣への道を示しましょう』

その姿をじっと見つめてから、フェニアはヴェイグ達に口を開いた。




『・・・・・・雲海にそびえし古の塔を探せ』





「雲海にそびえし・・・古の・・・塔・・・?」

が呟くと、フェニアは温かな眼差しを彼女に向ける。


・・・瞳を逸らさずに現実と真実を見つめるのです。
 そうすれば・・・貴女は完全に目覚めることでしょう・・・忘れないで。私達はいつも貴女と共にあることを・・・・・・』


フェニアは微笑み、続いてマオを見た。


『マオ・・・歩きなさい。迷わずに。様々なものを見て。貴方の道を見つけ出すのです。
 ・・・・・・皆さん、どうか・・・この子を導いてください・・・』



「・・・まるで親みたいな言い方だな」
「そうだよ。だってフェニアはボクのお母さんだもん!」


茶化したつもりでティトレイは言ったのだが、マオに自慢げに肯定され絶叫の声を上げる。
仰天した彼の様子を見て、マオが腹を抱えて笑い出す。




「なーんてねっ!さぁ、出発だ!!」


なんだ、マオの冗談だったのかと理解した一同は何事も無かったかのように出口に向かって歩き出す。




しかし、マオとだけは数歩歩くと立ち止まって、フェニアを見た。
ヴェイグ達の姿が見えなくなってから、が口を開いた。


「フェニア・・・私、ずっと昔・・・貴女に逢ったことがある・・・まだ思い出せないけど・・・
 ・・・思い出したら、嫌なことなのかもしれないけど・・・・・・思い出したいんだ」




の言葉を聞いていたフェニアは瞳を細めて微笑み、大きな翼で二人を包み込む。

その姿は母が子供を抱きしめる光景・・・・・・それと似ていた。






『オルセルグ・・・姫・・・いいえ・・・マオに・・・私はいつでも貴方達を見守っています』


そっと翼から二人を解放して、フェニアは慈愛の満ちた美しき笑みを浮かべる。




マオとは同時に頷いた。


「「・・・いってきます」」


マオ、パワーアップ!の巻(まんまや)
マオはあんな真実を受け入れることができてホントにすごいと思う。
逃げずに正面から行けるなんて・・・カッコイイよ、マオ。

夢主の秘密がなめくじの歩行速度並みにじわりじわりと明かされてきてます。
書いてる本人自体、いい加減にしろよ。とうんざりしてるほどの速度(笑)
イーフォンも言ってた「太古の昔に夢主と聖獣が会った事がある」が少しずつ明かされてます。
でも完全に明かされるのはまだまーだ先なのです。

ホントいい加減にしろよ・・・。

こんなのですが、一応ちゃんと完結はすると思うので見守ってください。
次回はラジルダUターン。