現在、ヴェイグ達はツルベナ荒野の、
鳥を描いた巨大な地上絵の胸の位置に存在する聖火台の前にいる。





「ココが最後の聖火台だね」

マオが確認を入れるように呟くと、すぐにユージーンが頷く。


「『強き翼』の聖火台には既に火を灯した。
 最後はこの聖火台に火を灯し、が歌えばきっと・・・」




「じゃあ いくよ!!ちちんぷいぷいっ!」
「壮麗たる歌声よ 奏でよ 聖なる歌」

聖火台に火が灯ったと同時に、が歌い出した。



静かな荒野の大地に、少女の透き通る歌声が響き渡る。
『ホーリーソング』が終わると、目の前にある聖火台の炎が歌に反応して大きく燃え上がった。



「あ!地上絵がっ!!」

そうマオが叫んだ時には、地上絵の鳥が『火の鳥』となって起き上がっていた。

火の鳥が大空へと羽ばたいたのにつられる様に、引き寄せられる様に、地中から巨大な塔が姿を現した。













「私、今回のことで思ったことがあるんです」

そう言ったのはアニーだ。
巨大な塔に向かって移動中のことだった。





「聖獣のいる場所は堅く閉ざされていました。
 でもさん・・・『ホーリィ・ドール』は何の苦労も無く開けたんです。
  ・・・ホーリィ・ドールは聖獣にとって、大切な『鍵』なんじゃないか・・・って思ったんです」



「ふむ・・・だから『聖なる人形』・・・ホーリィ・ドールか・・・・・・」
「・・・着いたぞ。行こう」

塔の入口に辿り着いて、急かしては進む。
アニーとユージーンの考えを聞きたくないと言っているようにも見えた。

少なくとも、ヴェイグはそう感じて、静かにの後ろ姿を見つめた。






それと同時に、塔から声が響いた。



『長き封印を解き、鳥を呼び覚ました者達よ・・・ここは焔の塔・・・』
「・・・・・・イーフォンとは随分と違っているな」


優しい、女性のような柔らかな声が塔の中を響き渡ったので、は予想外だと呟く。

彼女の聖獣のイメージはゲオルギアスやイーフォンのような大柄の外見をした低く野太い声を持つ獣なのだ。





『本当に・・・よくここまで来ましたね・・・・・・』


「・・・・・・・・・フェニア・・・」
「アレ・・・?何だか・・・懐かしい気がするんですケド・・・?」

「ん?何か言ったか?、マオ」


無意識に発していた二人の言葉を聞き取れなかったティトレイが二人に訊ねる。
少し何か考える素振りをした後にが首を横に振った。

「・・・・・・いや・・・何でもない。な、マオ?」
「うぇ?あ、うん。・・・・・・うん・・・何でもない・・・」


何か引っかかった気がするようだが、彼女につられるままに頷くことにしたマオだった。

























焔の塔に入れば、塔の頂上へ繋がっているのであろう長い階段がヴェイグ達を迎えてくれた。

その長く続く階段や、大きな炎が灯った蜀台の高熱でじわりじわりと体力が削られていく。
ふと傍らを見れば、髪を結わずに下ろしている状態のティトレイやヒルダが一同より少し多めにかいた汗を拭っている姿が目に入る。

一方で、同じく長髪で下ろした状態であるだが、彼女が感覚に疎いせいなのか汗をかいた様子はない。
それでもやはり暑いものは暑いようで時折重いため息をついていた。






が四回目のため息をついたと同時に、
彼女の隣を歩いていたマオが突然ポスッと寄りかかってきた。

・・・寄りかかると言うよりかは、倒れこんできたのに近いかもしれない。


「マオ?疲れたのか?・・・・・・マオ?」











































―――声が聞こえる。


誰の?・・・の声。




・・・・・・何て言ってるの?




「―――――お前は生まれた。・・・・・・光、闇、水、地、風・・・お前は火だ。・・・・・・お前は誰だ?」
「え?何言ってるの?。ボクは――――――」



・・・・・・誰?


名前も記憶も何も無かった。
『無』でしかなかったボクに、ユージーンは『マオ』って名前をくれた。


『はじまりを示す、マオ』



 だから、ボクはマオ。




「ボクはマオだよ」

『本当に?・・・貴方は本当にマオなのですか?』


「うん。ボクはマオだよ」

『貴方は誰ですか?』


「・・・意味全然わかんないんですケド」




とは違う声が聞こえる。
その声はボクはマオだって言ってるのにマオではないと言っている。



・・・・・・アレ?じゃあ、ボクは誰?








『マオ』でなかったら、ボクは誰なの?

































「・・・・・・・・・・・・マオ!しっかりしろ!!」
「―――っえ!?え?何、!?」

マオは呼び戻された意識で辺りを見回す。

自分は焔の塔の階段を上っていたのハズなのに、それが今は全然知らない小部屋にいた。
いつの間にこんな所へ来ていたんだろう?大分長く意識を飛ばしていたようだ。


「大丈夫か?何か聖獣に見せられたのか?」
「・・・ううん、別に。大したことないよ・・・・・・あ、でもに一つ訊きたい・・・」

マオは真っ直ぐに彼女を見つめ、言った。


「・・・ボクは誰?『ボク』って存在は・・・誰?」
「・・・マオはマオでしかないと思う・・・・・・」
「・・・・・・そっか・・・うん・・・・・・・・・ありがとう・・・」


真っ直ぐなの答。


まだマオにはそれの意味がわからなかった。

































また、声が聞こえる。

今度はの声がしないケド・・・六つの声がする・・・・・・。




『・・・長い時を経て・・・ヒトはまた、同じ過ちを繰り返そうとしている・・・』


『あの時・・・我らはヒューマを救うべきではなかったのかもしれぬ・・・。
 ホーリィ・ドールの姫を守ろうとしていた王の考えが、やはり正しかったのでは・・・?』

『二つの種族の存在こそが争いの原因であるならば、一つが滅ばぬかぎり争いが絶えることはあるまい』



三つの声は争いをなくすためにヒューマを滅ぼそうとしてるみたい。
でもそれってホントの平和なのかな・・・?


それに・・・『ホーリィ・ドールの姫』って・・・もしかして・・・・・・のこと?






『ヒューマを滅ぼそうというおつもりなのですか?』


三つの声の意見に反論して、美しい声が聞こえた。
何処か懐かしさを抱かせる凛と強くて優しい声。


『私達の使命はこの世界を守ること。ヒューマがその妨げならば、排除もやむを得ないだろう』


反論されて美しい声は黙ってしまったが、次に子供っぽいやんちゃな声が重い会議に割って入ってきた。



『でも、今の状況を見るかぎり、どっちもどっちじゃないの?
 もし世界の一部であるヒューマを滅ぼしたとして、ガジュマはどうなる?
  残ったホーリィ・ドールのお姫様はどうなると思う?結局、何も変わらないと思うなぁ』


『ふぅむ・・・確かにお主の言い分も一理ある。だが古の戦いを繰り返すことは避けねばならん』



『古の戦いより、今日まで共存の道を歩き続けてきたヒトの努力も認めるべきではありませんか?
 ・・・・・・ヒューマを滅ぼすのは最後の手段と・・・私は考えます』

美しい声が言うと、老人のような声が「ほぅ・・・」と感心したような声を上げて、返す。


『ならば・・・お主には何か考えがあるのか?』

美しい声はすぐに答えた。


『ヒトの心と目を持つ者を生み出し、ヒトの世界に送り込むのです』



『・・・なるほど・・・それは妙案だ。反対の者はおるか?』

老人のような声が残りの四種の声に向かって訊ねた。
反論は飛んで来ない。



『・・・異論は無いようですね?それでは私の身体を介して・・・・・・心と目を・・・』
『うむ・・・我らの力を集めて、新たなる命を生み出そうぞ・・・・・・』



温かい紅色の光が生まれた。


その光からそっと、『ボク』が生まれた・・・・・・。





























「・・・・・・ボクは・・・ボクは・・・そういうコトだったの・・・?」

マオはポツリと呟くと、頭を押し付けるようにして隣にいたの腰に抱きついた。
身体が小刻みに震えている。

彼女の肩に乗っているハープは、普段のような元気でないマオを心配しているのか、
に抱きついていることに怒ることなく、「キキィ・・・」と小さく鳴いて見下ろしていた。


「マオ・・・やはり選ばれたのはお前か?」
「ヴェイグ」

問い詰めようとしたヴェイグをは呼ぶことで制した。

無言で首を横に振る。


「・・・先を急ごう」


マオを思い、先へ行く事を促した。


マオ、悩むの巻。
マオと一緒に夢主の秘密も明かされてゆきます。ゆっくりじわじわと。
今回のポイントは「聖獣の鍵を握るのはホーリィ・ドールなの?」って所です。
次回でマオ編はおしまいです。

焔の塔は別段難しくはないんですが、ホラ、あのスイッチで炎の場所が変わる部屋。
あそこの部屋の隅にある宝箱未だに取れた記憶がありません・・・。
どうやったら取れるのアレ!?