ピピスタはツルベナ荒野の最奥に位置する、小さな村だった。

村の住人はガジュマのみ。・・・これは決してヒューマが迫害されたというわけではない。
乾いた地形であるために屈強な身体を持ったガジュマにしか住むことは出来ない、という事なのだろう。

岩を刳り抜いて造られた家や、鳥を模る像などの独特な文化はヴェイグ達の興味をよく抱かせるモノだった。




村の中心である広場まで、村人達の嫌悪の視線に耐えながら歩くと、何やら村人達が騒がしくしていることに気づいた。
何事なのかと野次馬精神を掻き立てられ、興味を惹かれたマオはを引っ張りそちらへと向かっていく。






しばらくすると、マオだけがヴェイグ達の元へと帰ってきた。
はいない。


「マオ、はどうした?」
「うーん・・・何ていうか、捕まっちゃった・・・」


マオが頭を掻く。「困ったネ」と言いながら。



「捕まった!?何故!?はどうした!?」

ヴェイグが慌ててマオに詰め寄るのを見て、ヒルダはため息をついた。























マオとが騒ぎのある所まで行くと、ガジュマの男二人が一人のヒューマをちょうど縄で縛り上げている最中だった。
拘束されるヒューマの男を見て、マオとは顔を見合わせる。


「あの男は・・・もしかしなくても・・・・・・」
「・・・・・・ハック、だよね・・・」

とマオはそれぞれ言うと、同時にため息をついた。




今度は何に巻き込まれたのだ、と。




「あぁ!君達、助けてっ!!」

達の存在に気がついたハックは助かったとでも言うようにこちらに叫ぶ。

ハックに続いて、ガジュマの男達もこちらを見る。
視線の先に居るのがヒューマだとわかると、その視線を嫌悪のものへと変えた。


「何だぁ?お前達は」

ガジュマの男に問われ、は仕方なさ気にハック達の元へと歩み寄る。



「・・・この男の知人だ。・・・・・・コイツが何かやらかしたのか?」

ガジュマから見ても「美しい」と思える銀髪の少女が男のような口調で尊大に言い放つので
男達は何だコイツは、と一瞬目を丸くした。

しかしすぐに対抗するようにその少女を睨みつける。



「コイツはオレ達の長、ドバル酋長の家に忍び込んだ挙句、大切な聖壇に火を放ったのだ!」


怪訝な表情を浮かべ、はハックを見る。

「お前・・・そんなコトしたのか?」
「ご、誤解だよ!何度言えばわかってくれるんですかぁっ!?」

ハックの弁解空しく、男はハックを縛り付ける縄を強く握り、引っ張った。


「うるさい!ヒューマの言うことなんぞ信じられるものか!さあドバル酋長の元へ行くぞ、来いっ!!」

大した傲慢さだと感心しながら、は三人の行く手を阻む。


「ちょっと待ってくれ。少なくともコイツはそんなコトするような奴じゃない。何か理由があると思う。話を聞いてやってくれないか?」
「話だぁ?話なら酋長に言え!それとも何だ?お前も縄で縛られたいのか!?」
「・・・何でそうなる」


は話しにならない、とため息をついた。
そんな彼女をじっと見ていたハックは突然声を上げると子供の様にはしゃいで言った。


「そうだよ!聖壇はホーリィ・ドールがいなきゃダメなのかも!君が必要だったのかな!?」

「・・・・・・は?」
「何!?お前、ホーリィ・ドールなのか!?」

ハックの発言を聞いて、男達が驚愕と憎悪の視線をへと向ける。



・・・・・・隠している、というつもりもなかったが、バレてしまった。


「ホーリィ・ドールなんかがいるとはな・・・・・・よし、お前も酋長の元へ来い」
「何故私までっ・・・!」
「うるさい!汚い人形がオレ達に話しかけるなっ!!」


ガジュマの男達はが文句を言うのも聞かず、強引に二人を連行して行ってしまった。
後に残ったのは、ポカンと呆けて立ち尽くすマオだけだった・・・。





























「―――というワケで、は捕まっちゃったワケ」
「・・・とんだとばっちりね」


マオの説明を聞き終えて、ヒルダがため息をつく。

・・・が哀れすぎる。



「・・・どうしてさん、抵抗しなかったんでしょう?」
「・・・ハックの言う聖壇という物が聖獣と繋がりがある・・・と思ったんじゃないか?」

ヴェイグが言った。


「ホーリィ・ドール絡みなら、聖獣の手がかりである可能性は高いし・・・」
「つまり、はわざと捕まった・・・ということか」

全員が仮定を言い合うので、
痺れを切らしたティトレイが喚くように叫んだ。


「とにかく!そのドバル酋長とかってヤツのトコに行けばいいんだろ!?」






まぁ つまりはそういう事であるワケだが。








































ティトレイの切り出しから、すぐにヴェイグ達はドバル酋長の元へと向かった。

ドバル酋長はヴェイグ達ヒューマを嫌悪しつつも、
ガジュマの英雄と一目を置くユージーンの願いから、渋々といった感じに話し出した。



ハックは聖壇に忍び込み、それに火を点けようとした疑いがあること。

ピピスタは太古の昔に、ヒューマが飼っていたホーリィ・ドールに追われ、逃げ切った者達により作られた村であったことを。


・・・そんな過去があればピピスタの住人にホーリィ・ドールもヒューマも嫌悪されるのは仕方がないことなのかもしれない。




ヴェイグ達はハックの言い分も聞こうと思い、ドバルにハックとの面会を許可をもらった。


























ザピィの高い鳴き声はピピスタの石の家によく響く。
それ故に、の耳にすぐに届いた。

「ザピィ・・・?あ、ヴェイグ!」
、大丈夫だったか?」

少し早めの口調で問うヴェイグに苦笑してから、は後ろ手に縄で縛られた自身の腕を見せつけた。


「これ以外は正常だ。それより・・・ハックから面白い事を聞いたぞ」
「面白いことって何だ?」


ティトレイが問うのと同時に、ヴェイグ達が来た時には呑気に眠っていたハックが起き上がった。


「あ、君達!助けに来てくれたんだね!良かったぁ・・・」

喜ぶハックをチラリと見てから、はヴェイグに訊く。

「まだ・・・だろ?」
「あぁ。ハックが聖壇を傷つけたという疑いを晴らすまでは・・・」
「そんなぁっ!そんなコトするくらいならバルカまで泳いで帰った方がマシだよっ!」
「わかってる。・・・お前はそういう奴だ」

ハックの強い主張には頷く。


「酋長から話は聞いたんだろ?」
「うん、バッチリ聞いたよ!」

マオがしっかりと答えたのを聞いて、ハックの方を横目で見る。


「忍び込んだのは聖壇調査を突然許可されなくなって、仕方がなかったらしい。
 火を放ったのは、あそこの聖壇に火を灯すと聖なる鳥が蘇るから・・・らしいんだ」


「・・・イーフォンの言ってた事とどんぴしゃだな」
「それで・・・何か変化はあったんですか?」

アニーの問いにハックは肩を竦めた。


「・・・何も無かった。・・・そのことはメセチナ洞窟の調査中に知ったんだ。
 だからもしかしたらホーリィ・ドールが必要なのかも・・・って思ったらつい口が滑っちゃったんだ。こんなことになって・・・ゴメンね」

「・・・別に。やろうと思えば、私は今からでもココを抜け出せるし、わざと捕まったんだから・・・気にするな」


はヴェイグを見た。

「多分、何かが足りないんだ。少し村人の話を聞いてきたらどうだ?」
































ヴェイグ達が村で聞き込みを開始する。

の言う通り、ハックの言ったことには一つ抜けたモノがあった。





聖壇に命の珠の赤く燃ゆる時 聖なる鳥は羽ばたかん





ピピスタは太古の昔、邪悪の王を倒した聖者が眠りについた場所で、
『命の珠』というモノが赤く燃えると、聖なる鳥が蘇る・・・ということらしい。



ヴェイグ達は『命の珠』を探し始めた。

その途中、突然ティトレイが食材を切らしていると言い出したので、
渋々『命の珠』探しを中断して、食材屋に寄ることとなった。











「・・・命の珠だぁ?そんなモン知らねぇな」
「何か貴重なモノだと思うんだが・・・」

店の主人に『命の珠』の事を訊ねてみるが知らないらしく、答える気さえもないらしい。



「この辺で貴重と言ったらやっぱり喰いモンだろうな・・・・・・例えばコレとかなっ!!」


主人は一瞬ニヤリと笑うと、ティトレイに向かって丸いモノを投げつけた。
反射的にティトレイは投げられたそれを受け止め、・・・そして悲鳴を上げた。

「イッテー―――っ!!何だよっ!コイツはサボテンじゃねぇかっ!!」
「アカトゲサボテンだ。上手くて良い食材だぜ?」


主人は悪びれる様子なくヘラヘラと笑いながら言う。
ティトレイの手の中に納まる、青くて無数に生えるトゲが何ともグロテスクだ。


「アカトゲサボテン?全然赤くないんですケド」
「焼いてみるんだな」

主人の言葉を疑うことも無く、マオはフォルスで作り出した炎をティトレイの持つサボテンにぶつける。
瞬間、ティトレイはサボテンから発せられた赤いススに全身を包まれ、姿を現した時にはサボテンと一緒に赤くなっていた。


「アッチー―――っ!!」

ティトレイの二度目の悲鳴が響く。
赤くなったサボテンを投げるように落としたのを見て、主人は耐え切れなくなって声を上げて笑った。


「ハハハハハっ!簡単に信じやがってバッカじゃねぇのか!?」
「赤くなりましたね・・・」


床に転がる赤いサボテンを見ながらアニーは呟くと、
何か思いついたようでヒルダの陰に隠れつつ、恐る恐る主人に言った。


「あの・・・これをもう一ついただけませんか?」





































「・・・またお前達か。何の用だ」

ドバルは見たくもないヒューマが大勢いるのを見て、とても不快げに眉を寄せた。
・・・しかしそれを気づかっている暇なんてヴェイグ達には無い。


「酋長、ハックの無実を証明して見せます」
「ほう・・・どうやってだ?」

ドバルに問われ、ユージーンは続けて答える。




「今から、聖壇で聖なる鳥を復活させてみせます」
















ユージーンはアニーの推理を頼りに、聖壇に食材屋でもらってきたアカトゲサボテンを置いた。
彼の背後で、ドバルが怪訝そうな顔を浮かべている。

「マオ、頼む」
「うん、OK!―――フォルスの炎よ 聖なる鳥を蘇らせよ!!」

マオの放った炎がアカトゲサボテンを燃やすと同時に、赤いススが聖壇を包み込む。
何も知らないドネルは目を見開いて驚いた。



アニーは『命の珠』とは『命』の源である植物、つまりアカトゲサボテンではないかと考えた。
そのサボテンを聖壇に供えて炎を灯し、赤くすれば、聖なる鳥が蘇るのではないか、と。


・・・どうやらアニーの予想は当たったようだ。


濛々と立ち込めた煙が消え去ると、聖壇の壁に赤いススが張り付いて鳥の姿を模った。


まるで今にも羽ばたいていきそうだ。


ドバルが感嘆の声を上げる。

「おぉ・・・コレが聖なる鳥・・・何と素晴らしい・・・」
「・・・酋長、約束です。ハックの無実を証明しました。ハックと、それから我々の仲間のを解放してください」

「むぅ・・・約束は約束だ。・・・・・・しかしこれだけは忠告しておく」


ドバルはヴェイグ達をチラリと一目見てからユージーンに向き直り、諭すように言った。


「早くそいつらと縁を切った方が良い。特に・・・ホーリィ・ドールとは。
 奴らは災いを呼ぶ悪魔だ。・・・引き返せなくなる前に離れた方が良い」


その言葉にイエスともノーとも返事をすることなくユージーンはドバルに背を向け歩き出した。
彼に続いて、マオや何処か不服そうなティトレイも黙って酋長の家を出るために足を進める。

しかしヴェイグだけ、その歩を止めると、ドバルを真っ直ぐに見据えた。


は・・・そんな奴じゃない」

ドバルの眉間が不快そうに歪められたのを見てから、ヴェイグも皆の後を追った。

























、ハック!迎えに来たよ!」

二人が拘束されている家にマオが飛び込んでいくと、目当ての二人は何かを熱心に相談しているようだった。


「・・・で、ツルベナ荒野にもあるから、もしかしたら・・・」
「そうか・・・ではそこに聖獣が・・・」
「・・・・・・・・・ねー、ちょっとぉー」

マオが再び声をかけてみるが、二人の耳にはまったく届いていないらしい。

の膝で大人しくしていたハープがマオに気づいての腕を小さな前足で叩くまで、二人は相談を続けていた。



、お待たせ!もう大丈夫だよ!」
「マオ!では聖なる鳥を蘇らせたんだな?」
「あぁ・・・だが聖獣は現れなかった」

マオの後に続いて家へ入ってきたヴェイグが言った。


「そのことだ。今し方ハックに聞いたんだが、ツルベナ荒野にも聖なる鳥が描かれているらしい」


「もう一つの文献に『強き心に強き翼を持て』と書かれているんだ。
 もしかしたら、君達の探しているモノはこっちじゃないかな?」


とハックが言うと、ユージーンが「ふむ」と考え込んで、言った。


「ピピスタの地上絵のこと・・・か?」

「地上絵には八つ聖火台があるんです。翼の位置と心に当たる胸の位置の聖火台に火を灯して、
 『心』を司るホーリィ・ドール・・・つまり私が、ホーリーソングを歌えば、聖なる鳥が蘇るのではないかと思うんです」


「よーしっ!じゃあ皆、ツルベナ荒野に行こうぜ!!」
「ハックさんはこれからどうするんですか?」
「僕はもう一度ドバル酋長に聖壇の調査をお願いしてみるよ」
「・・・・・・よし、行こう」


ヴェイグの一言で、皆はツルベナ荒野へ向けて足を進める。

・・・が、だけはしゃがみ込んでそこから一歩も動かない。



「・・・?・・・どうした
「あの・・・・・・・・・ほどいてくれ」


の両手はまだ縄で縛られていた・・・。


ピピスタ騒動の巻。
ハックに巻き込まれる夢主とそれを少し過剰に心配するヴェイグ。(笑)・・・書いてみたかったんです。

やっぱり今回もオリジナルな設定が入りました・・・。
ピピスタが出来た歴史の捏造と、聖なる鳥の蘇らせ方。
特に蘇らせ方の方は夢主を物語に組み入れるためというよりは闇の聖殿と同じ理由です。
(聖火台に火を灯すだけで蘇ったらとんでもないって)


・・・で、今回説明しておきたいのは夢主の「美しさ」についてですが、
夢主は確かに美人なのだけれど、それに加えて、「あ、この人綺麗」と思える雰囲気を纏っているのです。
どんなに夢主の顔が好みとは思えなくて、自分好みの美人が他にいたとしても、
「どちらが美人でしょう?」と訊かれると自然と夢主を選んでしまう・・・そんな感じで。

もちろんこれにも理由が一応あるのでもう少し待っていてください。
次回はマオの試練です。頑張れマオ!頑張れ自分!!(笑)