聖殿の最奥の広い部屋の中心には、セレーナが立っていた。


ティトレイを迎えに来たとでもいうように目を細めて微笑んでいる。


「セレーナさん・・・?」

アニーがまさかと呟くのと同時に、
ティトレイは目の前のセレーナを睨み付けた。


「姉貴じゃねぇ!いい加減姿を現せ!!」

ティトレイの言葉に応えるように、『セレーナ』を形作っていたモノはドロリと溶けるように崩れた。
それが一つの影になると、先程『セレーナ』が立っていた位置に闇の渦を作り出す。


その渦から、獅子に似た巨大な獣がフッと現れた。




『我は聖獣イーフォン。この世界の闇を司るものだ』

「この声は・・・入口で聞いた・・・・・・」

ヴェイグが呟く。
イーフォンはただ静かにティトレイを見下ろすのみだった。



『ティトレイよ、汝の考え、しかと聞かせてもらった。その言葉に偽りはないか?迷いは無いか?』


「あぁ!偽りも迷いもねぇ!ヒューマもガジュマも、ハーフもホーリィ・ドールも『同じ』気持ちを持った『同じ』ヒトだ!!
 オレはそれを世界中に気づかせたい!・・・だから、オレ達に力を貸してくれ!!」


「ティトレイ・・・」
「ティトレイ・・・アンタ・・・・・・」

とヒルダが同時にティトレイを見た。

自分達と『同じ』と言い切った彼を疑い、
同時に信じても良いのかという期待と不安が二人から感じ取れた。




『・・・よかろう。ただし、汝に我の力を使いこなせるに足る力量か、試させてもらおう』


言うと、ユージーンの身長二つ分はありそうな巨大な剣を闇の渦から取り出し、楽に片手で掴んだ。




「要するにお前に勝てばいいんだな?やってやろうじゃねぇか!」


ティトレイが拳を構えると、ヴェイグ達も武器を構えた。



























「壮麗たる歌声よ 奏でよ 聖なる歌」


ヴェイグ達を援護するべく、ホーリーソングを歌い出しす
それを止めようとイーフォンは剣を振るう。

振り下ろされる剣に気がついて、は真横に跳んで避ける。


刃が先程の立っていた位置に下ろされると同時に、刃は床にめり込み、二つに叩き割った。


!二つになってない!?」
「なってたまるか!」

マオの心配に答えてから、は双剣でイーフォンの足を斬りつける。
しかし、イーフォンの強靭な身体に傷という傷は出来ない。

イーフォンは構わずティトレイとヴェイグに剣を振るった。
ヴェイグとティトレイが左右に跳んで刃を避けると、二人の背で隠されていた光の矢が真っ直ぐイーフォンに向かって飛んだ。


ヒルダの『サンダースピア』だ。


イーフォンは突然の攻撃に反応が出来ず、獣の胴体部分の右前足を貫かれる。


『ぐあっ!』

イーフォンが短く悲鳴を上げた。
の攻撃ではつくことの無かった大きな傷が、サンダースピアの当たった前足についていた。



「イーフォンの弱点は光だよ!!」

イーフォンの弱点に気づいたマオが叫ぶ。
それなら・・・と呟いたがヒルダのいる後衛まで下がった。


「ヒルダ姉様!光導術で一気に狙いましょう!!アニー、援護を頼む!」
「了解よ」
「はい!」


イーフォンはヒルダとが光導術の詠唱を始めたことに気がついて、そちらに駆ける。


『させんぞ!ホーリィ・ドール!!』
「皆を守って!・・・お願い! ガードヴァッサー!!」

アニーが床に陣術を描くと青い光の壁が生まれ、イーフォンの剣を弾いた。




「降り注げ閃光 我が敵を葬れ  シャイニングレイ!」
「聖なる血槍にて消滅せよ 魂となりて光と散れ  ホーリーランス!」


アニーがイーフォンの攻撃を止めた間に二人の詠唱が完成した。



イーフォンの頭上と足元にそれぞれ法陣が現れた。
足元の法陣は逃すまいと光を纏った輝く血液が、イーフォンの全身を縛り付ける。
同時に、頭上からいくつもの光の雨と光を纏う血の槍が出現し、イーフォンに降り注いだ。



『ぐおおぉぉぉっ!!』

イーフォンの身体が光に刻まれて傷つく。
・・・立っているのもやっとなまでに弱らせることに成功した。



「今だ!ティトレイ、ヒルダ!!」

ユージーンが叫ぶと、「おぅっ!」とティトレイが声を上げた。


「いくぜ ヒルダ!」
「変なヘマしないでよ」

ヒルダはティトレイに悪態を吐きながら、タロットカードを広げる。
ティトレイは左手のボウガンに手を置いた。


「オレの魂、コイツに注ぐぜ!」
「悠久の紫電よ かの者に宿れ!」

ヒルダが一枚のタロットを取って、ティトレイの方へ投げる。
それはボウガンに吸収され、光になった。


「くらえ!オレらのファイナルショット!!」




「「サウザンドブレイバー!!」」


ティトレイのボウガンは形を変え、大砲のように変形する。
その変形したボウガンから強大な光の弾が発射され、イーフォンに直撃した。






































『・・・見事だ、ティトレイ』

イーフォンはティトレイを見つめ、頷いた。
息を切らしつつもティトレイはイーフォンを真っ直ぐに見つめる。


「約束だぜ・・・闇の力を・・・」


『・・・我が力とフォルスは源を同じくするもの。汝の心が揺らげばやがて汝自身を飲み込むだろう。・・・・・・覚悟は出来ているか?』

ティトレイは頷きながらフォルスキューブを出した。
イーフォンの答えに強く答える。

「出来てるに決まってるだろ!でなきゃこんな所に来てないぜ!」
『・・・良い返事だ』

イーフォンは満足げに微笑み、ティトレイのフォルスに己の力を注ぐ。





完全に取り込んでから、ティトレイは大きく深呼吸した。

「これが闇の力・・・・・・すげぇ・・・凄過ぎる・・・」
「・・・どんな感じ?」

ヒルダは恐る恐るティトレイに訊ねる。
両手を握り締め、力みながらティトレイが答えた。


「やばいぜ・・・これは・・・気を抜いたらすぐに暴走しそうだ・・・」

まるで独り言のように呟いて、イーフォンに向き直る。


「教えてくれ!聖獣イーフォン!世界は本当に思念によって混乱してるのか!?」

イーフォンが頷く。



『そうだ。この世界は思念により荒れている。思念を浄化しなければ大いなる災いが訪れるだろう』
「どうすれば浄化出来るんだ!?」
『・・・それは全ての聖獣の力を手にすればわかるであろう』
「全ての聖獣・・・?それはどこにある・・・」


ヴェイグが訊ねれば、イーフォンは瞳を閉じて言った。


『陽炎の荒野に眠れる翼を呼び覚ませ。・・・その先は自分達で導き出すのだ』


瞳を開き、スッとティトレイを見つめ、穏かにイーフォンは言う。


『ティトレイよ、我は願う。その瞳に何を映そうとも、汝の眼差しが真っ直ぐ前を見つめ続けることを』
「あぁ、約束するぜ!オレは必ずアンタの理想以上になってやる!!」

イーフォンはティトレイに微笑む。
しかし、ふと表情を無に戻すと、ティトレイの後方で黙ってこちらを見ていたを見つめる。


『・・・時にホーリィ・ドール。そなたは未だ目覚めておらぬか』
「え・・・・・・?」

『そなたは自分が何者であるか、何の為に生きているのかを理解出来ていない。
 ・・・それが、そなたの迷いとなっているのだろう?』


ただ黙っているに、イーフォンは続ける。

『焦ることはない。そなたは眠りの中にありつつも、その心は清らかなままだ』
「・・・・・・何故・・・何故 聖獣達は、私を知っている・・・?」


『・・・太古の昔、我ら聖獣はそなたに出逢った。・・・ホーリィ・ドールよ。生まれを呪うなかれ。
 全ての事実はそなたが完全に目覚めたその時に知ることになるだろう』

イーフォンは慈しむ様にを見つめる。
その穏かな瞳はカレギア城でゲオルギアスが彼女に向けてきた瞳と、同じだった。



『忘れるな、ホーリィ・ドール。我ら聖獣は、常にそなたを見守っている・・・』

闇へと消えようとするイーフォンには口を開く。
何故自分にゲオルギアスの血が流れているのかを訊こうとして。


しかし、途中で躊躇った。
言いたかった言葉は音にはならず吐息となって静かに彼女の口から漏れるだけ。




・・・言ってはいけない気がした。

もし言ったら、聖殿の入口で一瞬向けられたあの嫌な視線が常に向けられてしまうような気がしたからだ。

そんな目を常に向けられたら、それこそサレの望んだモノになってしまう気がした。





が躊躇い、俯いた時には、既にイーフォンは闇の中へと消えていた。




「・・・

背後からヴェイグに声をかけられて、振り向き際には疲れたと言うようにふっと苦笑した。


「・・・大丈夫だ。私が目覚めたら、全てがわかるとイーフォンは言っていた。・・・だから、私は待つ」
「そういえば・・・完全に目覚めるってどういうことでしょう?」

アニーの言葉に、の代わりにマオがう〜んと唸る。


「・・・は実は聖獣!・・・とか?」
「それはない」
「何で?」
「いや・・・何となく、だけど・・・」

即答したにマオが首を傾げる。


彼女の身体に流れる血はゲオルギアスの血だという事を知っているのは、
本人とヴェイグだけだから仕方がないが。



さんは、何かが私達と違う気がします。・・・えっと、悪い意味じゃなくて良い意味で」
「うん、ボクもは特別だと思う。太古の昔・・・ってところにも何かあると思うし」

アニーとマオが言うと、ユージーンは「ふむ」と言って考え込んだ。


「・・・はヒューマ、ガジュマという見方より聖獣・・・という見方の方が近いのかもしれんな」
「うんうん。それなら、ゲオルギアスの反応も納得だよね」

マオが頷くのを見て、ティトレイは一同にハッキリと言う。


「それでも、はオレ達の仲間だろ?」



ティトレイの言葉に一番最初に頷いたのはヴェイグだった。



だ。何であろうと、変わらない・・・」


ヴェイグがそう言えば、マオとアニーも頷いた。


「ずっと一緒だったんだから!例え少し違っても、同じ仲間だよね!」
「私、さんのコト尊敬してます。・・・それでもやっぱり少し怖いけど・・・さんだから、私、平気です!」


二人の言葉に、は一瞬目を見開いた。

聖殿の入口で異質そうに自分を見ていた二人がこんな風に言ってくれるだなんて。



・・・予想外の言葉だった。






「・・・私は、明らかに皆と違うけど・・・・・・・・・これからも一緒にいて良いの・・・か?」


の不安を払拭するかのようにマオもアニーも、ティトレイも、ユージーンも頷いた。


それを見てがホッと嬉しそうに息を吐いていると、ヒルダは長い髪を掻き揚げてため息をついた。


「ノってるとこ悪いケド、さっさと行かない?」
「何だよノリが悪いなぁ・・・どうしたんだよ?ヒルダ」

ティトレイが茶化しながら言えば、ヒルダは恨めしそうにティトレイをジトリと見る。


「・・・何で貴方なの?私には聖獣の力が必要なのに・・・」
「ん?ホントどうかしたのか?ヒルダ」
「・・・アンタ達にはわかんないわ」

ふーっと長いため息をもう一度吐いてから、
ヒルダは何事もなかったかのようにユージーンの方を見た。


「次の目的地だけど、『ピピスタ』なんてどうかしら?」
「『ピピスタ』・・・・・・ツルベナ荒野の最奥にある村で、確か古代カレギア語で『鳥の巣』・・・」

が言うと、ヒルダは頷いた。


「『眠れぬ翼』と関係ありそうじゃない?」
「『陽炎の荒野』にもぴったりと当てはまるな」

うむと今度はユージーンが頷いた。




「・・・ピピスタに行こう」

言ってヴェイグはを見た。
「大丈夫」と安心させるように。



もヴェイグの優しい瞳を見て嬉しそうに、少し照れくさそうに瞳を細めた。


闇の力、ゲットだぜ!の巻。
ティトレイはヴェイグよりも主人公向いて・・・げふげふ。(禁句)

一周目はもう檜山ヴェイグ(笑)しか目に入ってなかったので
ティトレイに関してはアウトオブ眼中だったのですが、二周目辺りからコイツの良さに気づきました。
何だコイツカッコイイよ!良い男だよお前ー!

さて、夢主の新技、「ホーリーランス」ですが、基本的にはブラッディランスと同じ。
降ってくるのが血の槍かそれに光を纏ったものかの違い。それだけ。

仲間には受け止めてもらえてるようで、良かったね夢主。