夜が明けて、また朝がやってくる。
ヴェイグとアニーは出発しようと支度を整えて入口に向かって歩く。
・・・と、ヴェイグがちょうど小屋に入ってこようとしたクレアとぶつかった。
「・・・クレア!?どうしてお前がココに・・・」
「わ、わたくしは・・・」
「どこまで行くんだ?」
言い詰まるクレアの代わりに、彼女が雇ったのであろう馬車屋が言った。
「バルカへ行くって言うんで、ミナールまでお送りしているんです」
「バルカ?何故・・・」
「あ、もしかして・・・ヴェイグさんと一緒に行きたくて?」
まるで悪戯がばれた子供のように、言い辛そうにするクレアに、アニーは訊いた。
「・・・貴方達もバルカに?」
「はい。それを知っててバルカに向かっていたんじゃないんですか?」
アニーが訊くと、クレアは不自然としか言いようが無いくらいにコクコクと素早く肯いた。
「えっ・・・えぇ・・・・・・もちろん・・・」
「クレア、すぐに帰るんだ」
クレアが自分を追ってきてくれたのは嬉しい。
しかしクレアは旅の経験も無ければ戦える力も無い。
大切な家族であるクレアを危険な目に遭わす訳にはいかない。
ヴェイグがスールズへ帰るように促すが、クレアは彼をグッと強く見て言い切った。
「・・・それは出来ません」
もう一度、ヴェイグが村へ戻るように言うが、クレアは一歩も譲らず首を振る。
「私は大丈夫です。足手纏いにならないようにしますから、一緒に連れて行ってください!」
「・・・わかった。だが、俺から離れないようにするんだ」
根負けし、ヴェイグが折れるとクレアはほっと息をついて頷いた。
クレアがヴェイグに近づこうと一歩 歩み寄る。
それを合図に、ザピィは突然クレアに威嚇の声を上げ、逃げるようにヴェイグの肩へ飛び乗った。
「・・・どうしちゃったんでしょう?」
ザピィの様子を見てアニーが呟くが、ヴェイグにもよくわからないようで、
特に気にせずクレアの乗ってきた馬車に乗せてもらうように頼んでいた。
馬車屋は愛想良く了承してくれたが、
行き先がペトナジャンカであることを説明すると、笑顔から一転して顔を青くした。
細めていた目をこれでもかというほど大きく見開く。
「え!?ペトナジャンカってことは・・・迷いの森を抜けなきゃいけませんよね?」
「あぁ・・・しかし道は至って簡単だから・・・」
迷いの森はその名の通り迷いやすい森。
昼でも薄暗く不気味な森だが、
一度森を歩いて抜けた事のあるヴェイグとアニーは道順をしっかりと知っている。
だから安心して良いと言おうとしたヴェイグに、
そういう事ではないと馬車屋は首を振る。
「そうじゃありませんよ!今 迷いの森には妖精が出るって噂なんです!」
「妖精・・・?」
ヴェイグが眉をひそめると、馬車屋は強く頷いた。
「迷いの森に入ると、どこからともなく不思議な歌が聞こえてきて、それはヒトの言葉ではないそうです。
その歌を聞けば森を彷徨い、妖精の姿を見た者は森のバイラスに次々と襲われていくらしいんです!!」
「・・・ヒトの言葉ではない・・・歌・・・妖精・・・」
「だから申し訳ないですが、お送りすることは出来ません!」
馬車屋は言うと、
慌てて馬車に乗り込みさっさと行ってしまった。
「妖精だなんて・・・そっ・・・そんなの物語だけのお話ですよっ・・・もうっ・・・!」
アニーはそう言うが、声が震えているので、怖がっていることは誰にでもわかってしまう。
一方、彼女に対しクレアはヴェイグに遠慮気味にどうするかを訊くだけだった。
「仕方ない・・・歩いてペトナジャンカへ行こう。クレア、大丈夫か?」
「は、はい・・・」
「ヴェヴェヴェ・・・ヴェイグさぁーんっ!!」
怖がるアニーの気も知れず、決め付けてしまった。
迷いの森の木は相変わらず高く、太陽の光を遮り、昼間だというのに薄暗い。
ヴェイグとアニー、そしてクレアは森を進んだ。
一度通った道なので、森を抜けるのは簡単だった。
あっという間にもうすぐ出口だ。
「・・・なんとか妖精に会わずに済みましたね」
ホッと息をつくアニーの安心感は、見事にザピィに裏切られる。
ザピィが耳をピンと立て森の奥の方をじっと見つめた。
その時、クレアがヴェイグの方を見た。
「あの・・・何か聞こえませんか?」
クレアに言われ、ヴェイグとアニーは耳を澄ませる。
森の奥から、風と共に何か言葉が運ばれた。
「聖なる・・・・・・び・・・・・・は怒り・・・・・・嘆いた・・・」
キャーっと悲鳴を上げたアニーはヴェイグの腕にしがみつく。
しかし、ヴェイグはそんな彼女を気遣う事も無く、
肩に乗っていたザピィが声のする方へ走って行ったのを追いかけるために、しがみついたアニーの腕を払った。
聖なる人形は滅び 王は怒り狂い 我は嘆いた
王は我に血を与える 我は詠おう 王と護るべき者の為
ヴェイグはザピィを追いかけて、一本の巨木の前までやって来た。
他の木々よりもずっしりと力強く根を張っている。
・・・どうやら森の中心地らしい。
先に来ていたザピィは巨木の根元にいる紫色のマフマフ、ハープと身を擦り合わせている。
目線を下に下げていたヴェイグはスッと目線を上げた。
ヴェイグの先には、一人の少女がブツブツと何かを呟いていた。
少女の白銀の髪は、森の木々の隙間から溢れる光で美しく輝く。
大樹の巨大な根に腰掛ける白銀髪の美少女は幻想的で、馬車屋の言っていたように、まるで『妖精』のようだった。
「・・・ホーリーソングを訳した言葉だ」
少女、はヴェイグの方を見て言った。
「結局、ホーリィ・ドールの事はこれだけしかわからなかった。でも、一つだけ・・・言える」
一度句切ってから、続けた。
「私の身体には、ゲオルギアスの血が流れている」
普段、顔に感情を表さないヴェイグではあるが、この言葉にはさすがに驚き目を見開いた。
にゲオルギアスの血が流れているなんて信じがたいことだ。
確かにホーリーソングの意味やカレギア城のゲオルギアスの様子から、
とゲオルギアスに何か繋がりがあるとは思っていたが、まさかそんな繋がりがあろうとは。
「・・・それ以外は何もわからなくて、この森に来たんだ。
・・・・・・ここはホーリィ・ドールにとって、故郷のようなものだから」
ふとヴェイグは以前の旅で、アニーが「その昔この森にはヒトが住んでいた」と言っていたことを思い出す。
の説明によると、ヒトと関わりを持ちたくなかったホーリィ・ドール達がこの森に住みついたらしい。
しかし、結局はヒトに見つかり全員狩られてしまったそうだが。
「・・・そういえば、何故ヴェイグがココにいる?普通はこんな場所に来ないだろう?」
「・・・それは・・・」
ヴェイグが質問に答えようと口を開きかけると、
アニーとクレアがヴェイグが通った道から姿を現した。
「あ!ヴェイグさん!もぅクレアさんに離れないようにって言って自分で離れないで下さい!・・・あれ?さん?」
「クレア・・・?」
は首を傾げて、アニーのななめ後ろに立つクレアを確認する。
するとザピィはクレアに毛を逆立てて威嚇するのに対して、
ハープは嬉しそうに彼女の元へ駆け寄り、足に擦り寄った。
「ん・・・ハープ・・・ザピィ?」
二匹の行動を不審に思っただが、ヴェイグがクレアの元へ寄っていくのを見て、軽くしかめっ面になった。
「・・・え?さんが森の『妖精』だったんですか?」
アニーは目を丸くしながら妖精の正体に訊ねる。
他人事のようには頷いた。
「・・・何故かそう言われていたみたいだな」
「じゃあさんを見るとバイラスに襲われるっていうのは・・・?」
「・・・私を見つけると、何故か皆立ち止まるんだ。で、そこをバイラスに襲われる。
私が助ける前に、奴らは逃げてしまう。・・・別に私がバイラスを操ってるわけじゃない」
の説明を聞き取り、アニーは大きくため息をついた。
不安が安心に変わり、少し疲れたのだ。
森の妖精は。
彼女は森で毎日ホーリーソングを歌っていたらしい。
確かにアレは古代カレギア語だから、その道の勉強をしていない一般人には何なのか理解できないだろう。
次にバイラスに襲われる理由は、彼女を見た者がその美しさに見とれてしまい、
立ち止まっている間に、バイラスが襲い掛かってきたという単純なものだった。
ここはバルカ港の外れ。
ヴェイグはを連れて、ペトナジャンカへ赴き無事にティトレイを呼んだ。
ティトレイは仲間の危機なら、とすぐについてきた。
彼の仲間想いの強さは、もしかしたら最強かもしれない。
「ユージーンはどこにいるんだ?アニー」
久々のバルカ港を懐かしげに見回していたティトレイが、ふいにアニーに訊いた。
「えっと・・・バルカの外れにある、メセチナ洞窟です」
「おぉ、そっか。オレはメセチナ洞窟に行ってないからな、少し興味があるぜ!」
「・・・メセチナ洞窟・・・か・・・」
は小さく呟くと、不安を紛らわす為に肩に乗るハープを撫でた。
メセチナ洞窟は不思議な場所だ。
ゲオルギアスの声を聞き、壁から発せられる白い光は自分の髪の色と同色だった。
・・・あそこも私と関わりがあるのか・・・?
そう思うと、何だか知りたいような知りたくないような微妙な気持ちになってくる。
ゲオルギアスの血が流れているという事実はようやく自分の事が一つわかって良かった、という嬉しさがあった。
しかし、自分が完全な『人外』だったことも理解して悲しいという気持ちもあった。
『ヒト』で無いならば、私はサレ様やヴェイグ・・・マオやユージーン隊長達とも交わる事が出来ないのかと思ったからだ。
俯いていたの肩を、ヴェイグは優しく叩く。
それで、我に返る。
「大丈夫か?」
「・・・・・・あぁ・・・心配ない」
ヴェイグの気遣いにいくらか安らげたは先に進んでしまったティトレイ達を追いかける。
・・・私は『人形』だけど、『皆とは違う』けど。
もう少し、この『時間』に浸らせて欲しい。
もう少し・・・騙されていて欲しい・・・。
夢主再会!つーか色々詰め込みすぎだぜ!の巻。
えーと、今回のわかった事、1番重要性高いコトは
『夢主がゲオルギアスの血を身体に流す』ってコトです。
何で?っていうのは後々わかっていくので今はココまでなのですが、
それ故夢主は「私は人外なのか?」と悩んでしまうのです。
マオと一緒だね。
マオもゲーム中ではあまり描かれていませんでしたが相当悩んだと思います。
それと夢主、初(だったかな)ヤキモチ(?)!
でもまだまだサレ>ヴェイグ(笑)だってうちの夢主だもん。
サレ様万歳の子だものね・・・。
それから、私、馬車の存在なんて忘れてて、ゲーム中にペトナジャンカへ行く時は
毎回徒歩で迷いの森から行ってたわけですが・・・皆さんどうなんでしょう?
おかげで迷いの森で完璧に迷わなくなった私です。
でもTORの迷いの森って比較的他のシリーズの森より簡単だよね?
いや、一周目は私相当迷ったけどさ。
TOLの帰らずの森は完全に迷いました・・・アレツライ。