ヒューマの存亡をかけた重要な戦いだった。
自分の大切な人達が『ヒューマ』と言う理由だけで殺されてしまうなんてことはさせないと戦っていた七人は思っていた。
だが、如何せん対峙する相手が悪かった。
相手は言い伝えにも残る聖なる王・・・ゲオルギアスなのだから。
戦っているヴェイグ達の行為は無謀に見えたし、大したことのない抵抗にも見えた。
しかし、それでも止めるなんて事は出来なかった。
彼ら戦いは無謀であると同時に小さな希望でもあったからだ・・・。
アニーがゲオルギアスの強力な導術を受けて倒れた。
それに気を取られてしまったマオとユージーンもゲオルギアスの吐く炎に飲まれて倒れた。
瞬く間に三人が倒される。
ゲオルギアスは上空に舞い上がると、額の角に上空のエネルギー・・・つまり雷を集め出した。
『愚かなヒューマめ!思い知るが良いっ!!』
ゲオルギアスは額に集めた雷を、まだ立っているヴェイグ、ヒルダ、ティトレイに落とした。
強力な雷がヴェイグ達を包み込む。
三人はそれぞれ悲鳴を上げて、持っていた武器を手から落として倒れる。
焼け焦げたような臭いが屋上を包む。
唯一、この戦場で無傷で立っている者が居た。
・・・・・・だ。
ゲオルギアスは、何故か彼女だけをまったく攻撃しなかった。
「ヴェイグ!皆っ!!」
倒れた仲間達に駆け寄ろうとした瞬間に、上空にいたゲオルギアスがゆっくりと屋上の手摺まで降下してきた。
飛び出せばゲオルギアスの頭にでも乗れそうだ。
ゲオルギアスは倒れたヴェイグ達と、それに駆け寄ろうとするを交互に見やると、
荒々しげな口調を和らげて、大人しげにに言う。
『ホーリィ・ドールよ・・・これで汝に幸がやってくる・・・。汝の幸の為、我は・・・』
ゲオルギアスの言葉に、は眉を顰めた。
・・・幸?これが?ヒューマが殺される事が?
・・・・・・冗談じゃない!!
私の幸せは、サレ様に仕えていたコト・・・ヴェイグ達といたコト・・・。
ヴェイグの傍にいたコト・・・。
サレ様やヴェイグを失ったら、私はまた独りになる。そんなのは幸せじゃない!!
「私の幸せは・・・こんな事じゃないっ!!」
が拒絶して、叫ぶ。
その叫びに応える様に、ヴェイグの胸元が蒼く光った。
何事かと思い呆然としていたを、こちらにおいでと呼ぶように、光はさらに強く輝き出す。
引き寄せられるようにゆっくりと、倒れるヴェイグに歩み寄った。
隣に辿り着くと膝を地に付いて、彼の胸元を探る。
ヴェイグの懐から出てきた光の原因は、ハープに渡していたの首輪だった。
首輪についている蒼月石が刺さるのではないかと思うくらいの強く鋭い光を発していたのだ。
徐にその首輪を、は再び首につける。
一息吐く間もなく、蒼い光に身体が飲み込まれた。
誰もいない真っ白な空間。
ただ一面に白だけが広がっていて、どこが隅でどこが真ん中なのかわからないそこに、は居た。
一面の白に別の色をかける唯一の存在が、自分だけしかいなかった。
ココは何処だ、他に何か無いのかと辺りを見回していると、目の前に蒼色の球体が飛んできた。
水晶のようにキラリと光っている。
球体は悪戯にの周りを数回ぐるぐると回る。
突然、クスクスと球体が子供っぽく笑った。
『やぁ、やっと会えたね。ホーリィ・ドールの!』
「・・・・・・お前は誰だ」
ギロリと睨んで突然現れた謎の物体に警戒したが、それでも球体は無邪気に笑っただけだった。
『いずれ分かるから今は内緒。それより、君はヴェイグが好きかい?』
「・・・・・・突然 何を言っている・・・?」
球体の単刀直入な質問に軽く頬を染めただが、冷静に球体に問う。
『ちょっと答え辛いか。じゃあ質問を言い換えるよ。君は今、守りたいものがあるかい?』
今度はも迷わずに頷けた。
「守りたいものがある・・・だが、今それが失われそうになっている・・・・・・私は・・・無力だ・・・」
『王は君が喜ぶと思ってやってるんだけどね・・・』
「・・・どういう事だ?」
の問に、球体は答えない。
『今は時間がない。今度話してあげるよ。
・・・・・・、ホーリィ・ドールは心を司るんだ。心で強く思えば、何だって可能にする。心の持ちようでね』
「心を・・・司る・・・?」
『そう。君がヴェイグ達を守りたいと強く思えば・・・・・・思い出すでしょ?『護りの歌』を』
球体はまた無邪気に笑いながら、静かに消えていった・・・。
は双剣を胸の前で交差させるように構えると目を閉じて、詠唱を始めた。
「壮麗たる歌声よ 奏でよ 聖なる歌」
短い詠唱が終わると同時に、を中心とした巨大な法陣が屋上全体に広がり、倒れているヴェイグ達を包み込んだ。
その法陣の中心では歌う。
凛とした美しい歌声だ。
歌声に気づいてヴェイグは目を覚まし、ゆっくりと顔を上げた。
「・・・」
「何だ・・・コレ・・・」
「・・・古代カレギア語で歌ってるわ・・・」
ヴェイグに続いて目を覚まし、ティトレイとヒルダが言う。
その場にいた皆がの歌を聞いていた。
ゲオルギアスも聞き入るように動かない。
法陣の中心で歌うはまるで舞台に立って歌う歌姫のようだった。
誰にも邪魔をさせない、近づけさせないと言った強い意志を感じる。
誰もいないのに、歌っているを何かが護っている様な気さえしてくる。
歌い終わったらしいは目を強く開いて大きく声を張り上げて叫んだ。
「ホーリーソング!!」
法陣から温かな光が現れてヴェイグ達を包み込む。
光はヴェイグ達の身体に触れると傷を癒して消していく。
やがて、傷が完全に消え去ったヴェイグが立ち上がった。
「ヴェイグ!?」
「・・・これは一体・・・?」
「私も頭の中に浮かんだ事を言っただけだから・・・詳しくは・・・」
ヴェイグの質問にが困っている傍ら、元気良くマオが飛び起きた。
「復活!!何なの?この光。すっごく温かくて傷が治ったよ!」
すごいすごいと驚くマオに続くように他の四人も立ち上がる。
「力がみなぎるぜ・・・何でも出来そうな気がする!」
「あの歌は何なの・・・?」
「ホーリーソング・・・?」
「これがホーリィ・ドールの・・・さんの力なの・・・?」
全員が戸惑う中、ゲオルギアスはに問う。
『何故だ・・・ホーリィ・ドール・・・。何故ヒューマの為にその歌を歌う・・・?』
「守りたいからです」
は真っ直ぐゲオルギアスを見つめ、言う。
「貴方の言っているヒューマがどんなだったかはわからない。本当に殺さなければならない最低な奴らだったのかもしれない・・・
でも、同じヒューマでも彼らは違う!ヒューマ全てが汚らわしい訳ではない!貴方のそれは、ただの偏見です!!」
がきっぱり言うと、アニーはユージーンの方をチラリと見て考え込むように俯いた。
アニーの姿に気づく事は無く、ティトレイがギュッと拳を作って言い放つ。
「あぁ、そうさ!全てのヒューマが悪いわけじゃねぇ!そんな考えしか出来ないお前には絶対負けねぇっ!!」
「俺達は、お前を倒す!!」
ヴェイグが叫ぶのを合図に全員はゲオルギアスに再び立ち向かった。
「お願いします・・・パワークラフト!」
アニーがティトレイに陣術をかける。
ティトレイはゲオルギアスの頭部まで跳躍すると、その頭に踵を落とす。
すぐに次の連携に繋いだ。
「疾空波!」
ティトレイが二回蹴り上げる。
アニーの陣術で身体が強化されている効果もあって、ゲオルギアスが一瞬怯んだ。
そこを、ヒルダとマオが導術で攻める。
「濁流よ全てを吹き飛ばせ・・・アクアストリーム!」
「引き裂け・・・アーチシェイド!」
それが見事に命中し、ゲオルギアスは反撃しようと口を開く。
はそれに逸早く気づき、ヴェイグ達の前に出ると、詠唱を始めた。
「万物に流るる生命の水よ 我の盾と為せ! フォースフィールド!!」
屋上の、儀式の時に散っていたの血が淡い光を放ちながらヴェイグ達を包み込む。
ゲオルギアスの吐いた炎はフォースフィールドに弾かれて、全て打ち消された。
炎だけでゲオルギアスの反撃は終わらず、ゲオルギアスの胸の石が輝いた。
兵士を焼き尽くしたあの光を発するつもりなのだろう。
させまいとユージーンが槍を握り、そちらに向かい駆ける。
「轟破槍!!」
胸の石が今にも光を放とうとしたところで、ユージーンの槍によって現れた鋼が石を覆う。
鋼と光がエネルギーを互いに相殺して石を崩しさると、続いてヴェイグが駆け出した。
ヴェイグが走り込んだのに合わせて、は再び歌う。
「壮麗たる歌声よ 奏でよ 聖なる歌」
ゲオルギアスは走り込むヴェイグを阻止しようと導術を仕掛けるが、またもヒルダやマオの導術で打ち消される。
その間にアニーがを陣術でサポートした。
「皆に力を・・・マインドガイスト!」
「・・・・・・ホーリーソング!」
が再びホーリーソングを唱えると、今度は光がヴェイグだけに集中して降り注いだ。
ヴェイグの身体が光に包まれる。
ヴェイグは両手に持つ大剣を強く握って刃をゲオルギアスに向けて跳び上がった。
「絶翔斬!!」
刃がゲオルギアスの胸を下から上へと大きく一筋に切り裂いた。
夢主、新技 初披露!!の巻。
『聖なる人形』である夢主にはどうしても『ホーリーソング』を歌ってほしかったんです。
効果はゲーム的に言えば『HPの回復&FG全回復&攻撃力アップ』です。
今回は夢主に対してゲオルギアスの妙な気遣い(優しさ)とか
謎の蒼色の球体(正体バレバレ)との出会いとか書かれています。
夢主は交流の幅がデカイなぁ・・・。(サレ様命の半分引きこもりのクセに)
さて、多分次回でクレア救出編は終了ですよ。