止む兆しを見せぬ白銀の結晶がヒタリと張り付いて、融けて、肌を濡らしていく。
ココはノルゼン。
サレとが目指していた目的地だ。
街にやって来たのに何処にも立ち寄らずに真っ直ぐに港を目指して歩く。
目的は物見遊山ではない。カレギアの中心、バルカに帰る事なのだ。
港にはカレギア軍の船が停泊していた。
「お疲れ様です、サレ様」
船の前に立っていた兵士二人がサレを確認して、敬礼を掲げた。
・・・どうやらこの船はサレが用意していたものらしい。
主人と兵士のやり取りを眺めて、はそんな事を思った。
「出港の準備は既に完了していますが、いかがしますか?」
「すぐに出港するよ、こんなトコ」
寒くてたまったモンじゃない。
そうぼやくサレの言葉を耳に入れて、「了解致しました」と兵士は返すと出港に取りかかるために動き出す。
船の中へと消えていく兵士を見送って、サレはの方を振り返った。
「じゃあ、コレに乗るよ」
は頷いて、船と港の間にかかる橋に足を乗せた。
…その時。
「キキィッ!」
とても高い声が足元から聞こえた。
ヒトの声ではない。動物の声だ。それも、ネズミかリスのような小動物の鳴き声だ。
足下を見下ろすと、の足にそっと小さな前足をかけた紫色のノースタリアケナガリスがじっとを見上げていた。
「何かな?このマフマフは」
先に船に乗り込んでいたサレはマフマフに気づいて、そちらに近づく。
瞬間、マフマフは二人の間に入ると、サレに向かって毛を逆立てて威嚇した。
随分と命知らずなマフマフだな。
自分に歯向かう生意気な小動物を軽く睨みつけたサレはあるモノを発見した。
マフマフの首に、の首についているアクセサリーとよく似たデザインの首輪がついている。
サレを威嚇するマフマフに、は構わず手を差し伸べた。
すると、マフマフは噛み付くことも引っかくこともせずにその手を伝って一目散に肩へ駆け上がる。
肩に辿り着いたマフマフは先程とは大分違う甘えた声を出して、の頬に毛皮を擦り寄せた。
はで、そのマフマフをただ撫でる。
「…ハープ、ついて来たのか…」
「そのマフマフを知っているのかい?」
サレが訊くと、は頷いて返した。
「友達です。私がキョグエンに連れて行かれて、離れていたのですが…」
「…で、そのマフマフはどうするつもりだい?」
サレが問うと、紫のマフマフことハープはまたサレに向かって毛を逆立てて唸る様に鳴いて威嚇した。
まるでに近づくなとでも言うように。
「…できることなら、このまま連れて行きたいのですが」
サレの予測した通りの答えを返したは「ダメですか?」というように首を傾げる。
「…無理にでもついて行く気みたいだよ、ハープちゃんは。…別に良いんじゃない?」
「どうでも良い」といった感じでサレは言うと、さっさと船に乗り込んだ。
拒否する理由は別にない。それにもう面倒だ。
リスが一匹加わった所で支障はない。
ハープが嬉しそうに「キィ」と鳴いたのを合図に、も船に乗り込んだ。
夢主ちゃん、お友達のハープちゃんと再会。
ハープちゃんとサレ様はお互いにライバルと気づいたようです。
次回、夢主ちゃんアガーテ姫に出会うの巻。
余談だけど、サレは寒いの苦手だと思うんだ(笑)