セレーナ達と別れて、ヴェイグ達はようやく、バルカ行きの船に乗り込んだ。
ティトレイはセレーナとは帰らず、ヴェイグ達について来ることにしたらしい。
船が動き出してから、はヴェイグ達に説明をしていた。
バビログラードが遠ざかり、小さく見えるほどになった頃に説明は終了した。
内容はホーリィ・ドールの事と、アガーテの『しようとしている事』だった。
「・・・彼女の目的はわからない。しかしゴルドバの日の儀式にどうしてもヒューマの美しい娘が必要だと、そう言った」
「だが、何故突然そんな事を・・・。今まではそのような事がなかったのに・・・」
そんな過去に事例は無かった。
ならば、一体何故そんな事をするのか。
ユージーンが手を顎に添え、考え込む。
が続けて言った。
「彼女・・・アガーテは自身のガジュマの身体を呪っていた。集める理由のうち、一番最悪な予想は、ヒューマの美女を妬み、殺そ―――」
「陛下はそのような方ではないっ!」
の言葉を、ユージーンはテーブルを殴り、怒鳴る事で遮った。
テーブルの上にいたハープがテーブルに伝わる震動と、ユージーンの怒りの姿に怯えて、の肩に飛び乗る。
「・・・可能性の一つです。私だって、彼女がそんなことするとは思わない」
「ま、まぁこの話はひとまずやめようよ!バルカ港に着くまで自由行動にしよ、良いでしょ?ユージーン」
気まずくなった空気をマオがフォローする。
ユージーンもも心の中で感謝と申し訳なさをマオに対して抱き、彼の意見に賛成した。
自由行動を許可されて、提案者本人は笑顔で飛び上がった。
「じゃあ!ボクと一緒に・・・アレ!?がいない!!」
自由行動を共に過ごそうと思い、マオはを誘ったが、彼のお目当ての人物は既に何処にもいなかった。
「さんなら、ヴェイグさんと甲板へ行ったわよ、マオ」
イスに座って寛いでいたアニーが教える。
悔しげに、マオが唸った。
「う〜っ!ヴェイグったらいつもいつも独り占めなんだから!クレアさんがいるくせにっ!!」
「ヴェイグが聞いていたら怒られるぞ、マオ」
ユージーンに窘められるマオを、ティトレイがボーっと眺める。
その隣で、ヒルダは山札になっているタロットの一番上のカードを一枚、捲った。
引いたカードの絵柄を確認して、微笑む。
「アラ、あのコ・・・・・・へぇ、可愛いじゃない」
「何?の事で何か出たの?ヒルダ」
「さぁ?教えてやらないわよ」
手にしたカードをマオに取り上げられる前に、また山札に押し込んだ。
甲板へ出てきたヴェイグとはしばらく話をする事無く、
海を見たり、じゃれ合うザピィとハープの愛らしい姿を眺めたりして過ごす。
穏かな時間が過ぎる。
陸に上がったら、きっと緊張の時間が来るのだろう。
不意にがヴェイグに言った。
「・・・さっきは不安にさせるようなことを言ってすまなかった。・・・軽率だった」
「・・・いや、大丈夫だ」
確かに先程の彼女の予想はクレアを大事な家族とするヴェイグを不安にさせるのに充分なものだった。
しかしヴェイグはサニイタウンで助けた娘、スージーから「攫われた女の子は大事に扱われる」という話を聞いていたので、
彼女の予想はまず現実にはならないだろうとは思っていた。
だが、それでも不安は消える事が無い。
守ろうと思っていたクレアを守れなかった罪悪感は、彼女を助け出すまで消えそうに無かった。
「・・・今のヴェイグなら、クレアを助け出せる。・・・・・・もう貴方はスールズにいた時の貴方ではないんだから」
「お互い様だろう。だって・・・もうただの奴隷人形じゃない」
「・・・・・・ありがとう」
フッと笑ったにヴェイグは表情を柔らかくして、彼女の肩を見た。
ペトナジャンカの夜についていたあの傷はもう跡形も無く消え去っている。
良かった、と考えていたヴェイグの頬に何かが押し付けられる感触がした。
ほんの少しだけキツく花と血の匂いがする。
何かと視線を下ろしてみれば、頬に当てられているのはカモミールの花。
当てられている場所はヴェイグの頬の傷。当てているのはだ。
「癒しの水を傷つきし者に与えん ヒール」
いつの間にか花を押し付けている彼女の指から血が流れていた。その血が温かな光を放つ。
はカモミールの花と血を『掛けた』治癒術を唱えた。
花が頬から外された時、ヴェイグの頬の傷は彼女の肩の傷 同様に跡形も無く綺麗に消えていた。
「・・・その傷、私が暴走している時につけたんだろ?すまなかった」
「・・・それより・・・使ってなかったのか、それ」
カモミールの花には見覚えがあった。
ペトナジャンカで自分が彼女に手当てに使えと渡した物だったからだ。
「ヴェイグからもらった物だと思ったら、もったいなくて使えなかった」
苦笑して言うへ照れを隠すように、ヴェイグは小さくため息をついた。
バルカ港に辿り着き、船旅は終了。
船から降りるとティトレイはやれやれとばかりに大きく伸びをする。
「何とかバルカに上陸できたな」
伸びのついでに欠伸をするティトレイを他所に、ヴェイグは辺りに多くの兵士がいるのに気づいてに問う。
「お披露目の儀式というのはこんなに警備が厳しいものなのか?」
「これを期に何か仕出かす奴らが多いんだ。だから、港を閉鎖したり荷物を確認したりと厳戒態勢を敷くんだ」
「・・・それだけかしらね」
ヒルダの呟きにアニーも同意した。
「私も同感です。クレアさん達の件の事も、理由の一つなんじゃないでしょうか?」
「とにかく、ユージーンとは顔が知られてるし、気をつけないとね」
マオの言葉に話題の二人が心得ていると頷く。
決意を新たに、ヴェイグ達は歩み出した。
周囲を警戒している兵士達に怪しまれる事なく無事にバルカ港の外れまで移動出来た。
あともう少しで港を抜けられる。
その時突然、道の隅にいた占い師の老婆に声をかけられた。「お主」と。
「ん?何だい、婆さん」
自分が呼ばれたのかと思ったティトレイが老婆に近づく。
しかし老婆は違うと首を振った。
「お主ではない。白金の髪を持つそこの青年じゃ」
「・・・・・・俺か?」
呼び止められたのはヴェイグだったようだ。
老婆は彼を傍に呼ぶとカードを並べる。・・・タロットカードのようだ。
「お主の後ろに良からぬ影が見える。これからお主は心を裂かれる様な出来事に襲われるかも知れぬ。・・・青年よ、一枚選べ」
老婆が並べたカードから言われたとおりに一枚取り、それをヒルダに手渡す。
「・・・月のカード。正位置なら不安や疑惑の暗示。逆位置なら好転の兆し。あるいは・・・真実に気づく」
・・・よくは分からないが、何だか嫌な予感がした。
「影に飲み込まれてはならぬ。常に心を強く持つことじゃ」
老婆はそう強く言い聞かせると、次にに視線を向けた。
「白銀を持ちし娘よ。生まれを呪うな。真実は自ずと見えてくる」
「え・・・・・・・・・?」
「聖なる星は常にそなたを見守っておる・・・」
老婆はそれだけ言うと、もう用は無いとばかりに黙ってしまった。
ヴェイグとは互いに老婆に言われた言葉を、考え込んでいた・・・。
バルカ上陸!の巻
ようやくバルカだぁぁぁっ!!ミルアガもサレ様もいるぞっ!!
ここら辺から夢主のことが色々とわかってきます。
ホーリィ・ドールの事とか色々。
聖なる星・・・早く出したい・・・。バルカ編は個人的に書いてて楽しかった。
読んでくださっている皆様にも面白いと思ってもらえるような出来になればいいんだけど・・・。
とりあえずはさっさとサレを出したいです。