光の空間が崩壊すると同時に、倒れたミリッツァの元へヒルダが歩み寄る。
起き上がろうともがく彼女を抱えるようにして支えた。



「ミリッツァ・・・どうして・・・こんな事をしたって純粋なヒトの身体なんて、手に入らないのよ・・・!?」

ヒルダを近づけまいとその腕を振り払い、ミリッツァは傷ついた肩を押さえて立ち上がった。




「言ったはずだ。・・・王の盾以外に私の居場所はないと。
 それともお前は・・・ハーフの居場所を見つけたと言うのか?そこのホーリィ・ドールも・・・」


「それは・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」

未だに見つけられていないヒルダと、先程失ったばかりのは彼女の質問に答えらなかった。
ただ黙る事しか、出来ない。








「引け!ワルトゥ!!」
「お見事でした、隊長。・・・・・・しかし任務は必ず遂行します!しばらく意識を失っていただきますよ!!」


ワルトゥが音のフォルスを操り、超音波のような高い音を発する。
キィインと耳鳴りがする音が脳に直接響き、頭痛を誘う。


「あぁっ!頭が・・・・・・!!」

耳を押さえて苦しむセレーナ達を見て、は舌打ちをする。
そして自身の頭痛を堪えて、素早く詠唱した。


「万物に流るる生命の水よ 我の盾と為せ フォースフィールド!」

が叫ぶと、先程の戦闘で流れた血が誰の者を問わず集まり出す。
それらは淡い紅色の光を放ちながら盛り上がり、ドーム状になってヴェイグ達を包み込んだ。

完全に包まれると、音波は聞こえなくなった。



「さすがですね、。・・・しかしいつまで耐えられますかな?」

ワルトゥは高音波を更に強くする。
血の盾はどんどんと大きくなる音に押され、耐え切れず、最終的に耳鳴りが聞こえるまでになってきた。




「・・・くそっ・・・・・・」

もう限界だと悟ったを救うかのように一つの声が響く。
静かだが堂々としていて、自信に溢れている声。



「何事だ。ずいぶんと騒がしいではないか、ワルトゥよ」







声の主はカレギア軍を引き連れた、銀色の鎧を纏う金髪の青年だった。










突然の第三者の登場に、思わずワルトゥももフォルスを解除する。
しばし呆然と全員がその青年を見つめる中、ようやくヴェイグが沈黙を破った。


「アイツは・・・?」
「カレギア王国軍の将軍、ミルハウスト・セルカークだ」

ヴェイグにが答えた。続いて、マオ。


「軍に入隊してすぐに頭角を現し、その手腕と人望を買われて、若くして将軍になったエリート中のエリートさ」

マオの説明では改めてもう一度ミルハウストを見る。






ミルハウスト――――――――アイツがアガーテを・・・




ふとアガーテの涙を思い出し、目の前の青年をキッと睨みつける。









しかしミルハウスト本人はそんな事には気がついていない様子で、ワルトゥに話しかける。

「バビログラードの動向が慌ただしいと聞き赴いてみれば民間人を巻き込んでこの騒ぎ。何をしている?説明しろ」
「・・・恐れながら、我ら王の盾の任務はアガーテ様の勅命。陛下の許可なくして私が語ることはありません」

ミルハウストが所属する正規軍とは違い、ワルトゥ達が所属する王の盾は王の命令に従い影で動く謂わば隠密部隊。
女王アガーテの勅命を他の口から語るワケにはいかない。


「・・・そうだったな。ならば陛下に直接窺うまでの事。だが、ここは引け。私の目の前で民を傷つけることは許さん。
 私が忠誠を誓ったカレギアはすなわち、カレギアの民そのものでもある」
「しかし・・・!」


ワルトゥが反論しようと声を上げる。

ミルハウストの言葉は一方的な、ほぼ彼の傲慢であるのは誰でもわかった。
しかしそれ程に『カレギア』を守ろうとする心があることも同時にわかることであった。



「どうしてもと言うならば、私が相手になろう」


剣を取り出したミルハウストを見て、仕方がなくというようにワルトゥが承諾する。

・・・反論するには相手が悪い。



「・・・承知致しました。隊長、後程お会いしましょう」


ワルトゥがカレギア兵の元へ歩いて行くと、ミリッツァも後を追う。


「ミリッツァ!」

ヒルダが叫んだが、ミリッツァは一目だけヒルダを見て、兵の中へと消えていった。




































「・・・久しぶりだな、ミルハウスト」

久しい男にユージーンが声をかける。


「・・・以前は国の為に尽力を尽くし合った仲とはいえ、貴方は国と袂を分かった。・・・語ることなど」
「そうか。だが、かつての同志として一つだけ忠告する」

ユージーンの言葉にミルハウストは大人しく耳を傾ける。


「一刻も早く女王陛下の元へ行け。そして何が起こっているのか、お前の目で確かめてほしい。
 お前には真実が見えるはずだ。・・・互いの刃を交えない事を、俺は切に願う」
「・・・・・・・・・」

無言でミルハウストがその場を去ろうとする。
それをティトレイが一声かけて止めた。



「皆を助けてくれて、ありがとうよ」

ティトレイの礼を聞いたミルハウストは、そのまま去っていった。





































「皆さん、大丈夫ですか?」
「えぇ、皆無事よ」

一段落着いて、アニーが娘達に安否を尋ねる。
セレーナ達は小さな傷を負う事無くまったくの無傷で、笑顔を浮かべて無事を伝えた。

その一通りの光景を見て、はその場を離れようと足を動かす。



「・・・何処に行く?」

歩き出した彼女をヴェイグが呼び止める。
は彼の方を振り返ることなく質問に答えた。


「アガーテ様を止めに行く」
「なら、一緒に来れば良い」
「・・・・・・簡単に言うな」

は自嘲するように笑った。



「私は、薄汚い奴隷人形だぞ・・・?それに、お前達に散々迷惑をかけた。罪悪感ばかりで・・・お前達といる事なんて、出来ない」
「それはサレの命令でやった事だろう?俺達は気にしていない」


ヴェイグの言葉に反応し、はようやく彼を見る。




「お前は独りじゃない。俺達がいる・・・」
「・・・・・・・・・」

「お前は以前、サレに従うからこそ、アガーテを止められないと言った。
 今のお前はサレから解放されて、『自由』だ。・・・・・・アガーテを止められるだろう?」


ヴェイグが言うと、は彼に自分の顔が見えないように顔を逸らした。





彼女の表情が窺えない。





「契約の首輪は未だにサレ様が持っている。・・・いつか裏切るかもしれない」
「その時は、お前が罪悪感に潰される前に、俺が殺してやる」
「・・・・・・ふふっ・・・それは、嬉しいな・・・」


スッとはもう一度ヴェイグと目を合わせる。

そして、彼への答を言葉にして、述べる。






「こんな私で良ければ、喜んでクレア救出に手を貸す。・・・よろしく」




そう言って、フッと微笑む
その顔は今まで見てきた彼女の表情の中で一番美しいと思い、ヴェイグはしばし見とれていた。


夢主、ヴェイグ一行の仲間になるの巻。「次回はオレが主役だー」

やっと仲間になったね、このコ。
私の考え出す夢主はとにかく不幸体質で幸せになるかならないかってのが多いんですが、
(しかも約7割は悲恋だったり悲しい結末・・・)ヴェイグに心を寄せれば
まぁ不幸すぎだろって終わり方はないと思います。
というか、TORの夢主ちゃんは幸せになってもらいたいものだよ・・・。
種の夢主あんなだし(痛)