傷ついた身体で残りの階段を出来るだけ早く上り、何とかバビログラードにたどり着く。


街に入ってまず最初に出会ったのはヒューマの男性オックスと、ガジュマの女性ダナだ。
二人は恋仲であるらしく、その関係を知ったヒルダが弱っている身体を無理矢理立たせ、激しく怒りをぶつけた。


二人が愛し合うという事でちらつくハーフの影。

自身の身体を呪う彼女にとってはオックスとダナの関係は憎むべきものだった。


そんな彼女を見つつ、ユージーンは二人に宿屋の位置を訊こうとした。
しかし二人は「街の人間に見つかるとマズイ」と告げて、話を聞いてはくれなかった。



















「二人の様子はどうだ?アニー」

ティトレイは宿屋の部屋から出てきたアニーに声をかける。
アニーは救急箱を抱えてティトレイ達の元へと歩いて来た。

二人とはヒルダとのことだ。


「二人共すごい回復力で、特にさんは傷がほとんど塞がっているんです」


二人の回復力は恐らくヒルダがハーフで、がホーリィ・ドールだからだろう。
こういう時でも自分達が異種の存在であることがわかるなんて皮肉だ。



アニーの言葉はヴェイグの耳へと届いた。



ひとまずは無事のようだ。安堵してホッと一息ついた。




「ヴェイグ!余所見しないでよ!ちゃんとボクの質問に答えてもらうよ!!」


マオは、先程ボロボロだった姿は何処へ行ったのかと質問したくなってしまうほどに元気になっていた。

それでも服の隙間のあちこちから見える包帯が痛々しい。



「まず一つ。何でヴェイグはあんなにと仲が良いのか!全然そんな機会なかったのに!!」
「・・・ペトナジャンカで夜を過ごした時、が話をしに来たんだ」

その時に互いに言葉を交わして、のコトが少しわかって、ザピィとハープが仲良くなったことを話した。
ちなみにハープはが気絶した後、ヴェイグ達の後をついてきて今はしっかりとの傍についている。


「二つ目。の願いって何?」
「・・・アガーテを止める事だ」

ペトナジャンカで話してくれた彼女の願い。
それも説明もすると、マオは弱々しく「そっか」と返した。


「じゃあ最後に一つ。・・・・・・・・・、どうする気なの?」
「・・・暴走していたとはいえ、独りにさせない・・・と言ってしまったから・・・も一緒に連れて行きたい・・・」


ヴェイグの言葉に対し、ユージーンが言う。

「だがを連れて行くと、彼女をサレと戦わせる事になるかも知れんぞ」


ユージーンの言葉で、ヴェイグはハッとなった。

主人であるサレを、きっと彼女は攻撃する事は出来ない。
それを無理にさせてしまったら、それこそは壊れてしまうかもしれない。


・・・だが、だったらどうしたら良いというのだ。





「でもよぉ、そういうのは本人が決めるモンだと思うぜ?」
「ま、ティトレイの言う通りだよね。が気がついたら訊こうよ」

ティトレイとマオが言うと、ユージーンは頷いた。


コレばかりは彼女の意思を尊重するしかない。


「ではそれまでに少しでも情報を集めよう。アニー、ヒルダとを看ていてくれ」
「貴方なんかに言われなくても、そのつもりですっ!!」

キッとユージーンを睨むアニーに、ヴェイグはため息をついた。


















宿を出て情報集めに出たのはヴェイグ、ユージーン、マオ、ティトレイの男四人。

街を出てすぐにティトレイは井戸で水を汲んでいた老婆を発見した。
早速とばかりに話しかけようとした彼を、ユージーンが止める。


「・・・さっき戒律があると言ったばかりだろう」
「お、そうだったな」

バビログラードは蒼獣信仰という宗教が存在する。
その信仰の戒律は夫婦家族以外の異性とは話さない、未婚の女性は顔を隠すなど、厳しいものだ。


故に先程会ったオックスとダナは家族以外の存在であるお互いと話し、
タブー視されるヒューマとガジュマの恋をしていた為に街の者に見つかると『マズかった』のである。






「しっかしリフトがまだ使えないなんてなぁ・・・タイミング悪いぜ」


先程、ティトレイとマオが港へと繋がるリフト乗り場を見つけて、
乗せてもらえるように管理人に頼んだのだが、ちょうどリフトで港に荷物を降ろしてしまったため無理だったのだ。
あのまま上手く乗る事が出来ればバルカ行きの船を捕まえられただろうに。もったいない事をしたものだ。


「後でまた行ってみようよ」

マオがそんなことを言っていると、聖殿の方から全身に蒼い布を纏ったヒト達がぞろぞろと列を作りやって来た。


先頭の蒼い衣を身に着けている男が目に入る。服装から見て、彼らは祭司と巡礼者らしい。

真っ直ぐこちらに向かって来るので、道を開けようと思い隅に移動したヴェイグ達だったが、
ヴェイグだけが少し移動に遅れて、女(顔を隠しているため姿は分からないが、声で確認した限り女性だ)の巡礼者とぶつかった。



「・・・・・・すいません」
「・・・いや」

そんな小さな出来事だったが、ヴェイグは妙な違和感を覚えた・・・。

















「ヒルダ!もう大丈夫なの?」
「えぇ、もう平気よ」

一度宿に戻ったヴェイグ達はロビーでアニーと談笑するヒルダを発見した。


・・・の姿はない。


「・・・は?」
「傷は完全に塞がっています。今は眠っていますよ」

アニーの答えを聞いて、ヴェイグはいくらか安心したようだった。




「ねぇヒルダ聞いてよ!さっきヴェイグったらボーっとしてて女の人とぶつかったんだ」


マオは先程のことをヒルダに報告する。
さっきだってティトレイと共にたくさん冷やかしてきたくせにまだ足りないかとヴェイグは軽く息をついた。


「それでね、謝まられたんだよ!」
「え?嘘でしょう?」
「嘘じゃないよ!ちゃんと“すいません”って言ったんだよ!」


マオの一言にヴェイグはふと違和感を感じた。






・・・『すいません』と言った・・・?





「それ、戒律違反じゃない。男だったんじゃないの?」

ヒルダのそっけない言葉でヴェイグは確信を持った。









「さっきの巡礼者は、さらわれた娘達だったんだ!!」














ヴェイグの推理を聞いた五人は彼に続いて急いで宿を飛び出した。



ヴェイグの推理。それはさらわれた娘達は聖殿に幽閉されていた事。


さらった娘達を隠すには顔を隠す戒律があり、広い場所を誇る聖殿が絶好の場所だ。

あとは巡礼者に扮し、何食わぬ顔でリフトに向かい港へ行き、そのまま船に乗り込んでしまえば良い。

そうすれば自分達がバビログラードのあちこちを探している間に、娘達は既にバルカへ運ばれているという寸法だ。


ヴェイグの考えならば確かに上手くいく。納得した五人はヴェイグの後に続いた。














リフト乗り場に辿り着き、リフトの管理人にヴェイグは半ば脅すように詰め寄った。


「今すぐリフトを動かせっ!!」
「それは・・・出来ない・・・」


感情の篭らない声で管理人は言うと、ヴェイグをとても強い力で突き飛ばした。
常人ではとても発揮できそうにない力だ。


「それは・・・出来ない・・・」
「ユージーン、コレって・・・」
「あぁ。ワルトゥのフォルスの力だ」


ワルトゥの音のフォルス。ヒトを操る事の出来る音を作り出すフォルスだ。

・・・やはりヴェイグの考えは間違っていなかったらしい。





あの巡礼者の中にクレアがいたかもしれないのに・・・!



「くそっ!俺がリフトを動かす!!」

早くクレアを取り戻したい一心のヴェイグの無茶な発言を、ユージーンが冷静に止める。

「素人が動かしては危険だ。管理人の暗示を解いた方が良い」
「そうだね。暗示になっている音を探そうよ!」
「そんなことをしていたら―――!」

そんな暇はないとばかりにヴェイグが叫ぶと、六人の背後から凛とした声が放たれる。
今のこの緊迫した空気を一刀両断するかのような、強く、よく通る声。




「愛しき空」



管理人はその言葉を耳にすると同時に、スイッチを切り替えた機械のように瞬間的に正気に戻った。
暗示を解く音は「愛しき空」というものだったようだ。


しかし一体誰が音を発したのかと思い、ヴェイグが背後を振り返る。
入口の前に、紫色のマフマフを肩に乗せた銀髪の少女が立っていた。



先程までベッドに伏せっていた、




・・・」
「時間がないのだろう?・・・暗示は解いた。助けられた礼にな」
!もう動いても大丈夫なの!?」
「私に構うな。早くリフトに―――」


の言葉を妨げるようにヴェイグは彼女の腕を掴んだ。


「お前もだ」



ただ一言、告げた。


ヴェイクレなのかヴェイグ×夢主なのかわからないぜの巻!!
ハイようやく続き更新できました。
夢主がヴェイグ達の仲間になるまであと数話。
早くバルカに行きたいです。ヴェイグと話させたいです。サレに会いたいです。
ヴェイグとサレの感情描写書くの大好きなんです。

次回、ワルトゥ&ミリッツァと戦います。夢主も参戦v