もう遠くへと行ってしまった主人に謝っていたを現実に引き戻したのは、ドネルの鼻笑いだった。


「ふん、ホーリィ・ドールが!自滅するなんて、ド馬鹿な奴だなっ!!」
「ドネル・・・?」


ある程度回復したらしいドネルが、に向かって言葉を放つ。



「やはりサレ様にド捨てられるだけはあるな!!」



























・・・・・・何?












――――――――――――――『捨てられる』 ?










ピクリとは反応した。ドネルは続けて言う。


「サレ様から伝言だ。耳の穴をドかっぽじってよぉーく聞けっ!!」



ドネルの口から、サレの言葉が伝えられる。



彼女の心を抉る、冷たい残酷な言葉。











君に感情を持たせた理由は、出来上がった『心』を壊して、潰れてしまう君が見たかったから。








僕を失うと存在意義を失うなら、それを見る為に僕は君を捨てる。













―――――――― バイバイ、可愛いお人形さん















ドネルはわざわざサレの泥人形を作り出して、まるでサレ自身が喋っているかのように仕立て上げた。
しかし、彼女は既に虚像のサレまでも目に入っていなかった。




意識が、サレの言葉に支配されていく。














それが・・・サレ様の本心・・・?

その為に、その為だけにずっと私を傍に置いていた・・・?








『ホラ、さっさと腕出しなよ』


右手の手当てをしてくださったあの時も、全部 私を壊す為・・・?








引き裂けてしまいそうなくらい強く、右手に巻かれたハンカチを握りしめた。







・・・サレ様は、私を独りにしたかったのか・・・・・・。






『独り』




その考えに行き着いた瞬間、は心を持ってから初めて、『恐怖』を抱いた。





手放された、唯一の生きる方法。




―――違う。生きる方法を失った事が怖いんじゃない。








この恐怖は―――――――――――――――――― 。
















「残念だったな。所詮貴様はド汚い人形でしかないんだよっ!!」
「・・・・・・まれ・・・」


がポツリと小さく呟く。
じわりと紅色の光を全身に放ち始めた。


それに気づかず、なおも大きく笑うドネルを、紅色の瞳で鋭く睨みつけた。


「うるさいと言っているっ!!」


がドネルに叫ぶと、地に落ちていた彼女の血が鋭い結晶となり、それがいくつもドネルに突き刺さった。



「ドギャアアァァァァァッ!!」


ドネルはその衝撃で吹き飛び、底の見えない谷底へと落ちていく。
は深淵に落ち、霧に飲まれたドネルを静かに見送ると、鼻で笑った。




「・・・ドネルめ。余計な事を・・・・・・」
「・・・・・・?」


恐る恐る、ヴェイグが声をかける。

しかし彼女にはもう、届かない。



「・・・わかっていたさ。生き方を知らない醜いホーリィ・ドールの末路なんて・・・・・・だけど・・・」



スッとの紅色の瞳から涙が流れた。

ペトナジャンカでは流れる事の無かった、あの雫。




「だけど・・・もう少し・・・騙されていたかった・・・」



は全身に光を纏いながらゆっくりと立ち上がる。
途端に、彼女の両足から血が勢いよく噴き出した。






「マズイよ・・・、暴走してる・・・」
「マオ!大丈夫なのか!?」

自身を心配する声を他所に、マオが手の上でフォルスキューブを発現させる。
キューブは本来の立方体の形を崩して、目で確認出来ない程の速さでマオの手の上を回転していた。



「このままじゃ・・・が死んじゃうよっ!お願い、皆・・・を止めてっ!!」
「どちらにしろ、止めないと私達が死んじゃうわよ!!」


ヒルダがカードを構え直す。

そのヒルダを、は曇った虚ろな瞳で睨んだ。
睨まれた事をヒルダが確認したと同時に先程足から噴き出た彼女の血が、刃のように鋭く形作る。

血の刃はヒルダの元へ一直線に飛ぶと、その身体を微塵に刻み、地に崩れさせた。



「ヒルダっ!!」

ティトレイはそのまま気絶したヒルダと、未だ弱っているマオを連れて、安全な岩の陰まで二人を運んだ。




「落ちつくんだ、!!」

ユージーンが落ちつかせようと叫ぶが、暴走した彼女に聞こえるはずはなかった。







・・・こうなったら、力尽くで気絶させ、強制的にフォルスの発動を止めさせるしかない。



そう判断したユージーンは槍を構え走り出した。





「サレ様・・・サレ様・・・・・・私・・・っ!」



今度は血が鞭のように撓り出す。
近づいてきたユージーンからを守るように、緋色の鞭がユージーンを弾き飛ばし、岩壁に叩きつけた。




「ユージーンっ!!」




「・・・独りは・・・・・・嫌・・・」


ユージーンの安否を気にしていたヴェイグは、の呟きを聞き取る。



それは小さな小さな救いを求める言葉。




ヴェイグは、持っていた大剣を静かに鞘に収めて、を見る。








『独り』に怯える弱々しい一人の少女。

・・・彼女を救う為に剣はいらない。









ゆっくりと、に向かって歩き出した。






だんだんと近づくヴェイグに気づいて、ビクリと身を震わせたがこれでもかという程の数の血の刃をヴェイグに飛ばす。
いずれの血の刃の大半は彼に当たらず、当たるといっても腕や足の隅を掠めるだけ。


それに恐れず、ヴェイグはゆっくりと歩み寄った。


「・・・っ嫌・・・嫌だっ・・・!」

ついには手を伸ばせば届く程度まで近づいたヴェイグに、は最後の抵抗とばかりに右手の短剣を突き出した。
刃はヴェイグの頬を掠めて通り過ぎ、彼の頬から血を一筋 流させた。


「・・・・・・ぁ・・・」
「・・・これで、あいこだな・・・」


ヴェイグの頬の血を見たの動きが一瞬止まる。

止まったにヴェイグは腕を伸ばし、彼女の小さな背中に腕を回す。


身体を己の胸に引き寄せて、強く抱き込んだ。



ビクリと強張る彼女を落ちつかせる為に、子供をあやすようにそっと頭を撫でてやる。





「大丈夫だ・・・お前は独りじゃない・・・」
「独り・・・・・・じゃ・・・ない・・・・・・?」
「そうだ。俺達がいる・・・・・・は、独りなんかじゃない・・・」


ヴェイグの言葉に安心したは、ほーっと静かに息をつき、彼に身体を預けるように意識を手放した。
寄せられた彼女の身体は、もう紅色の光は放っていなかった。







「暴走が収まったのか・・・」
「あぁ。・・・・・・皆は大丈夫か?」


を横抱きにして担ぎ上げて、ヴェイグはユージーン達の方を確認した。

ユージーンとティトレイは大きな怪我はなく比較的大丈夫なようだが、
フラフラなアニーとマオ、ティトレイの肩を借りて何とか立っているヒルダは辛そうだ。



「バビログラードで一端休もう」
「あぁ、そうだな。その方が皆に良い」


ユージーンの提案にヒルダを担ぎ直してティトレイが頷く。
それから、ヴェイグが抱えるを見た。



「・・・・・・その娘は・・・」
「俺が連れて行く」

ヴェイグはティトレイに静かに答える。


心の中では、サレの彼女への仕打ちに対し、激しく怒りをぶつけていた。


夢主、暴走するの巻。
フォルスが暴走したら抱きしめて落ちつかせましょう。
フォルス暴走者の対処法。マンネリ上等。

ヴェイグの「あいこ」の意味が理解できない方、思い出してください。
スールズでヴェイグが夢主の頬をスパーンと斬った事を。(4.絶氷の青年の1参照)
サレと夢主、切ない・・・。この辺はノート書いてて辛かった。

でもヴェイグ×夢主的には萌えるんですよ・・・ばかっ。
夢主は二股なんてしていません。してるのは私です。(爆)