ヴェイグの大剣が武器ごとドネルを斬りつけた。

砕けた武器と共にドネルが地に崩れる。


「くそぉ〜任務ド失敗だぁ・・・」
「言葉のわりにはド弱かったな、ドネル」


はドネルに悪態をつきながら、腰掛けていた岩から立ち上がる。
そっと肩にいたハープを地面に降ろした。

ハープがある程度離れた場所に移動したのを見てから、真っ直ぐにヴェイグと向き合った。



「・・・ドネルの言ったとおりだ。・・・覚悟しろ」

鞘から双剣を取り出して、が構える。

それを見て、ヴェイグが叫んだ。


「何故だ!!アガーテを止めて欲しいんだろ!?」
「止めて欲しいさ。・・・・・・だが私の優先順位はサレ様が一番だ。だから・・・・・・」


「くっ」と小さく、辛そうに呻いてはヴェイグ達を睨む。


明らかに、こちらに敵意を持っている瞳で。


「だから・・・守りたい者があるなら、私を殺して先に行けば良い!!」
っ!俺は・・・!!」
「私を殺せば邪魔者は減るし、クレア達を助けられる!私の願いも叶うっ!!・・・・・・全てが丸く収まるんだ、ヴェイグ・・・」

弱々しく発した彼女の言葉を聞いて、ヴェイグも、辛そうに顔を歪める。
そしてその言葉を否定して首を振った。


「違うっ!!」
「違わないっ!!」

否定の言葉も聞かず、は双剣を握って、ヴェイグ達に向かって走り込んだ。












!止めて!!」
「黙れマオ!スールズで言ったはずだ!サレ様の命は絶対だと!!」
「ボク達だって下がれない理由があるんですケド!?」
「ならこの場で・・・朽ちろ!!」


叫び、は持っていた短剣を勢いよく自分の左腕に突き刺した。
彼女の能力を知らない者であれば、突然自身を傷つけた彼女を何事だと思った事だろう。


しかし、マオはの能力を知っている。

コレは彼女特有の『攻撃の準備』だ。



それに気がついて、マオの身体が緊張で強張った。


「獅子閃紅っ!!」


は自身の血液を吸った刃をマオに振るう。
彼女の血が染み付いた刃はマオを斬りつけると同時に、紅い獅子を造りだして、更にマオを襲った。


「マオっ!!きゃぁっ!!」

緋色の獅子に飲み込まれてマオは吹き飛ばされる。
更にアニーを巻き込んで体勢を立て直す暇さえなく岩盤に身体を叩き付けた。

岩盤と共に、マオとアニーが崩れる。


「マオっ!!アニーっ!!」
「・・・あと四人」


感情を込めずにが残り人数を確認し、今度は詠唱を始める。


「我の血に裁かれよ ブラッディクロスっ!!」


短い詠唱が終わった瞬間、の左腕の血が意思を持ったかのようにヴェイグ達の足元へ飛んだ。
地面に付着した血液は、巨大な十字架をいくつも造り出して、次々に爆発する。

ヴェイグ、ユージーン、ティトレイ、ヒルダは強大なその攻撃をギリギリで避けていく。


「うぉっ!危ねぇ奴だな!!三ッ星の攻撃だぜ!!」
「そんなこと言ってないでアンタ一番足が速いんだから止めてきなさいよ!!」
「出来たらやってるつーのっ!!」


ヒルダに言われずとも、ティトレイは何度もを間合いに捉えようと試みている。

だが、はティトレイ以上に素早く、どんなに近づいても感づかれ、すぐに距離を開けられてしまう。
しかも彼女は剣術も導術も心得ている。無理に近づけば、あっという間にマオやアニーの二の舞だろう。



のフォルスは・・・自分自身も傷つける」


ユージーンの呟く声にヴェイグはハッとなった。


の『血のフォルス』は血を操るフォルスだ。
自分達を攻撃するために自分を斬りつけ、血を流していれば、自分達を傷つけるごとに彼女自身も傷つく。


「このままだと・・・・・・は・・・・・・!」

ヴェイグがを見つめたと同時、
彼女は自分の負う怪我も構いなしに右腕にも刃を深く刺した。両腕から紅い血が滴る。

その右腕を頭上に上げて、は詠唱を始めた。


「我が呪いの血を雨と降らせん・・・・・・アシッドレイン!!」


右腕の血液で血の雨を降らせて、ヴェイグ達の動きを鈍らせる。
その隙に、は更に導術の詠唱を進めた。



「血塗られし槍を 我を仇となす者への罰とせよ 静けき眠りに誘え ブラッディランスっ!!」


詠唱が完成し、四人の足元に一つの巨大な法陣が現れる。

法陣は逃がすまいと、ヴェイグ達の足に触手の様に血を纏わりつかせて身動きを取れなくする。
その次に、そこに向かって血を結晶化させた槍がいくつも降ってきて、ヴェイグ達を襲った。


「ぐああぁぁっ!!」

ヴェイグ達は悲鳴を上げて、地に倒れかけた。
かろうじて片膝を立てている。




の攻撃は圧倒的に強く歯が立たない。
ヴェイグがまたを見ると、彼女も血を流し過ぎたのか青白い顔をしながら立っていた。

彼女の細い身体がグラリとよろける。





「・・・・・・お前達の思いは・・・そんなモノか・・・?」


息を切らしながら、が訊ねた。
ヴェイグはゆっくりと立ち上がって、言葉を返す。





「もう止めろ。・・・これ以上は無理だ」
「・・・何を・・・言って・・・・・・私は・・・まだ・・・・・・ぁ・・・」

突然、の身体が沈むように地に座り込んでしまった。
立ち上がろうとして腰に力を入れても、立てない。

言う事をきかない身体に、戸惑う。


「・・・・・・ぇ・・・?」
「お前はもう動けない筈だ」


ヴェイグに言われて、はようやく自分の全身を確認した。
両腕両足、肩に頬・・・出血していない所なんて無いのではないかと思える程に、身体は血塗れだった。








・・・自滅とは情けない。



信じたくは無いが、事実だった。







は、負けた。







「・・・サレ様・・・申し・・・訳・・・ありません・・・・・・」





はもうバルカへと向かってしまったのであろう我が主人に、謝った。


夢主、ヴェイグと戦うの巻。
短くなっちゃったけど、夢主の技色々出せて良かったです。
ちなみに『獅子閃紅』は確かにテイルズおなじみ『獅子戦吼』からですが、
誤字ではありません。念の為。

それからブラッディランスの詠唱言葉は、
「ちぬられしやりを われをあだとなすものへのばつとせよ しずけきねむりにいざなえ」です。

とりあえず、夢主の詠唱は全部オリジナルのはず。被ってるのがいくつもあると思うけど。

次回、さらば!愛しきドネル!!夢主の乱心!!
            
クレアから卒業できるのか、ヴェイグ!!

(種の予告風に)
・・・コレで大体の予想はつくはず。私はヴェイグがクレア離れできないと信じております