・・・夢を見た。



あれはまだ自分がフォルスに目覚めていない頃の事だ。


懐かしい。クレアが自分の手を引いて笑っている。



クレアが隣にいる。


自分も彼女に笑いかけようとして隣を見ると、そこにクレアはいなかった。





探しても探しても自分の傍にはいない。










クレアが自分の元から消えていた。








「ハハハハハッ!!」



耳障りと感じるほどの大きな声が耳に飛び込んできて、ヴェイグは目を覚ました。
見えるのは宿の部屋。隣でザピィが眠っている。

「・・・夢か・・・・・・」

夢ではあるのに、さっきのは幻なのに、クレアがいないということは事実だった。


その辛さを押し殺して、ヴェイグは部屋を出た。









「おっ!何だよヴェイグ〜今起きてきたのかよ〜」

部屋から出ると、宿のロビーからティトレイの茶化した声が聞こえてきた。
そちらを見ればティトレイの他にマオとアニーもそこにいた。どうやら三人で談笑していたらしい。


コイツの笑い声で起こされたのか・・・。


そう思うと不愉快極まりなかったが、
あの嫌な夢から目を覚まさせてくれたのも同時に彼であったので、ヴェイグは何も言えなかった。





「ねぇ、ユージーン。次の目的地はドコなの?」


マオは自分達から少し離れた位置で槍の手入れをしているユージーンに訊ねた。



「ふむ・・・ペトナジャンカから1番近い街はサニイタウンだな」
「サニイタウン・・・」


ロビーに辿り着いたヴェイグがポソっと呟く。
ユージーンがそれに気づき、それにも答える。


「サニイタウンはペトナジャンカから南東に位置していて『水上都市』とも呼ばれている」


サニイタウンの話をしていると、今度はティトレイがそれに気づいてこちらに近づいてきた。

「お!サニイタウンに行くならトヨホウス河のググラじいさんの川下り便を使えば昼頃には着くぜ!!」
「トヨホウス河・・・」

またもヴェイグが呟くと、ティトレイは腕を大きく広げて言った。

「すっげぇ急流をググラじいさんが船を引いて下るんだ。その迫力といったらないぜ!!」
「わぁ!おもしろそう!!」
「でも・・・少し怖そう・・・」

面白がるマオと怖がるアニーを見て、ティトレイは大きく口を開けて笑った。





「サニイタウン・・・トヨホウス河・・・」
「ヴェイグ、どうかしたのか?」
「・・・・・・いや、何でもない・・・」

心配するユージーンにヴェイグは首を振った。







・・・の言う通りだった。
となると、やはり道も塞がっていて、恐らくティトレイの言う川下り便も使えない状態になっているのだろう。



・・・何故、彼女は主人を裏切ってまで自分に情報を与えるのだろう。
アガーテを止めて欲しいからだと言っていた。・・・しかし、本当にそれだけなのだろうか?


・・・それだけならば他にも方法はありそうなものだ。
なのにどうして主人に背いてまで自分に情報をくれるのか。


主人のサレが命令すれば喜んで命さえ差し出しそうな彼女が。


ホーリィ・ドールの彼女にとってサレを裏切る事は死よりも恐ろしく苦痛なもののはずだ。


その苦痛がどの程度のものなのかは自分には判別出来ないが、
このままでは彼女は自身のしている事に耐え切れなくなって壊れてしまうのは目に見えている。



・・・そんなことはさせたくない。

ようやく感情を手に入れた彼女がそれを手放すのはあまりにも悲惨だ。


それだけはさせてはいけない。




そう、ヴェイグは思った。












































サレ達はサニイタウンの宿を借り切って一夜を過ごした。
現在、宿にいるのは数人の従業員と王の盾の兵、そして十数人と増えた美しいヒューマの娘達だった。


「サレ様、いつこんなに娘を集めたのですか?」

の疑問だった。
二人がサニイタウンへ辿り着き、宿に戻った時にはズラリと増えていた美女ヒューマ。
自分達が連れてきたのはスールズのクレア、ミナールのヘレン、ペトナジャンカのセレーナのみだ。

それが何故こんなに居るのか。疑問を持つのは当然だった。



「トーマがね、集めてくれてたんだよ」
「え?あの方が・・・?しかし、あの方はヒューマの美しさは・・・」


サレの言葉から探り出せば、自分達がペトナジャンカへ戻っている間に
トーマが「美しいヒューマの娘」を集めてくれていたという事らしい。

娘達が増えた謎は解決した。しかしココで新たに疑問が浮かぶ。


「美しいヒューマ」の判別の出来ないトーマが、どうして美女を集める事が出来たのか。






新しく浮かんだそれも、サレが説明してくれた。


「正確に言えばトーマの部下が、トーマの命令で集めたってトコさ」

サレはスッと指を遠くへ向けた。
示す方向を見ると、周りの娘達に負けず劣らずの黒髪の美女が立っている。
手に持ったカードの絵柄を1枚1枚眺めている姿はキリッとしていながらもどこか艶かしい。



「・・・綺麗・・・ですね」
「ヒルダって名前らしいよ、あのお姉さん。彼女が集めたんだって」


サレの説明にホーっと感心していると突然目の前が陰った。

黒髪の美女から視線を外し、見上げればとても間近に映るトーマの顔。
驚いたは隠れるように素早くサレの後ろへ回った。


その行動に、トーマは少し不快感を味わったようで顔を少し歪ませる。


「やぁトーマ。 おはよう」

マイペースに挨拶したサレはの行動がおかしかったのか、顔が微妙ににやけている。

「サレ、そろそろ小娘共を連れて出発しろ」
「え?君はどうするんだい?」

何故トーマ如きに命令されるのかと言いたげな、やけに不満そうなサレを気にすることなく、トーマは告げる。


「オレは奴らの足止めに、ヒルダと行く。お前達は先に出発しろ」
「・・・わかったよ。、女の子達の食事が終わり次第、こっちに連れてきてよ」
「はい、サレ様」



はテーブルにいたハープを肩に乗せると、娘達の元へ歩いて行った。


ヴェイグ、夢主を心配するの巻。
こっからヴェイグは夢主を『敵』という見方から別のものへ少しずつ変化します。
サレは相変わらずマイペースに夢主をこき使ってます(笑)
早くバビログラードまで書きたい・・・。
そこから先が個人的に好きなんだよなぁ・・・。

次回多分砂漠越え。でもすぐに終わる。(爆)