クレアを連れ出しスールズを出て、ケケット街道を南下。ラルレン大橋まで辿り着いた。


のどかな風景でありながら、道を行くのは微笑ましいピクニックの家族連れなどではなく、
武装した兵士と貴公子のような姿の青年や笑顔の無い二人の美女。


あまりのギャップの違いに風景の美しさはぶち壊しである。










突然サレは「さてと、」と独り言のように呟いた。



「僕達がスムーズに行動出来るように、お前達ココで奴らの足止めしてよ」

サレは兵士達の中から男二人、女一人の三人組に声をかけた。
三人のリーダー格らしい男が他の二人より一歩前に出て、実に他人を不愉快にさせる馬鹿でかい声で高らかに宣言をする。


「この漆黒の翼にお任せください、サレ様!必ずや任務を成功させてみせます!!」


リーダー格の男は後ろに控える二人に振り返り、同意の言葉を求めた。


「なぁ、ドルンブ、ユシア!」
「任せてくださいでヤンス!」
「お任せください!!」

三人がはりきって答える。「頑張ろうな!えいえいおーっ!」などと続く声を気にすることもなく、
サレは「じゃあよろしく」とただ一言告げてクレアや、残りの兵士を引き連れ再びケケット街道を南下し出した。



「…サレ様、私が足止めしましょうか?」
「良いよ。アイツら、邪魔だから離しただけだしね。君は連れてきた女の子達の相手でもしててよ」


つまり、あの三人は邪魔になるだけだから適当な言葉を述べて切り離したという訳だ。


サレの言った意味は理解したが、はハープを指であやしつつ、「漆黒の翼」とは一体何なのかを考えていた…。




「あの…すいません…」

『漆黒の翼』についてアレコレ考えていたはクレアの遠慮気味の声で我に返る。


そちらを向けば、クレアは笑顔になって丁寧に頭を下げた。

「さっきはヴェイグを助けてくれて、ありがとうございます」
「……何のことだ?」

無愛想に訊き返すが自分の幼なじみの姿と重なり、クレアは苦笑した。

「貴女のヴェイグに向けた技が、何だか本気じゃない気がしたんです」
「…気絶すればそれで良かったからだ」
「それに、ヴェイグを助けようとしてくれていたように…私には見えたから」

笑って言うクレアを目の端に捉えて、は淡々と返す。

「そう見えたなら、それでも良いだろう」



まるで照れ隠しのように目をそらした銀髪の少女を、クレアは微笑ましく思った。





…実の所、はヴェイグを助けようとしていた。


クレアの言っていたように技の半分近くはヴェイグに当たる直前でただの血に戻していたし、威力も大幅に抑えていた。
更に治癒術までかけてきたのだ。これで殺すつもりだったと言っても、誰が信じるものか。

しかしそれをこんなか細い娘に見破られたというのだろうか。

…信じられない。



…いや、それ以上に自分自身信じられない事がある。

何故、サレの命令を無視してそこまで出来たのだろうか。
彼からは『やれ』と命令が下っていたはずなのに。





…きっと、クレアを守ろうとするヴェイグがサレに執着する自分と重なって見えたのだろう。





そうは思った。

















………ヴェイグ……か…。


















































ヴェイグは閉じていた瞼をゆっくりと開いた。
その彼の行動を見て、マオが彼の顔を覗き込む。



「………っクレアッ!!」

おぼろげな意識の中で、今までの出来事を全て思い出したのであろう。
ヴェイグは飛び起きてクレアを探した。

しかし、自分の周りにいるのはユージーンとマオ、クレアの両親のマルコとラキヤ。
そしてクレアのペットのノースタリアケナガリスのザピィだけだった。



「…クレアさんは王の盾に連れて行かれた」

まずは今の現状を述べるマオ。


それを聞いて、ヴェイグは自分がサレと呼ばれた男の傍にいた女にやられた事を思い出した。


「あの女…!!」
「…彼女は。四星のサレに仕える、ホーリィ・ドールだよ。…でもヴェイグ、君は彼女に感謝しなきゃいけない」


マオに言われた言葉の意味が理解出来ないといった表情をヴェイグがすると、ユージーンが次に言葉を放つ。


はサレの命令に必ず従う。しかしはお前を気絶するだけに留め、攻撃を最小限に抑えた。
 それだけでも命令に背いているのに、彼女は治癒術までお前にかけた」



ユージーンに言われ、ヴェイグは初めて自分の身体を確認した。
確かに自分には大きな傷がひとつもついていない。
いや、「ついていない」というよりも「ついていたが消えている」という言葉の方が正しいだろう。


それに、自分自身が口の中に冷たいモノが入るのを感じ、薄れる意識の中で聞いたのだ。




『癒しの水』と。












「…だが…アイツのせいでクレアは攫われた!!」
「…ボクは何でが任務の邪魔になるヴェイグを助けたかを考えてほしいんですケド」

ムッとしながら言うマオは、そのまま続ける。

「きっとはヴェイグにクレアさんを追いかけてほしい。…そう思ったんじゃないかな」
「!!」
「…どうする?ヴェイグ」


マオが訊ねる。


ヴェイグはすぐに頷いた。



「…答えは決まっている」




彼の答えは一つだけだった。





夢主、クレアと遭遇の巻。

他の方が書かれる夢小説の夢主さんはクレアと仲良くなる設定が多いですよね。
でもうちの夢主は少し鬱陶しがってます。苦手属性らしいです。
恋のライバル(?)だからね。

ヴェイグにも逢えてひとまず満足です。

夢主がサレ以外の人、ヴェイグに興味を持ち出しました。
ここからはたま〜にヴェイグ描写も交えて書いていきます。