「待ってさんっ!!」
ガサガサと草を分け入りながら森を進んでいると自分を呼ぶ声がして、は立ち止まる。
立ち止まった彼女を確認して、ホッと息をつきながらクレアは走り寄った。
「クレア・・・どうしてついて来た?バイラスが多いから危険だとさっき言ったばかりだろう」
「ごめんなさい。でも心配だったから・・・・・・」
走ってきたせいかハァハァとクレアは息を荒げている。
大した体力のないクレアが足の速い彼女を追いかけてここまで走ってきたのだから当然である。
「・・・大した根性だな、お前」
「気持ちだけが、私の取柄だから」
苦笑したクレアにフゥと小さくため息をついて、は言いつける。
「今すぐに帰れ。今頃ヴェイグが心配してるぞ」
「さんが帰らないなら私も帰りません」
ニコリと笑ってクレアは言う。
こうなるとクレアはテコでも動かない事はヴェイグからも聞かされているし、自分も体験済みだ。
はもう一度深くため息をつくとクレアに「行くぞ」と告げて、来た道を引き返し始めた。
「・・・それってヴェイグが悪いと思うんですケド」
「私はその・・・どっちもどっちだと思いますよ・・・」
マオとアニーはヴェイグからケンカの一部始終を聞いてそれぞれに感想を述べた。
あの後、が飛び出して何事だとマオ達が巨木に残っていたヴェイグに尋問したのである。
「迎えに行かないのか?ヴェイグ」
「・・・クレアならと合流したんじゃないか?」
ティトレイの質問にフイと顔を背けてヴェイグは淡々と返した。
それを見てヒルダが鼻で息をついた。
「クレアじゃなくてのことよ」
「・・・・・・ほっとけばそのうち帰ってくるだろ」
「ヴェイグー。君、かなり無理してない?」
マオが言葉に、ヴェイグは無言で彼の方をチラリと見た。
「あ、ようやくこっち見たね。ヴェイグさっきからずーっと森の方見てるんだもん」
痛い所を突かれ、ヴェイグは眉を寄せた。
「クレアさんかかどっちもかはわかんないけどさ、追いかけたいのは確かだよね」
「・・・・・・・・・」
子供の感情を読む力はスゴイといった所か。図星だったようでヴェイグは俯く。
「さん・・・大丈夫でしょうか・・・?」
「、一晩中見張りしてて寝不足だもんね」
マオが森を見つめるアニーに答えると、ヴェイグは弾かれたように顔を上げてマオを見る。
その顔は「何だと?」と声を出しているかのように彼の心中が読み取れた。
「は戦闘で疲労した俺達を気遣って一晩中ずっと一人で見張りをしてくれていたんだ」
「寝不足って肌に悪いのよね。頭も冴えなくてイライラするし」
「・・・ヒルダはいつもそうだろ?」
ボソッと口をこぼしたティトレイをヒルダが殴る。
殴られてダウンする緑色を一目見てから、マオが言った。
「そーんなにボク達のことを気遣ってくれたに「サレの事しか頭にない」って言ったのは誰かな〜?」
「・・・ヴェイグさん。確かにさんはクレアさんに酷い事を言ったかもしれません。それはさんが悪いとも思います」
アニーは続ける。
「でもそれはさんの心配からきたものなんじゃないでしょうか?・・・誰よりも皆のことを気遣ってくれているヒトだって私は思います」
「寝不足でイライラしてたんだと思うわよ」
「・・・どうする?ヴェイグ」
そうマオが首を傾げて言うのと同時にヴェイグは自分の大剣を掴んで駆け出す。
ザピィとハープが嬉しそうに鳴いて後を追った。
「もうすぐ皆のいる所ですね」
隣を歩くクレアに答えることなく、辺りを警戒しながらは歩く。
感情表現が苦手な所はもヴェイグもそっくりだと思い、クレアは思わず苦笑を浮かべた。
そんな事を思っているクレアを知らず、突然ピタリとは足を止めた。
「・・・さん?」
「・・・・・・クレア、気をつけろ。・・・来るぞ」
が言い切るか切らないかといった時に、二人の足元目掛けて一陣の風が吹いた。
「クレアっ!!」
はクレアに体当たりをするように飛んで、彼女の身体を抱えると、立っていた位置から数メートル離れた所まで転がる。
先程まで二人がいた位置は鎌鼬に切り刻まれて周囲のものがバラバラになっていた。
ずっとあそこに留まっていたら、身体が原形を留めていなかったかもしれない。
は素早く立ち上がり二本の双剣を鞘から抜き、導術を御見舞してくれたバイラスに向かって駆け出す。
「獅子閃紅!!」
バイラスを斬り刻んで、そのバイラスの血で獅子を作り出しぶつける。
断末魔を上げてバイラスが絶命する。
「さん後ろっ!!」
クレアが叫んで、はその方向を見た。十匹、二十匹を超える量のバイラスがを狙っている。
は迷うことなく自分の腕を斬りつけた。紅い鮮血が出ると同時に詠唱を始める。
「血塗られし槍を 我を仇と為す者への罰とせよ 静けき眠りに誘え ブラッディランス!!」
腕から流れる血が槍になって、バイラス達の足元にある法陣めがけ飛んでいく。
槍はバイラスを貫き、次々に絶命させていく。
そうやってが導術をぶつけていけばバイラスの数はどんどん減っていったが、彼女の体力も尽き始めた。
いつもなら流したって大したことのない量の血。
だが昨晩の疲れが溜まっているせいでかなり早い段階で貧血を誘ってしまった。
「・・・くそぅ」
続いての導術を放とうとする。
しかし視界が霞み、頭痛を起こしてその場に膝をついてしまった。
「さん!!」
クレアは倒れかけてるを見て、じっとしているのが耐えられなくなったようで彼女の元へ走った。
「やめろクレアっ来るなっ!!」
が叫んだと同時にバイラス達は風の導術を発動させた。
「・・・・・・・・・っ!!」
鎌鼬の直撃を覚悟したの身体は、突然グイっと引っ張られて宙へ浮く。
何事かと思い混乱しているの目の前を綺麗に三つ編みに結ばれた長い銀髪がサラリと通った。
「・・・・・・ヴェイグっ!?」
は状況を理解した。
導術にやられそうになった自分をヴェイグが抱えて助けたと言う事を。
彼女に名前を呼ばれたヴェイグは、が無事だと確認したらしく瞳を細めた。
「、何ともないか?」
「馬鹿っ!お前っ・・・私なんかよりクレアを・・・・・・っ!!」
ヴェイグの肩を掴んで身体を離し、視界を広げてクレアの安否を確かめる。
クレアは先程の位置には居らず、数メートル離れた所で倒れていた。
身体に草がくっ付いているのが見えるから、恐らく転がったのだろう。
クレアがあの導術を避けられるだなんて・・・と思っていると、彼女のドレスの端からザピィとハープがひょっこりと顔を出した。
「・・・・・・ハープとザピィが助けたのか」
「・・・後は、俺が片付ける」
ヴェイグはを降ろし、鞘から大剣を抜くと残りのバイラス達の方へ駆け出した。
ヴェイグ達の帰りを待っていたマオ達は森から出てきたクレアとザピィ、ハープを見つけた。
「アレ?クレアさん、ヴェイグとは?」
「しばらく二人にしておいた方が良いと思って置いてきちゃった」
フフッと笑ったクレアを見て、「あぁ、ヴェイグとは大丈夫なんだな」とマオ達は安心した。
ヴェイグとは背中合わせになって座っていた。
クレアは気を利かせて先に帰ったようだ。
「・・・傷は大丈夫か?」
「自分でつけた傷だ。別に痛くないし、もう塞がった」
「・・・・・・そうか・・・」
互いの顔が見えないので、互いの声から相手の感情を読むしかない。
しかし背中を預け合っている所から見ても、二人が怒っているという事はまず無い。
しばらく黙っていたが、はフゥと一息つくと、言った。
「ヴェイグ・・・・・・ごめん」
「・・・?」
「私は・・・ヴェイグのことをしっかりわかっていなかった。・・・あんなこと言って、すまなかった」
もし、本当にヴェイグが「クレアさえ良ければ」の思考だったら自分なんか放って置いてクレアだけを助けただろう。
ヴェイグはヴェイグなりによく考えて全てを行動しているのに、
クレアと一緒に行動していた事に少しばかり嫉妬して、酷い事を言った。
・・・・・・クレアを巻き込んで。
「・・・それを言うなら、俺も・・・すまなかった」
「・・・・・・」
「サレの事しか頭にないだなんて・・・は誰よりも周りに気を配っていてくれていたのに、俺は・・・・・・」
もう一度「すまない」と謝ろうとしていたヴェイグは背中に重みを感じる。
が身体を寄せてきたようだった。
「・・・・・・」
許してくれるのかと安堵の息をついたヴェイグを、は寝息を立てることで裏切った。
「・・・・・・寝てるのか?」
そういえばは徹夜で寝不足だとマオ達が言っていたかとヴェイグは思い出す。
それから、持って来ていたホーリーボトルを周りにふりかけて彼も目を閉じてやがて寝息を立て始めた。
森の木々の間から暖かい日の光が差し込んでくる。
絶好の昼寝日和。
ケンカ後晴れ
ヴェイグと夢主のケンカ話後編でした。
やっぱりうちの二人はほのぼのが一番。
そして夢主&クレアのコンビはやっぱり好きだなぁ。
クレアに結構冷たい態度取ってるのにクレアは全然気にしてなくて、それを見てため息をつく。
何だかんだ言って夢主もクレアに弱いと思う。
最強ヒロインクレアだね。