薄い光を放ちながら太陽が山の上に顔を出した。その弱い光によって、周囲の霧が薄れていく。



は硬い地面から腰を上げた。
昨日は街まで辿り着けなくて野宿だった。

皆戦闘で疲れていたようなので、交代無しにずっとが見張りをしていたのだが、
さすがに一夜中焚火と周囲を寝ずに見ているのは忍耐の強いホーリィ・ドールでも目が疲れた。


ぐいっと強く目を擦ると「キィ?」と心配そうにハープが鳴いた。


「・・・大丈夫だよ。そろそろ皆を起こすか?」


また、いつものように聖獣を探す一日が始まるんだ。と、は思っていた・・・。













が立ち上がったと同時に、その気配で起きたのはユージーンだった。

「む?朝か・・・」
「おはようございます。ユージーン隊長」
「あぁ、おはよう・・・、ずっと一人で見張りをしていてくれたのか?」
「皆爆睡でしたから」
「・・・すまん」
「いいえ?隊長は最近ずっと見張りをしていましたから疲れていたのでしょうし。気にしていませんよ」


がユージーンと話していると、アニーやティトレイらも次々に起き出す。






「・・・・・・ヴェイグ?クレア?」


寝ぼすけのマオが未だに起きないのは良いとして、全員が起きたかと思いきやヴェイグとクレアの姿が見当たらない。
昨晩までいた場所は『居た』とに教えるが如くに野草が潰れていた。二人の重みで潰れたからだろう。


でも、そこには二人の姿はない。




が不思議に思っていると、ハープが野営地の後ろにある巨木の方から彼女を呼ぶように鳴いた。



巨木の裏は、ちょうどと野営地から死角だ。
ハープにつられて巨木の裏へ行くと、探していた人物らがそこにはいた。



野営地から死角になっている巨木の裏で幹に寄りかかり、身を寄せ合うようにして眠るヴェイグと、アガーテの姿をしたクレア。
その二人の間に挟まってザピィが丸くなって可愛らしい寝息を立てていた。



何となく、本当に何となくだが、は頭の奥の方で「ピキッ」という音が聞こえた気がした。




いつも通りに無表情ではあるが、今のにはどことなく迫力があった。
しばらくして彼女の視線を感じ取ったのか、ヴェイグが長い睫毛を持ち上げて蒼い瞳を出した。




「・・・・・・・・・っ!?」


蒼い瞳は少しの間虚ろにぼぅっとしていたが、目の前の人物に気づき完全に覚醒する。
それでもクレアが崩れないように気遣いながら、ヴェイグは立ち上がった。



「・・・お目覚めか?」

の声は普段通りのよく通った抑揚のない声。

コレが彼女の『普通』。


だが血のような紅色の瞳は据わっている。そこは、いつもの彼女じゃない。






「・・・あら?さん、おはよう」


クレアも起きたらしく、目を擦ってからに挨拶をした。
しかし、彼女はクレアに挨拶を返すことなく、据わった瞳でヴェイグを睨んでいた。


「・・・どうしてこんな所で二人で寝ている?」
「あ、ごめんなさい。私がヴェイグに星の見えるところで寝たいって頼んだの。だから・・・」
「・・・団体行動を乱すな。お前達がいなくなったと思っただろうが」

据わった瞳で、今度はクレアを睨んだ。


「大体お前は戦えないんだぞ。私達から離れて、危険になる事くらいはわかるだろう?」
「・・・ごめんなさい」



クレアが反省しているというように、悲しそうに耳をシュンと下げて俯く。
そんな彼女の様子を見たヴェイグはスッと両者の間に入った。


、もうそのくらいで良いだろ?クレアはまだこの旅に慣れていないんだ」

ヴェイグの言葉に、は片眉をピクリと動かした。




「ヴェイグ、お前はクレアを特別扱いし過ぎだ。私達の仲間である以上、一人勝手なマネをされてたまるか」
「だからそれはクレアだって反省しているじゃないか。それに俺もいたんだぞ?」


いつものだったら「それもそうだな。まぁ二人共無事だったから良かった。次から気をつけろよ」と許していた事だろう。
だが今日は寝不足も手伝っていつもの平常心が欠けているには、いつもの事である彼の『クレア優先』も苛立ちの良い材料だった。


当然イラついて、反論した。


「お前を信じていないわけではないが、この辺のバイラスは強くてよく群れる。
 戦えないクレアを守りながら一人で大量のバイラスにお前は勝てるのか?
  そういったクレアさえ良ければの態度は明らかに良くないぞ」


そう言えば今度ムッとしたのはヴェイグの方で、言い返した。


だって、サレの事になると周りが見えなくなるじゃないか。お前の方がサレを特別視し過ぎていないか?」
「なっ・・・!サレ様は関係ないだろうっ!今はお前の話だっ!!」

「俺に注意をするなら、まず先にお前に手本を見せてもらいたいものだな」
「何ぃ・・・・・・!!」
「あ、あのヴェイグ・・・さん・・・・・・」


オロオロと戸惑うクレアを気にせず、とヴェイグは紅と蒼の瞳をキッと吊り上げて睨み合う。




「クレアクレアクレアクレア・・・馬鹿みたいだっ!」
「サレの事しか頭にないに言われたくはないっ!!」


「・・・っ!!・・・・・・何でわからないんだ・・・ヴェイグなんか・・・三つ編みで首を吊って死んでしまえっ!!」


ものすごい捨てゼリフを吐いて、は銀髪を翻して走り去る。









「あっ!待ってさん!!」


クレアはドレスを持ち上げるとを追いかけて駆ける。
ヴェイグがそれに気がついて彼女を止めるために手を伸ばした。


「クレア!待てっ行くな!!」


しかしクレアはすぐに遠ざかり、彼女を掴もうとした手は空を掴んだ。




「・・・・・・・・・・・・くっ!」

不機嫌そうにヴェイグは地面を睨みつけてその場に留まる。







足元にいるザピィとハープが首を傾げて不安そうに「キキィ・・・?」と鳴いた。


一度書いてみたかったケンカネタです。
少し長くなりそうなので前編後編で分かれました。

ヴェイグと夢主がケンカをしたら原因は絶対にクレアとサレだと思います。
好きな人よりも大切な人がいるっていうのは複雑でありながらイイ感じですねぇ・・・。
ヴェイグと夢主は例えくっついても、お互いよりもクレアとサレを優先するような
不思議なカップルになっていただきたい。とっても。

今回、夢主に言わせたかった言葉は
「クレアクレアクレアクレア・・・馬鹿みたい!」サレと一緒。
「三つ編みで首を吊って死ねっ!!」でした。(笑)