今日も相変わらずバイラスが数体現れた。だがが全て片付けた。
今日も彼女は『薄汚い人形』と罵られた。だがは涙一つ見せなかった。
今日ももう日が沈むので、野営を始めた。だがは男に混じって見張りをしていた。
は強い。自他共に認めるほどに。
その翌日、水上都市『サニイタウン』でヴェイグ達は宿を取った。
「じゃあ、今日はこの宿に泊まるからココに戻ってきてね。ハイ、かいさーん」
マオがはしゃいで言う。何せここ最近は野宿続きだった。
いつバイラスが襲ってくるかという緊張の中で眠るのだから早々安眠などできない。(・・・のは他の仲間達でマオは爆睡だった)
だからこそ宿に泊まれる事を喜ぶ。
温かい食事にフカフカのベッド。食事は美味いだろうか?また久々にティトレイと枕投げでもしようか?
宿でのプランを考えているだけでマオの心は弾んだ。
「・・・久々の街なんだもの、買い物がしたいわ。ティトレイ、アンタ付き合ってよ」
「どぉーせオレは荷物持ちなんだろ?」
「わかってんじゃない。行くわよ」
マオが今夜の計画を考えている間にヒルダがティトレイを引っ張って宿を出た。
「あの・・・ユージーン。一緒に散歩しませんか?」
「・・・俺で良いのか?アニー」
「ハイ。・・・ユージーンと一緒にいたいんです。・・・ダメ、かな?」
「いや・・・俺で良ければ・・・むぅ・・・」
ヒルダとティトレイが去ってからすぐ、微妙なやり取りをしてアニーとユージーンが宿を出た。
ついこの前のウォンティガの試練でようやく打ち解けたのだから無理もないかもしれない。
「・・・私も出かけるからな。マオ」
も肩にハープを乗せ、アニー達の後を追うように宿を出る。
その後ろ姿をヴェイグがじっと見ていると、クレアが遠慮がちに話しかけてきた。
「・・・あの・・・ヴェイグ・・・は、どうするの・・・?」
「俺か?俺は・・・・・・」
クレアに訊ねられて、ヴェイグは少し戸惑った。
・・・本当はと話がしたいと思っていたのだが、彼女はすでに扉の向こう。
今追いかけて「話をしよう」というのも何か変だ。
そのことをクレアに正直に話すのもおかしなモンだ。
「・・・・・・・・・することがない」
おそらく一番適応だろうと思った言葉をヴェイグは返す。
彼の答えを聞いて、クレアは「なら」と呟いた。
「なら・・・・・・の・・・・・・さんのところに行ってあげたら、どうかしら・・・?」
「の?」
「さん・・・一人だから・・・何かあったら危ないし・・・ね?」
「俺は構わないが・・・そうしたらお前が危ないだろ?」
ヴェイグから返ってきた言葉に、クレアが戸惑う。
「え?あ、わ、私?私は・・・平気よ。留守番してるわ。それに、外に出る時はマオ・・・と、一緒に出るから」
「・・・・・・わかった。行ってくる」
ヴェイグが歩き出すと宿のテーブルの上にいたザピィが彼の肩に乗ってついてきた。
クレアと一緒にいないのかと不思議に思いながら、宿の扉に手をかけた。
「・・・だって、だって女だもの・・・」
クレアは呟いて、窓を見た。ちょうどヴェイグが走っていくのが見えた。
一人の『女』として見られず一つの『生きる人形』として周りから見られる。
一人の『女』として見られず一人の『ガジュマ』、『国を統べる者』として想い人に見られていた自分と似ている。
・・・クレアはそう思った。
甘えたくても甘えられない。甘える術さえも知らないところまで、似ているのだと。
・・・・・・ミルハウスト・・・私がどうしたら、貴方は『私』を見てくれるの・・・?
悔しそうに苦しそうに『クレア』は唇を噛んだ。
ヴェイグはを探しているうちに街を出ていた。
サニイタウンは広いがほぼ隅々まで探してみた。
それでもいないのだから外にいるのだろうと思い、ザピィを連れて街の外へ出てみたのだった。
「・・・・・・いないな・・・」
日が暮れるまでには宿に戻ってこなければ危険だ。だからそう遠くへは行っていないと思う。
ザピィに匂いを辿ってもらおうにもこの辺は海に囲まれ潮の香りが強いので頼りになりそうにない。
どうしようかと悩んでいた彼にまるでこっちだというように何かが聞こえてきた。
「・・・きっと今も何処かで微笑んで―――――」
「・・・?」
ふとヴェイグは海岸の方を見た。綺麗な歌声が聞こえる。
その歌声に引き寄せられるように、海岸へ歩いていった。
歌っていたのはやはり自分の探していた人物だった。
いつも履いているブーツを脱ぎ捨てて、砂浜で踊っている。
時に打ち上げられる海水が足に当たり、水が跳ねた。
その水は雫になって飛び散り、太陽の光で小さな照明のように煌めいて舞う彼女を輝かせた。
彼女は本当に楽しそうで、普段見せない笑顔を浮かべながら踊っていた。
普段のとはまた違う美しさを見て、ヴェイグは魅了され呆然と立ち尽くす。
「君が生きた その証を―――――・・・・・・」
舞いながら歌っていたは舞いも歌もクライマックスというところでヴェイグを発見して、彼と同じように立ち尽くす。
・・・彼女の場合、ヴェイグに見られていた事に気づいて固まったという方が正しいが。
「・・・何でお前がココにいるんだ?」
「・・・いや、を探していて・・・」
「・・・・・・もしかしなくとも聞いていたか?」
「・・・・・・今の歌の事・・・か・・・?」
ヴェイグが『歌』と言うとは小さく唸って俯いた。
聞いてはまずかったのだろうかと思い、補うためにヴェイグは感想を述べる。
補うためとは言っても、ヴェイグの正直な感想だ。
「・・・綺麗な歌だったぞ。・・・・・・・・・聞いたらまずかったか?」
「・・・誰かに・・・聞かれたくなかった・・・」
俯いているの顔が赤くなっていることにヴェイグは気づいた。
相当恥ずかしかったのだろうか。
黙って聞いていたのは確かに悪かったが、邪魔してはいけないような気がしたし、
同時に彼女の歌はいつまでも聞いていたいと思えてしまうくらいに心地が良かった。
・・・もちろん舞いもいつまでも見ていたくなってしまう程に美しかったのだが。
「・・・すまん。そんなに恥ずかしがるとは思わなくて・・・・・・その・・・」
「あ、いや・・・!」
ヴェイグが本気で罪悪感を感じているのがわかったは隠していたい赤い顔を上げて弁解を始める。
「いやっ・・・そんなに思い詰めなくて良い!こんな誰かに見られそうな場所でこんな事していた私が悪いんだからっ!
それに、声をかけられるような雰囲気でもなかったんだよな?だから声をかけなかったんだろ?ヴェイグは何も悪くないからなっ!?」
あまりにも必死になって弁解をするが面白くて、ヴェイグは彼女に近づこうと歩み出す。
「キィッ!!」
歩き出したヴェイグの耳にザピィの悲鳴のような鳴き声が飛び込んでくる。
声がした方を見やれば、二人から離れた場所でザピィが三体のバイラスに囲まれていた。
ヴェイグは鞘から大剣を抜くと駆け出した。
だが砂浜に足を取られてなかなか早く進めない。
バイラスの一体がザピィに向かって襲い掛かった。
「ザピィッ!!」
「―――ブラッディランス!!」
いつの間にか詠唱していたの導術はザピィに当たることなく三体のバイラスを貫く。
バイラス達は悲鳴を上げて、絶命した。
「キキィッ!!」
ザピィの元へハープが駆け寄ったのを見ると大剣を鞘に収め、ヴェイグはを見る。
そして、同時に目を開いて驚いた。
「っ!?その傷・・・」
彼女の左腕を鮮血が滴っている。
右手には双剣のうちの一本が握られていたので、恐らくそれで左腕を斬りつけたのだろう。
『血のフォルス』は誰かの血がなくては使えないフォルスだから。
「・・・あぁ、あまりにも突然だったから少し深く切ってしまった。でもすぐ塞がるから大丈夫だ」
左腕から流れる血を見つめて冷静に言ったの元へヴェイグは駆け寄り、彼女の左腕を掴んだ。
「・・・深過ぎないか?血を止めた方が良い。このままだと貧血を起こす」
「だったらフォルスで血を固める。だから、心配しなくて良い」
言うと、左腕に右手を当ててフォルスを使って血を固めた。
右手を腕から離し、ヴェイグの手から腕を抜こうと力を込めるが、
彼はそれを遮ってなおも腕を強く掴んだ。
「・・・もう大丈夫だと言っているだろう?だから放せ。平気だから」
あまりにもヴェイグの力が強くて、が遂に右手を使って彼の手を掴んで放そうとする。
それでも腕を放さぬヴェイグは、空いている方の手で彼女の右手を掴んだ。
そのまま右手を包み込むようにギュウッと握り込む。
「・・・・・・お前は確かに強い。だが・・・・・・たまには甘えてみたらどうだ?」
「・・・・・・・・・『甘える』?」
が聞き返すと、ヴェイグは肯定して頷く。
「お前は確かに戦闘も心も身体も強い。・・・・・・でもたまに、辛そうに見える事がある。
なのにそういった時も、お前は平気そうな顔をする。・・・・・・そういう時ぐらい、正直に甘えてみたらどうだ?」
ヴェイグがそう言うとは顔を背けた。
だが、紅い瞳だけはしっかりと彼の方を向いている。
「・・・甘え方がわからない。いつ、誰に、どんな風に甘えれば良いのかわからない」
ヴェイグは彼女の右手を離して、空いた手を彼女の頬へ重ねた。
「いつでも良い。誰だって良い。どんな風だって良い。・・・弱い部分を見せることだってひとつの『強さ』だろ?」
「・・・・・・・・・私が・・・甘えても・・・良いのか・・・?私は―――」
「・・・・・・『ヒト』だろう?」
「ホーリィ・ドールなんだぞ」と言おうとしたの前に、ヴェイグが先に言う。
なかなか見せない柔らかい表情をしながら。
「・・・・・・本当に、甘えても良いのか?」
「あぁ」
「・・・いつでも良いのか?」
「・・・その場の空気にもよるが、大抵は良いと思う」
「さっきと言っていることが曖昧になっているぞ」
クスっとは苦笑して、ポスンとヴェイグの胸に頭を寄せた。
・・・実際はヴェイグの身に着ける鎧に頭を寄せたのだからゴンッと言う今の雰囲気には似合わない音が出たのではあるが。
「・・・甘えても、イイのだろ?」
「・・・・・・・・・・・・あぁ、それは・・・まぁ・・・」
少し硬くなって言うヴェイグには苦笑しながら目を閉じる。
鎧越しだが、ちゃんと彼の生きている温かみが感じられる。
温かみを感じて気分気分しているに対し、ヴェイグは顔を赤くしてどうしようかと手を宙に漂わせていた。
それを見てまるでため息をつくようにザピィとハープが「キィ・・・」と小さく鳴くのだった・・・。
後にはハープにだけそっとこう呟く。
「ヴェイグにだったら、たまに甘えるのも悪くないかもしれない」と・・・・・・。
1800番小鳥さんリクエスト「たまにはヴェイグに甘えてみる夢主」
話はウォンティガの試練クリア〜ベルサスに行っていないぐらいの間。
どの辺の何処にいさせよっかな〜と「ふぁいなるまにあっくす」開いて読んでました。
私、シャオルーンの「早くベルサスにっ!」って言う言葉を無視して
スールズ戻ったり河下りゲームしまくってたりした覚えがあります。
クレアの危機に何やってんだか・・・。