「キキィっ!」
「ん?私にくれるのか?ありがとう、ハープ」
の友達(ペットではないそうだ)のハープが、拾ってきた綺麗な木の実を彼女に渡していた。
何気ない一瞬だったが、パーティメンバーには何故かどうしても引っかかってしまったのである。
カレギアの中心、バルカ。周囲が霧に覆われていても人々の心は曇らない。
・・・などと表現できてしまうぐらいのバルカの活気の良さがティトレイは好きだった。
・・・まぁ、鬱蒼とした霧が年間の半分以上を覆うこの街に住みたいとは思わないが。
食材屋の前でティトレイは商品として並ぶ食物を眺めながら、呟く。
「そーいやはレモンが好きだったなぁ・・・。よっし、レモンパイ作ってやるか!」
ティトレイはレモンを数個手に取った。
昨日のハープを見たら、自分も何か彼女に贈りたくなったのである。
「、喜んでくれると良いなぁ・・・」
普段簡単に笑わない彼女がもし自分の贈ったプレゼントで笑顔を見せてくれたら、と考えるとティトレイは嬉しくなった。
「やっぱり笑っててほしいモンなっ」
「・・・あれ?ヒルダさん、どこに行くんですか?」
「小物屋よ。何だかに何かあげたくなったのよね。」
「あ、実は私もなんです。一緒に選びませんか?」
アニーも目的は自分と一緒だ。
ヒルダは了承して頷いた。
目当ての小物屋に到着し、ヒルダとアニーはに似合うアクセサリーを探し出した。
しばらく店内を見回っていた時、ふとアニーが花を模っている可愛い髪飾りを見つけた。
花の中心には小さなピンク色の石が埋め込まれる。
「あ、可愛い。ヒルダさん、コレなんかどうですか?」
「そうね・・・にはちょっと可愛過ぎるわよ。あのコは青色とかが似合うから、こんなのが良いんじゃない?」
そう言ってヒルダが手に取ったのは、青い石と紫色の石で構成されたネックレス。
掲げられた値札の金額のわりに、なかなか細かい装飾が施されている。
・・・しかし悪く言えば、所謂『派手』というヤツだ。
「そうですか?こっちの方が良いと思うんですけど・・・」
「いいえ。絶対にこっちよ」
ヒルダはそう言い切る。
バッサリと自分の意見を否定され、アニーはムッときてヒルダを軽く睨んだ。
両者の間にバチバチと閃光が立っていたかもしれない。
二人はそれぞれ選んだ商品を持ってカウンターに駆けた。
「「コレくださいっ!!」」
アニーとヒルダが小物屋で闘争を繰り広げていた時、マオとユージーンは仕立て屋でぬいぐるみを見ていた。
もちろん、へのプレゼントだ。
「なんかイイモノないかなぁ?に似合いそうな可愛いモノ。ユージーン、何かない?」
「ム・・・女性の好む物は、ちょっと・・・」
突然マオに意見を求められて、ユージーンが戸惑う。
その姿に呆れたような眼差しを向けるマオ。
「もぉ〜ユージーン、そんなコトで紳士なんていってられるの?」
『紳士』にこだわるユージーンは彼の一言に軽く傷ついた。
しかし、今のマオはそんな彼に気を使っている時間はなかった。今は何よりのプレゼントが最優先だ。
「ん〜でも何あげればいいんだろ・・・」
マオは他人に何かを贈った事がない。プレゼントと言えば大抵がもらう側にいる。
そのせいでプレゼントを選ぶのが困難になっているのは確かだが、
何より渡す相手が感情表現に乏しく、趣味がよくわからないなのがプレゼント選びをハードにしてしまう1番の原因だろう。
「う〜ん・・・の好きなもの・・・・・・サレ・・・ヴェイグ・・・レモン・・・ハープ・・・・・・あれ?」
ハープ・・・・・・マフマフ・・・。
「こっ、コレだ!コレだよユージーンっ!!」
それぞれが宛にプレゼントを購入していた頃、ヴェイグとクレアは街を出て、外で綺麗な石を拾っていた。
「クレア・・・街の外は危険だから、ついて来なくても良いんだぞ?」
「ありがとうヴェイグ。でも私、大丈夫だから。それにヴェイグを手伝いたいのよ」
ヴェイグがクレアを案じていたが、彼女はヴェイグに気にしないようにと言って、笑顔を浮かべた。
この笑顔をされてしまうと、昔から上手く言い包められてしまうんだと思い、そっとため息を吐く。
「この石・・・集めたら飾りをつけて、さんにプレゼントするんでしょ?」
クレアにいきなり確信付かれて、ヴェイグは石を落とすと同時に頬を少し赤く染めた。
「・・・・・・ふふっ、当たりねv」
「・・・・・・・・・何でわかるんだ、クレア・・・」
「だってヴェイグ、すごく嬉しそうなんだもの。ヴェイグのそんな顔、すごく久しぶり。
ヴェイグがまたその顔をできるようにしたのは・・・・・・さん、だもの・・・」
ニコリとクレアに微笑まれて、ヴェイグはまたため息をついた。
「・・・・・・皆何処に行ったんだろうな、ハープ」
は宿のロビーの一面を見回すが、ヴェイグ達は何処にもいない。
今日、は起きるのが遅かった。
多分、霧がかかっているせいで正確な時間が判断できなかったからだとは思う。
起きるのが遅かったといっても、時計を見た限りでは普段マオやティトレイがまだ寝ているぐらいの時間だ。
それなのに、男部屋をのぞいてみるとねぼすけのマオやティトレイがいなかった。
髪の手入れでもしているのだろうと思っていたヴェイグ達も姿を見ない。
つまり、起きてからはハープと2人きりなのである。
「買い物に行ったんだろうとは思うが・・・遅いな」
「キキィっ!!」
「うん、大丈夫。お前が一緒だから寂しくないよ」
肩に乗るハープを撫でて毛皮の感触を楽しんでいると、宿屋のドアが勢いよく開いた。
何事かと思いそちらを見る。
ヒルダとアニーがゼェゼェと息を荒くして腕に紙袋を抱えていた。
「さん!コレ髪飾りです!!たまにはその髪飾りを取ってこっちにしてみたらどうかなーと思って・・・!」
「だからそれは可愛過ぎるわよ、アニー!、ちょっとその古くさい首輪とってこっち着けてみてよ!」
ものすごい勢いで登場したヒルダ達に目を丸くしていたのもつかの間、
今度はティトレイが宿屋の厨房から、マオとユージーンが宿屋の部屋から現れた。
「、コレお前にプレゼント。レモンパイ作ってみたんだー♪」
「あぁっ!ティトレイっ!!にばっかずるいっ!!・・・・・・じゃなくて、にプレゼントがあるんだっ!!」
「・・・・・・・・・お前達いつ帰ってきてたんだ?」
「そんな事気にしない、気にしなーい。ハイ、コレ」
言ってマオが差し出してきたのは紫色のマフマフのぬいぐるみ。
「ちょうどハープと似たのがあったんだー。どぉ?」
マオが「ハープに似ている」と言うと、当のハープはの肩から降りてマオの肩に飛び乗る。
そして、肩の上からじっとぬいぐるみを凝視した。
「・・・・・・キーッ!キキィっ!!」
「・・・・・・似てない、って言ってるみたいよ、マオ」
アニーがハープの鳴き声を訳すとその通りだとハープが短く鳴いた。
「えーっ!?そうかなぁ?」
「うーん」と唸りながらマオは手に持つぬいぐるみと肩に乗るハープを見比べる。
マオ的にはどっちも同じに見える。
「・・・・・・で、。アンタ、私のネックレスとアニーの髪飾り、どっちを着けてくれるの?」
ヒルダが本題に戻すと、他も思い出したようでそれぞれに己のプレゼントを主張する。
「オレのレモンパイ、冷めないうちに喰ってくれよ?」
「、マオは一生懸命にお前へのプレゼントを考えていたんだ」
「ピンク色、絶対に似合うと思うんです」
「アンタには青が似合うのよ」
ずいずいと迫られては顔が青ざめる。
プレゼントがもらえることは嬉しい。
しかしこの状況はどれかを優先すればどれかを悪くしてしまう。
・・・落ちつけ!落ちつくんだ、私!お前は心を司るホーリィ・ドールだろ!!
この状況はどう打破する!?いっそ逃げるか!?どうする!?どうするんだ!?
彼女が一生懸命に悩んでいると、開いていた窓から強い風が吹いてきた。
・・・これこそまさに『神風』だろう。
風が吹いてくると思っていた瞬間、その風はを持ち上げると素早く窓から彼女を攫って行った。
「・・・・・・なに今の」
何が起こったのか訳がわからず呆然とマオ達はの消えていった窓を見つめる。
遅れて、ヴェイグとクレアが宿の出入り口から入ってきた。
彼の手には先程作った手作りのブローチが握られている。
「・・・・・・は?」
瞬きしてヴェイグは問うが、誰も答える事が出来なかった。
風に運ばれていただが、その風も操っていた者の前に来ると、ふわっと消えた。
突然風に解放され体勢が崩れそうになった彼女を、風を操っていた者、サレがしっかりと抱きとめる。
「やぁ、。久しぶり」
「サレ様・・・何故ココに?」
サレがバルカにいることは珍しいことではない。何せ彼は城に仕えているのだから。
そういうことではなく、何故バルカの隅に位置するような宿屋の付近にいるのかが気になるのだ。
「カレギアの辞書がまた城に潜入してね。ジルバ様に追いかけるよう命令されたから
適当に追い掛け回してココに来ただけだよ。そしたら、あんな古ぼけた宿に君がいるんだもんねぇ?」
フッと笑うサレは宿屋を見た。
今自分達がいるのは宿から大分離れた別の建築物の屋根の上だ。
が先程までいた宿は屋根しか見えてはいない。
まずヴェイグ達がココに気づくはずはないだろう。
「・・・ところで、何でさっきアイツらに迫られてたんだい?」
抱きしめたままサレは訊ねる。
が言うべきかと悩んでいると、サレはまた笑った。
「・・・『命令』だよ?」
「皆が私にプレゼントをくれたのですが誰の物が一番良いかと争いになったんです」
・・・悩んでいたが、『契約の首輪』を持っているサレが『命令』するとはあっさりと答えてしまった。
「へぇ、プレゼント・・・ねぇ」
「・・・サレ様?」
何か考えるようにサレが言うので、不思議に思いは呼びかけてみる。
と、彼はそれに反応してクスリと微笑した。
まるで今から悪戯をけしかける子供のような、愉しそうな笑みだった。
笑ってを見ると、サレは不思議そうに自分を見つめる彼女の額に自分の額を合わせた。
互いの前髪が重なってクシャリと音を立てる。
「プレゼントのコト聞いたら、僕も君にプレゼントをあげたくなったよ」
「サレ様が私に・・・ですか?」
目の前にあるサレの青い瞳を見つめる。
彼の瞳に自分が映っているのがわかる。
「受け取ってくれるかな?」
「はい。嬉しいで―――」
「嬉しいです」と答えようとしていたはサレの顔が自分の方へもっと寄ったことで思わず止めてしまった。
彼女の言葉が途切れたのと同時に、サレの唇がの頬に触れる。
・・・口付けられた。
彼女が驚いて身を強張らすとサレは口付けたままクスクスと笑った。
吐息が頬を掠める。
「・・・あの・・・サレ様・・・?」
「これが僕からのプレゼントだよ。ありがたく受け取っておくんだね」
フッと笑ったサレの顔はどこか嬉しそうに勝ち誇っていた。
1750番翼さんリクエスト「プレゼントを貰う」
シチュエーションと相手はお任せと言ってくださったので
ホントに好き勝手やらせていただきました。今回ヴェイグさんには出遅れていただいた(笑)
えーと、多分逆ハーでサレ落ち・・・じゃないかと思います。
サレ×夢主だとヴェイグ×夢主のようにほのぼのしませんね。
この二人は何やっても違和感なさそう・・・。
そのうち一緒にお風呂入っちゃいそうな気がします。
もしくはひとつのベッドで何の違和感持たず寝ると思います。
翼さん、リクエストありがとうございました。またどうぞよろしくお願いします。