今日は年に一度のクリスマスだ。

だから皆でパーティをしようということになった。
ポプラおばさんこと、ポプラがピーチパイをたくさん焼くと張り切っていたので
彼女のピーチパイをご馳走になるためにスールズに向かっていた事までは覚えている。





「・・・どこだココは・・・・・・」

大量の雪の中から上半身だけを出して、は呟いた。
ちなみに正確には、雪に埋もれて上半身までしか出せないのである・・・。













何故彼女が雪に埋まる事になったかと言えば、
最初の原因はエトレー橋で馬車同士が追突事故を起こして渡れなくなった事から始まる。


エトレー橋を塞がれてしまってはスールズに行けないと悩んでいた一同だったが、マオが一つの方法を思いついて言った。
「アルヴァン山脈を通ればいい」と・・・。


他に道はないのだからと仕方なしにアルヴァン山脈を通っていると・・・。





「ハーッハッハッハッ!!!」




そう。・・・不愉快なまでのデカイ声が聞こえてきたのだった・・・。












「・・・この声は・・・もしかしてぇ〜・・・」

マオが嫌そうな声を出す。ユージーンとヒルダがため息をつき、ティトレイとアニーが顔を見合わせた。
ヴェイグとはちらりと声が聞こえた崖の方を黙って見る。


崖の方を見ると冷たい雪山を道具も使わずよいしょよいしょと三人組が上ってきた。
登り上がった三人は「ふぅ」と一息ついてから、ヴェイグ達の前でビシッとポーズを取る。



「ハーッハッハッハッ!!漆黒の翼、華麗に参上!!」


「・・・全然華麗じゃないわよ」
「うっ、うるさいわねっ!」

漆黒の翼のギンナル、同じく漆黒の翼のユシアがそれぞれ大きな声で怒鳴った。


は一人黙る漆黒の翼、ドルンブを見て言った。


「大変だったな」
「大変だったでヤンス」

密かに彼の顔が赤くなっていたことは、ヴェイグとハープ、そしてここにいないサレには黙っていた方が良いだろう。




の声が聞こえて、ギンナルは指を指して彼女に宣言する。


「我々はサレ様のご命令でホーリィ・ドール、お前を連れ去る!ハハハッ!俺達が来たからには逃げられまい!!
 そうだろう?なんたって四星のサレ様が直々に推薦された有能部隊、漆黒の翼なのだからなぁっ!!」


「ただの使いっパシリじゃない」
「てゆーか、三人で『部隊』って言うのもなぁ・・・」
「だっ、黙れ黙れぇっ!!」


マオとティトレイにイタイ所を突かれ呟かれて、ギンナルが悔しそうに喚き叫ぶ。


さっさと追い払ってしまおうとが一歩踏み出すと、その前をヴェイグが遮った。


が相手にするような奴等じゃない。俺がやる」
「ヴェイグ・・・いや・・・気持ちはありがたいが・・・サレ様絡みとなると手を出さない訳には・・・」
「・・・・・・サレなんか・・・相手にするな」


ヴェイグが鋭く漆黒の翼を睨みつける。
リーダー、ギンナルはそれに少し怯えて一歩下がった。


「お、おぉっ?やる気か、やる気なのか?それならばこっ、こちらだって容赦はしないぞ?
 ・・・ホントだぞ?良いんだな?後悔しないな!?・・・・・・・・・よーしわかった!行くぞ、ドルンブ、ユシア!!」


「た、たっぷりといたぶってやるんだからっ!!・・・ホントよ?止めるなら今のうちよ??」
「行くでヤンスっ!!」


やる気たっぷりのドルンブがドーンと大きく四股を踏んで地面を揺らした。









・・・これが決定打だった。













ギンナル、ユシアの大声。(しかもギンナルは『声』のフォルス能力者だ)とどめにドルンブの四股。

これで雪山に何も起きないはずがない。











ゴゴゴ・・・と地響きのような音が聞こえたかと思ったら、今度は何かが上から流れてくる音。



例えるならば、濁流。















「・・・・・・雪崩だぁー――――――っ!!」


ティトレイが叫んだと同時に十人(+二匹)は仲良く雪崩に飲み込まれた。





































「・・・どこまで流されたんだ?私は・・・」

辺りを見回してみるが雪と、それの積もっていない硬そうな岩盤しか見当たらない。


マオ達は別の場所へ流されたのかもしれない。
唯一、ハープだけが自分の傍にいる。


そのハープは自分を雪から出そうと一生懸命、雪を掘って掻き分けていた。



「いいよ、ハープ。こんな雪、私の血で溶かしてやる」


は唇を切って血を出そうと思い、歯を立てる。



今まさに噛み切ろうとした時、彼女の埋まっている位置から少し上の崖から誰かが降りてきた。

・・・落ちてきたのかもしれない。




ボスッと鈍い音を出して着地したが、のように埋まる事はなかった。




「・・・・・・・・・ヴェイグっ!?」
「?・・・っ!無事だった―――・・・の、か・・・?」


上の断層から降りてきたヴェイグは、を見つけ一安心していたが、彼女の状態を見てその安心に疑問を持った。


「・・・無事に見えるか?」
「・・・怪我はしていないと思う・・・」

冷静に言い合うが、そんなくだらない事に時間を使っている訳にもいかない。

ヴェイグは雪をじっと見つめ、埋まらないコースを見つけるとそこを歩く。
雪に埋もれる事無くあっという間にの元へ行き、彼女を引っ張り出した。


「さすが北国育ちだな」
「・・・歩けるか?」

ヴェイグはの足を見て訊ねる。


長い時間雪の中に埋まっていたせいか、彼女の足はただでさえ白い肌なのにそれよりもさらに白くなっていた。
場所によっては変色して、紫色に近い部分もある。



「大丈夫じゃないか?冷たいとか寒いとか、そういった『感じ』はないし・・・」
「・・・それは・・・」

ホーリィ・ドールだからじゃないか?と言ってしまいそうになり、ヴェイグは慌てて口を噤む。


・・・もし、それを言ってしまったら自分は彼女を『差別』したことになってしまう。





「・・・・・・冷やし過ぎて感じないだけだろう。見た状態でも、かなり悪い・・・」

そう言ってから、の前に背中を向けてしゃがんだ。





「ヴェイグ?・・・何をしているんだ??」
「歩かせない方が良いだろう。・・・乗れ」


・・・つまり、「おぶってやる」と言っているらしい。





「大丈夫だ。一人で歩ける。早くマオ達を探そう」

言う事を聞かずに立ち上がろうとすると、ヴェイグはいきなり彼女の方を振り向き目の前の身体を横抱きにして持ち上げた。


驚いてと、二人を見ていたハープが悲鳴を上げる。


「おいっ!ヴェイグっ、何するんだ!!」
「無理して歩くつもりなら、このままマオ達を探す。・・・どうする?」

普段表情のひとつも変えないヴェイグが、ふっと目を細めた。

ただでさえ彼の端正な顔が目の前にあるのに、
そんな顔をされたらいくら彼に負けない程のポーカーフェイスを持つでも顔を赤くするしかなかった。





・・・こんな顔、ヴェイグに見られてたまるかっ!

しかもこのままの状態でマオかティトレイに会ったら・・・絶対に冷やかされる!!





「・・・わかった・・・・・・わかったから、おぶってくれ・・・」


そう言ったを、ヴェイグはそっと雪の上に降ろす。



「もったいないことをしたな」と思いながら。
























「・・・奴等のせいでとんだクリスマスだな」
「ああ。本当だったら今頃スールズでピーチパイを美味しく頂いているところだな」


はヴェイグにおぶられて、二人で話をしながらマオ達を探す。



「ピーチパイ、すぐに食べられなくて残念だな。ヴェイグ」

のよく通る声が背中越しに聞こえて、それが心地よくてヴェイグは小さく息をついた。




「・・・だが、俺はピーチパイがなくても、結構楽しいと思えてる・・・」
「何でだ?」

が「わからない」と質問した。







・・・今は、こうして二人だけでクリスマスを過ごせているから。



普段ではなかなか無い変なクリスマスを、こうしてと味わえているから。






「・・・・・・・・・」
「・・・ヴェイグ?耳が赤いぞ。寒いのか?」


今頃、『横抱き』ではなく『おんぶ』で良かったとヴェイグは思った。
耳だけではなく、顔も赤いのだから。






・・・照れてるなんて、言えるか・・・。





「・・・あぁ、少し」
「・・・・・・そうか」

クスリとの笑う声が耳に入ってくる。
聞こえたかと思うと、彼女が自分の方へ身体を預けて、頭を肩の辺りに寄せたのを感じた。



「・・・私もだ。・・・・・・少し、こうしていて良いか?」
「あぁ・・・別に構わない・・・・・・」






「ヴェイグ。・・・メリークリスマス」
「・・・・・・メリークリスマス、・・・」




二人はそれだけ言うとお互い黙ってしまった。





ハープは二人の行動を見て抗議の声を上げたくなったが、今日だけは我慢してやろうといった感じにそっぽを向いた。


普段笑顔を見せない二人が、背中越しで幸せそうに笑い合っていたからだろう。













歩き続けていると、いつのまにかアルヴァン山脈を抜けていた。


目の前のケケット街道の方から、こちらに向かって走ってくる数人の人達が見える。
彼らの足元には、一匹のマフマフ。



「ヴェイグーっ、ーっ!!」







とフライングはしてしまったが、最悪で最高のクリスマスの始まりだ。










































「・・・へぇ。じゃあを連れて来られなかったんだ」

漆黒の翼の前で、優雅に片手に持つグラスに入ったワインをゆらりと揺らすサレ。
ギンナル達三人は畏まって身を固くした。


「もっ、申し訳ありませんっ!サレ様っ!!」
「雪崩から逃げるのが精一杯で・・・」
「・・・・・・綺麗だったでヤンス」


チラリ、と三人を一瞥する青い瞳。


あぁ、その冷たい瞳が怖い事、怖い事。



「・・・・・・ふーん、そう。ご苦労様」
「「「(・・・・・・え!?お咎め無し!?)」」」


意外な対応に驚く三人。


「クリスマスだっていうのに、遣わせちゃって悪かったね」
「いっ、いえ、そんな事は・・・」


サレが立ち上がると、ギンナルの言葉が途切れる。



「・・・だからこれは、僕からのほんのクリスマスプレゼントだよ。・・・シュタイフェブリーゼっ!!!」



「「「ぎゃあぁぁぁぁぁ〜っ!!」」」




・・・最悪で最高のクリスマス?


1700番小鳥さんリクエスト「クリスマスをヴェイグと二人で過ごす」

・・・過ごせたかなぁ・・・?でもヴェイグ×夢主っぽくはなったと思う。
ホントは普通に街で買い物とかってコトも考えてたんですが、
うちの夢主だとそういったことよりこういう路線の方がしっくり来るんです。

私的には漆黒の翼が出せて満足しています。三馬鹿好き。
ちなみにドルンブの赤くなった原因は夢主が好きだからとかそんなじゃなくて
美人に弱いとかそーいったモンだと思います。

・・・ポプラおばさんの所まで書いた方が良かったかしら・・・?
最近気づいたが、どうやら私はサレと夢主を何かと絡ませたいらしいです。

小鳥さんリクエストありがとうございました^^