ノルゼンは寒い。


なんたって、年間の大半は雪に覆われているのだから。

なんたって、北国育ちの青年が風邪を引くのだから・・・。








「39度3分。ヴェイグさん、完全に風邪ですね・・・」

アニーがヴェイグの体温を測った体温計を見つめて言うと、まるでそうだと言う様にヴェイグが咳をした。

咳の仕方が、まさしく風邪。







何故彼が風邪を引いたかというと、事の発端は昨日になる・・・。










ヴェイグ達はバイラスに襲われていた。
それも一匹、二匹という数ではなく二十匹を遥かに超える数だ。


そんな大量のバイラスに襲われる原因となったのは、ティトレイがホーリーボトルとダークボトルを間違えて使用したから。



「もうっ馬鹿ティトレイ!ウィンドエッジ!!」
「間違えちまったモンはしかたねぇだろ!轟裂破!!」
「あんなどす黒い色と普通 間違えないわよ!ストーンブレイク!!」


全員がティトレイのミスを怒りたいのだが、
バイラスと戦っている最中なので技を出し合いながらケンカをしている。




とても忙しそうな状況だ。(事実忙しい)








!導術が使えるか!?」
「大丈夫だ!少し待て!!」


双剣を握り前線で戦っていたはマオやヒルダのいる後衛まで下がる。

精神を集中させ詠唱を始めた。



「血塗られし槍を我を仇となす者への罰とせよ 静けき眠りに誘え・・・ブラッディ―――」

っ!!」


あと少しで詠唱が完成するという直前で、ヴェイグが叫んだ。

何事かと思う時間も与えず、雪の結晶のバイラス、ネゴーモが突然足元に現れての足を掴む。
ネゴーモが足を掴んだと認識したのもつかの間、今度はドラスティルがに向かって鋭い爪を振るう。

咄嗟に双剣を前に掲げてドラスティルの爪をガードしたが、勢いがあまりにも強かった。



はネゴーモに足を解放されると同時に吹っ飛ばされて、冷たく凍てつく池に勢いよく落ちた。










気がついた時、彼女はずぶ濡れたヴェイグに横抱きにされていた。


恐らく彼が池に落ちたを助けたのだろう。
それをが理解した瞬間、ヴェイグは彼女を横抱きにしたまま勢いよく倒れた・・・。












つまりヴェイグは池に落ちたを助けるために冷たい水の中へ飛び込んだせいで風邪を引いたのである。















「アニー・・・。ヴェイグの調子はどうだ?」


宿屋でとったヴェイグの部屋へ、ハープを肩に乗せてが遠慮気味に入って来る。



「あ、さん。少し熱が高いですけど、心配はいりませんよ」


アニーは不安そうに訊ねるを安心させるように優しく言うと、ベッドで横になっているヴェイグに「ですよね?」と訊いた。

ヴェイグはの方を見て頷いたが、同時に頭痛が来たらしく苦しそうに眉を寄せた。



「・・・そうか・・・・・・あ、そうだアニー、ティトレイも倒れたんだ。診てやってくれないか?ヴェイグは・・・その・・・私が・・・看病するから・・・」
「え?それは良いですけど・・・大丈夫ですか?」
「・・・あまり自信は無いが・・・ヴェイグの風邪の責任は私にあるから・・・頼む」


アニーは彼女が感じている責任を理解して、肯く。



「・・・わかりました。でも、本当に無理な事があったら呼んでくださいね」
「ヴェイグは・・・それで良いか?」


が訊ねるとヴェイグは小さく頷いた。

それを確認して、アニーはティトレイの元へ行くため部屋を出て行った。




















「・・・寒くはないか?何か欲しいものはあるか?」

は不安そうな顔をしつつも手際良くヴェイグの看病を始めた。


部屋の隅でザピィとハープが心配そうに二人を見守っていたが、どうやら大丈夫なようだ。


水で濡らした布をヴェイグの熱い額に乗せたり、脈を計ってみたりととにかく手際が良い。
自信がないとは言っていたがそんなことはないようだ。


・・・・・・ずいぶん手際が良いな・・・・・・」
「え?あぁ、前にサレ様が熱を出した事があるんだ。その時も看病したから、だからじゃないか?」


その言葉に、ヴェイグは虚ろになっている瞳でじっと彼女の瞳を見た。







・・・俺はサレよりも後に看病されているのか・・・・・・。



あのサレも人並みに熱を出すということを聞いたのはなかなかの情報だが、
それよりも彼女がサレを先に看病していた事にヴェイグは少し不満を持った。


確かにサレと自分ではと一緒にいる時間があまりにも違うので仕方がない事なのだが、やはり不満を抱いてしまう。

に最優先で心配されるということは彼女の心が一時でも自分に向いているという事なのだから。





「・・・・・・・・・ヴェイグ?どうした、辛いか?」
「・・・・・・いや・・・何でも・・・ない・・・」


ヴェイグが黙っていたので心配になったは彼の額から布を取って、自身の手を布のあった場所へと置いてみた。
ヒヤリとした白い手が熱かった場所へと当てられて、ヴェイグは気持ち良い、と言葉にする代わりに瞳を閉じる。


「熱いな。布がもうぬるい」
「・・・冷たい・・・・・・」
「・・・少し寝た方がいいだろ?大丈夫だ、私の体温で冷やしているから」


ヴェイグは小さく頷いてから、彼女を見上げる。


・・・頼みがあるんだが・・・」
「ん?何だ、言ってみろ」
「・・・・・・ベッドに・・・座ってくれないか・・・?」


喉の痛みに耐えつつ、ヴェイグはに頼んだ。



言われた通りにが座れば、ヴェイグはベッドの上にある彼女の膝に頭を乗せた。



俗に言う「膝枕」である。






もちろんその行動には驚いたが、部屋の隅にいたハープはもっと驚いて奇声を上げて抗議する。


「ハッ、ハープっ!ヴェイグは風邪を引いているんだ!少し静かに――――!」
・・・・・・お前も・・・少し・・・・・・うるさい・・・」
「あっ!す、すまないっ!!」


膝の上から掠れた声で言うヴェイグに気づいて、は慌てて口を手で覆った。
は熱の出ているヴェイグと同等ぐらいに赤くなって、それが恥ずかしくなって彼から目を逸らす。





・・・なかなか可愛いな。




「・・・このまま・・・寝かせてくれ・・・お前の膝は冷たくて・・・気持ち良い・・・」
「・・・別に・・・それは構わないが・・・・・・お前の首は大丈夫か?」
「・・・・・・少し高いが・・・・・・・・・このまま・・・」


「このまま」まだヴェイグはしゃべっていたと言うのに、眠気に勝てなくなったのか瞳を閉じて眠りについてしまった。

風邪のせいで苦しいのか、寝息は整っていないが。




「・・・おやすみ、ヴェイグ・・・・・・」

膝の上で眠るヴェイグを見て、幸せそうには微笑んだ・・・。







先でも後でも関係ない。彼女の心が完全に自分の元だけに向くことはないかもしれない。
それでも今は、今だけは独占をしてもいいだろうか?




は、俺のモノだと―――――






















翌日、まだ熱が下がらないにしても体調が整ってきたヴェイグに対し、倒れたティトレイは大きなくしゃみをかました。

「うぅっ・・・寒気がずる・・・。オイ、アニー本当にオレ風邪引いてないのか?」

「えぇ、ティトレイさん。体調は万全ですよ」
「何とかは風邪を引かないって言うからね」
「馬鹿、バカ、ばかー♪ ティートレイ馬鹿でー風邪引かなぁーい♪」
「ティトレイ、くしゃみ一つで風邪と断定するのは難しいと思うぞ」



・・・・・・仲間達の復讐がさりげなく仕掛けられていた。


1300 小鳥さんリクエスト「風邪でダウンのヴェイグを看病する」

季節的に合っているせいか1分足らずで大体の話が思いつきました。
なのであとはパソコンでカタカタ・・・。わりと早かったな。
風邪には気をつけましょう。私は1年に3度は風邪を引きます。虚弱。

小鳥さんキリリクありがとうございました!